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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第四章:お盆と家族
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お盆と家族ー1

 特別養護老人ホーム――通称、特養とくよう

 介護老人保健施設――通称、老健ろうけん

 こうした『施設』と呼ばれる場所と、小規模事業所を始めとする、『事業所』と呼ばれる場所には、明確な差が存在する。


 その場所が、生活の拠点になっているか否か、である。


 特養や老健といった場所は、御利用者にとって、そこが生活の拠点となる。外へ出かけることがあったとしても、帰る場所は自宅ではなく、施設となる。

 対して、外へ出かけても、帰る場所が自宅となる場合――つまり、小規模事業所などで泊まったとしても、最終的に自宅で過ごすことが主体となっている場合、『生活の拠点は自宅にある』と言える。

 故に、小規模事業所等を利用しても『施設入所』とは言わず、単に『事業所を利用している』という状態になる。



 この視点は、介護職員だけでなく、御利用者家族にも持っていて欲しいものである――。



     ◆



「桐谷さんの家族から、まだ返事が来てないの?」

 ふれあい西家のフロア、テーブル席にて。

 浩司はため息交じりに問いかける。

 もうすぐ、お盆である。

 予報通り、今年の夏は連日、猛暑日を観測しており、室内にいても熱気を感じてしまう。

 浩司の問いかけに「そうなんですよ」と答える冴香も、首にタオルをかけ、汗を拭っている。ポニーテールの先端が、汗で湿っていた。

「案内状を出してから、かなり日にちが経っているので、そろそろ返事が来ても良い頃なんですけど……」

「電話して聞いてみるか?」

「それが一番早いかもしれませんね」

 テーブルを囲んでいるのは、浩司、冴香、駿介の三人である。

 話題は、夏祭りの出欠確認だ。

 今年の夏祭りは、例年通り、九月の頭に行うこととなり、三人は決定と同時に案内状を作成した。

 和田管理者や大原を始め、職員にも協力してもらい、関係各所へ送付、現在、その集計作業を行っている。

「このままじゃ、何も進まないですよね?」

 駿介の言葉に、浩司が応じる。

「そうだよ。出席者がはっきりしないと食事の数も決まらないし、座席表も作れないよ」

「もっと言えば、桐谷さんの場合、家族が来るなら、家族に食事介助を任せられるのか、排泄介助はどうするのか……? そういう問題も発生してくるね~」

 と、冴香が付け足す。

 外部からも人を呼ぶ大規模なイベントの場合、臨機応変な対応、というのも限度がある。


 例えば、普段であれば、御利用者分だけ作っている食事をどうするのか?

 弁当やオードブルなどを業者に頼むのか、職員がある程度手作りするのか? 桐谷さんのように、特別な食事が必要な場合、どうするのか? 食事介助は誰が行うのか?

 出席者の人数によっても変動するし、見栄えや味も、普段以上に気を遣わないといけない。


 例えば、排泄介助を誰が、いつ、行うのか?

 普段であれば、職員が時間を見て行っているが、大規模なイベント時は、来賓やご家族の相手もしなければならないし、当然、イベントの進行や裏方の業務も数多くある。

『その場に応じて』なんて言っていると、後回しになる可能性も出て来る。

 御利用者のためのイベントで、御利用者に負担を強いるようでは、本末転倒である。

 誰のためのイベントか分からなくなってしまうのだ。


 こうした問題は、家族が来ることによって『家族が対応できる』、となる場合もあれば、そうでない場合もある。出席者の人数や、人員配置によって、職員の動きも大きく変わって来る。

 特に理由もなく『出欠の確認ができない』というのは、職員側にとって、相当に困る事態なのだ。

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