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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第五章:介護士にできること
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介護士にできることー2

 ――ま、こうなるよな。


 予想はできていた。

「どうした?」

 浩司は足を止め、駿介と向き合う。

 お風呂場前に、二人だけが取り残される。

 駿介は硬い表情のまま言う。


「なにか、できることはないのでしょうか?」


 浩司は、やれやれと息を吐く。

「なにか、って?」

「いえ、その……」

 駿介は、口の中でもごもごと喋る。

 なにかしなければならない、なにかしたい――そういう気持ちはあるけれど、具体的な案は出てこない。

 そんな状態なのだろう。

 駿介本人も、妙案が浮かばない自分に苛立っているようだった。


 ――気持ちは、分からないでもないけどな。


 桐谷さんの境遇を考えれば、浩司とて、気持ちが揺れる部分はある。

 家族からぞんざいな扱いを受け、長年一緒に過ごしてきた介護士からも、なにもされず『入所が決まったのでさようなら!』となるのだ。

 なにか、最後にしてあげたいと思うことは、自然な感情だろう。


 それは、十分、理解できる。


 胸中ではそう思いつつ、浩司は別のことを言う。

「例えば、夏祭りに参加できるようにする、とかか?」

「あ……そう、そうです! 桐谷さんは、誕生日も近いですし、最後に、どうにかして参加してもらうとか――」



「無理だよ」



 早口でしゃべり始めた駿介を一蹴する。

 駿介には悪いが、無理なものは無理なのだ。

「夏祭りの案内状は、既に外部にも配っているし、その日程に合わせて準備も進めているだろ? 今更、夏祭りの日程をずらすことはできないよ」

「じゃあ、桐谷さんの入所日の方をずらすとか――」

「それは、俺らの仕事じゃないだろ。それに、確定したっていうことは、家族も了承したってことだよ。あの家族に、なんて説明するんだ?」

「それは……っ!」

 駿介から、キツイ視線を浴びせられる。


 この人はまた、正論ばかり並べて、頷いてくれない――とでも思われているだろうか。


「……」

 浩司は、駿介から視線を外す。

 駿介の気持ちに、間違いはない。


 けれど、不可能なのだ。


 もしも、夏祭りの日程自体をずらすとなれば、和田管理者の協力も得て、外部へ連絡をしなければならない。既に出欠を取っている御利用者や、ご家族への連絡も同様だ。

 夏祭りまで、一ヶ月どころか二週間もない状況で、そんなことは行えないだろう。

 また、入所日を変更するという案についても、それは、ケアマネージャーの仕事で、介護士の仕事ではない。

 百歩譲って、大原を説得できたとしても、大原だけを説得すれば良いわけではない。入所する予定となっている特養側の都合もあるだろう。それに合わせて準備を進めているはずだ。迷惑をかけることになる。

 家族からの了解も得た上で決まった日程を、介護現場からの提案で無理やりずらすなんて、聞いたことがない。

「通常業務に戻るぞ」

 浩司は、その場を離れる。

 できない言い訳をしているわけでも、正論だけを並べているわけでもない。

 事実として、多方面に迷惑がかかるのだ。

 駿介の気持ちを否定するわけではないけれど、先輩職員としてはどうしても、頷くことはできないのだ。

「……分かりました」

 駿介は、渋々ながらという様子だったが、一応、浩司に従ってくれた。

「排泄介助、お願いできるか?」

 浩司の指示にも、「はい」としっかり返事をして、業務へ向かって行く。


「……仕方ないんだよ」


 肩を落とす後輩の背中へ向けて、浩司はそう呟いた。

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