お盆と家族ー4
「……」
ひょっとしたら――御本人がもっとしっかりしていて、もっと元気ならば、家族の反応も多少は違うのかもしれない――。
なんて、そんな考えが頭をよぎる。
御本人が、家族の顔を見ると笑顔になったり、「ありがとう」とか「ごめんね」とか、なにか言葉を発したり、そういった状態であるならば――やはり、多少は違う気がする。
なにをしてもほとんど反応がないからこそ、家族も、気にしなくなっているのかもしれなかった。
「……」
それでも。
――握り返しては、くれるんだよな。
駿介がぎゅうっと手を握ると、ほんのわずかに、力が返って来る。
表情には現れないし、言葉もない。
けれど、ただ一つ、駿介が就職した頃から、あるいはもっと前から、桐谷さんの中に残っている『反応』だ。
これが反射的なものなのか、桐谷さんの意思によるものなのか、駿介には分からない。
分からないが、大切なことだけは、分かる。
桐谷さんは、生きている。
ここにいると、実感できる――実感させてくれる力が、残っているのだ。
「どうしてなんでしょうね?」
駿介は力なく、桐谷さんに問いかける。
介護士という立場上、家族との関係性は極めて薄い。
桐谷さんのように、ほとんど泊っているような場合だと特に、送迎業務がないため、家族と会う機会が限られる。
どうにかして家族に働きかけようと思っても、介護士ができることなど、ゼロに近い。
それは身をもって知っている。
――なにか、できることはないのかな?
怒り――というより、どこか悲しい気持ちになる。
祖母の介護をしている頃、大変だったし、苦しい想いもした。
もしも、柚希の支えがなければどうなっていたか……。
そんな想像をしたことは一度や二度ではない。
認知症の進行や、本人の状態によっては『面倒くさい』と思ってしまう気持ちも、分からなくもない。
分からなくもないけれど。
家族、なのだ。
いくら支援の輪が広がっても、家族が支えるべき場面、家族でなければならない場面は、どうしても出て来る。
「……失礼します」
駿介は退室し、汚れたオムツやパットを廃棄。
そのまま、川瀬主任のもとへと向かった。
「排泄介助、終わりました」
「お、ありがとう。助かった」
古俣さんの相手を終え、川瀬主任も一息ついていた。
御利用者からは影になる、キッチンの端に隠れてコーヒーを飲んでいた。
――桐谷さんの家族の件は、難しい事案だろうけど……川瀬主任なら、なにか良いアドバイスをくれるかもしれない。
駿介はそう思った。
この数ヶ月、川瀬主任は駿介が悩む度、的確なアドバイスをくれている。
もし、良い案がなかったとしても、駿介の意図を汲んでなにかしら、行動してくれるかもしれない。ひょっとしたら、思いもよらない解決策を出してくれるかもしれない。
そんな風に思った。
だから、素直に疑問をぶつけてみた。




