詰んでね?
白く、白くて、白色の、真っ白だった視界が次第に色がついて行く。
視界が白色なのは同じだが温かみのある白に、その中に茶色、水色、緑色、
そして暖かい光を放つ赤色。
手を伸ばせば届きそうなほど鮮やかな光るそれに近寄ろうとして──
"1歩踏み出した"
それを"認識"した途端、"目"を勢いよく開ける。
最初に見えたのは目の前を横切っていく【人の様な】姿をした者たち。
【人の様な】というのは目の前を通っていくもの達の姿が自分の知っている人間の姿とは大きくかけはなれていたため。
頭から大きな耳が生えてたりお尻の辺りから狐の様な尻尾が見えているもの。
肌の色が緑がかっているもの。
極めつけは人混みの遠くにちらっと見えた尖った耳を持つ女性。
「ここまであからさまになるとなんか負けた気分になるけど……」
やはり、ここはお決まりのやつをしなければならないだろう……。
「もしかして俺、異世界に召喚されちまったぁぁあ!?」
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「……詰んでね?」
先程この街の大通りで大声を上げ、周囲から奇異の目で見られた俺はそれでも気にせずに目の前で迷惑そうにこちらを睨んで来るおっちゃんに話かけた。
「情報収集は異世界召喚ものの基本だからな、確認することは──金と街の名前?とか、あと文字とかか。
よしおっちゃん、このリンゴいくら?」
「……何言ってんだ?おめぇ、冷やかしならとっととどっか行ってくれ、店先にいられると迷惑だ」
「……え?」
「え?じゃねーよ、めんどくせーな。ほらとっとといけ!店へ来るんならせめて金くらい持ってくるんだな!」
そう言うとそのおっちゃん、おそらく八百屋の主人の様な人が自分の服の襟を掴み、店から少し離れた路地裏の様な所へ投げられる
「……ったぁ、おい!お前いきなり何しやがる!」
そう男に怒鳴ってもその男は振り返らずにもとの店の中に入っていった。
【無視】された事実が少年の昂った心を鎮める。
「……まぁいい、とりあえず収穫はあった。少なくとも会話は行けそうだ、あのでけぇおっさんの言葉は聞き取れたわけだし、異世界召喚もののお決まり設定、翻訳機能はしっかりとあるっぽいな、そうだ、文字は……」
通りをぐるっと見渡す、少し上の方を向いて。
目当ては元いた日本では店の前に絶対にある文字、看板である。
それは探す間でもなくすぐに見つかる。
先程の八百屋の上の方に緑色の布に白色のペンキのようなもので見たことも無い文字?がある。
あれがおそらくあの店の看板だろう。
「んー、文字までには翻訳機能は無かったか。まぁ言葉さえ通じりゃ別にいいか、あ、そうだ今まで確認してなかったけど俺今何持ってんだっけ」
肩からかけたカバンの中身とズボンのポケットの中身を確かめるために地面に出す。
・スマホ(バキバキ)
・財布(お札が4枚にその他小銭が少々)
・弁当(おにぎり3個)
・レシート数枚
「俺ってばろくなもの1つも持ってなくね?」
スマホはもちろん圏外だし、さっき店の中にちらっと見えたものからして多分、というか絶対に日本円は役に立たない。
弁当は唯一役に立ちそうか、お腹減って苦しんでる王女さまとか目の前に通ったりしたらそれこそ神アイテムになりそうだ。
通らなかったらただ自分の腹を満たすだけになるが。
レシートはもはや論外。
役に立つビジョンが全く浮かばない。
「っとなれば」
ヤンキー座りしながら地面に並べた所持品見ていた時にもうひとつの可能性を思い出し立ち上がる。
「肉体的に何らかの加護とかあんじゃねーの?」
この異世界についてから体調はそこそこ良好だ、もしかしたら何か凄い力を持ったのかもしれない。
「周りの壁…を殴ったら怒られそうだな……、とりあえず地面に…、オラァ!」
地面に拳が勢いよく吸い込まれていき、ぶつかる。
その瞬間、地面にヒビが入り、砕け、地形が変わった……
り、することなく俺の右手は擦りむいた。
「……(多分)異世界ものによくある加護や鑑定とかは無い……」
鑑定は異世界ものの9割あると言っても過言では無いものだ、加護がなくとも強くなくても使える最強スキル、だがやはりと言ってはあれだが─
ポーズを取ったり叫んだり目に力を込めてもただ草が揺れるだけだったので俺にはそのスキルは無いのだろう。
今の状況を整理してみよう。
1.まず異世界召喚されました。
2.加護も力も役に立つ道具もありません
「……詰んでね?」
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「落ち着け、俺、こんなピンチの状況こそ異世界の知識を生かすべきじゃないか……」
異世界と言うと、魔法だろう。
「でも魔法っつうとだいたい誰かに教えて貰ったりしてできるもんだよなぁ、んーと?手を前に出して、【ファイアー】」
当然のごとく火の玉が出る気配は無い。
「……ついでにこの世界は空気を読まないっと、まぁこんなとこでうだうだしてても埒があかねぇ、とりあえずもっと情報集めねぇと」
床に散らばった持ち物をカバンの中に詰め込み、路地裏から大通りへの道へと顔を向けた時、
大通りから3人の男が口を歪ませながら歩み寄ってきていた。
やっぱ3人組がバランス取れてていよなぁ