介護士にできることー1
「桐谷スミさんですが……来月、九月一日に解約、特養への入所が決まりました」
浩司は、その知らせを冷静に受け止めた。
驚きはしたが、桐谷さんの介護度を考えればいつ入所になってもおかしくなかったのだ。
――そっか。お別れか……。
哀愁の気持ちはある。
桐谷さんは、浩司が就職した当初からふれあい西家の御利用者だった。もう、四年以上の付き合いになる。
寂しく思わないわけではなかったが、だからと言って、特別な感情が沸くかと言われれば、そうでもなかった。
むしろそれよりも。
――九月一日ってことは……夏祭り、不参加だな。
気になったのは、夏祭りだった。
九月一日に契約解除になる、ということは、夏祭りの予定日よりも早い。参加できないことになる。
――残念だけど仕方ない、か……。
家族の問題はさて置き、御本人の参加は確定だと思っていた。
浩司とて、介護士の端くれだ。
誕生日がすぐそこまで迫っていることを加味しても、桐谷さんには少しでも楽しんで欲しいと思っていたのだ。
どうやら、それは叶わないらしい。
「――ということです。あと少しですが、皆さん、よろしくお願いします」
どこへ入所となるのか、当日までになにを準備するのか、オムツ類などの荷物をどうするのか等、細かい説明の後、大原はそう言って締めくくった。
心なしか、和田管理者と大原も、寂しそうに見えた。
長い付き合いになれば、それだけ情も沸く。
介護業界では日常的に『お別れ』の場面はあるけれど、それに耐えきれず、辞めてしまう職員もいる。
付き合いが長ければ長いほど、それぞれに思い出があり、抱く感情も多くなる。
「あのっ!」
と、浩司の隣から大きな声がする。
駿介だった。
目を向けると、
――あー……。
案の定、というべきか。
彼は苦々しい表情になっていた。
ただでさえ、桐谷さんの家族に対して、不快感を露わにしていたのだ。
思うところがあるのだろう。
「どうしましたか?」
「……」
和田管理者に問いかけられ、駿介は俯く。
言いたいことがあるはずなのに、言葉が出てこない。
そんな様子だった。
「……いえ、すみません」
奥歯を噛みしめる音が聞こえてきそうだった。
駿介は頬をこわばらせたまま、引き下がった。
「そうですか」
和田管理者の方も、あえて声をかけることはしなかった。
「では皆さん、話しは以上です。業務に戻ってください」
そのままの流れで、解散となる。
和田管理者の一言を受け、皆、通常業務へと戻っていく。
ようやく決まったね、とか、いざ決まると寂しいですね、なんて声も聞こえて来る。
やはり各々で、受け取り方が違うようだった。
浩司も、もと居た場所へ戻ろうと足を向けかけ――
「コージさん」
名前を呼ばれ、動きを止める。




