お盆と家族ー5
「――と、思うのですが、どうでしょうか? 御本人のことを考えれば、ご家族にもう少し、動いていただくべきかと思うのですが、間違っていますか?」
オムツが既に足りなくなっていること。
夏祭りへの出欠が確認できないこと。
連絡をしてもなかなか動いてくれないこと。
それら全てを含めて、どうなのか、と。
「なるほどな」
川瀬主任は、駿介の言葉に頷き、時には相づちを打って、真剣に聞いてくれた。
それから言った。
「それ、コージには質問したか?」
「へ?」
その返答は、全く予想していなかった。
予想外過ぎて、変な声が出てしまった。
慌てて、
「いえ、していません」
と答える。
川瀬主任は一言「そうか」と呟き、コーヒーに口をつける。
「……?」
質問の意図が分からなかった。
今、たまたま、オムツがないという事態に直面したため、手っ取り早く、一番頼りになりそうな川瀬主任に質問してみたのだ。
浩司を避けているとか、頼りにしていないとか、そんなことは考えていない。
浩司がいたならば、浩司に質問していただろう。
「……」
川瀬主任はなにかを考えるように、ゆっくりとコーヒーを飲み干す。
喉ぼとけが、上へ下へと動いていた。
「……」
それからさらに数秒、じっと待っていると、ようやく川瀬主任は口を開く。
「桐谷さんの家族の話、な」
「はい。御本人のためを思うなら、このままでは良くないと思うのですが……」
「そうだな」
川瀬主任は、うん、と頷き、
「それは分かるけど、ご家族の問題だからな」
さらりと、そんなことを口にした。
そして、駿介が次の言葉を発する前に「仕方ないこともあるよ」とキッチンから出て行ってしまう。
「え、あの――?」
呼び止めようとして、やめた。
フロアの方で、古俣さんがまた、何事かを叫び始めていた。
見れば、そこに滝野さんも加わり、ちょっとした騒ぎになっている。
「……なんか、マズかったかな?」
古俣さんをなだめている川瀬主任を見て、駿介は独り言ちる。
会話が止まってしまったのは仕方ないとしても、川瀬主任の反応は、これまでに比べると冷たい気がした。
話を聞いてくれなかったわけではないし、実際『仕方のないこと』なのかもしれないけれど、もう少し、別の回答を期待していた。
『浩司には質問したのか?』という問いかけも気になる。
川瀬主任にとって、気になることでもあったのだろうか。
「……いや」
そこまで考えて、首を振る。
――とりあえず、目の前の仕事をちゃんとやろう!
一度、考え始めると集中してしまうのは悪い癖だ。
川瀬主任が古俣さんの対応を行っているのだから、残っている仕事を終わらせるか? もしくは、古俣さんの対応を代わるか? 介護職員として、行うべき業務はきちんと行わなければならない。
「昼飯、作るか」
駿介は、よし、と気合いを入れ、昼食作りを開始する。
桐谷さんのことはあとでも良いが、昼食の時間がずれ込むのはよろしくない。
駿介は、不器用ながらも、じゃがいもの皮むきに勤しんだ。




