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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第三章:見つめる先
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見つめる先ー10

     ◆◇◆



 ひんやりとした空気が肌に触れる。

「涼しいな」

 店内は、冷房の効いた心地良い空間となっていた。

 ふれあい西家から車で十分。

 いつものカフェである。

「えーっと……?」

 浩司はぐるりと店内を見回す。

 濃い茶色を主体とした内装と、オレンジ色の電球が、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 避暑地を探しに来たのか、今日は普段以上に人が多かったが、店の雰囲気もあってか、騒々しくはない。

 のんびりとした優しい空気が充満していた。

「あ、いた」

 浩司はお目当ての人物を発見し、テーブルへと向かう。

 一番奥の壁際の席だった。

「悪い、待たせた」

「いえいえ。お疲れ様です」

 にこりと笑う彼女は、浩司の一つ下の後輩、硯冴香だ。

 今日も今日とて、ポニーテールが元気よく揺れていた。

「古俣さん、落ち着きましたか?」

「落ち着いてはいないな。駿介が相手していたよ」

 腰をかけつつ、そんな会話をする。

 冴香は「あー」と頷く。

 そして、こんなことを尋ねて来るのだった。



「護人さんの方は、落ち着いていましたか?」



「……」

 浩司は一瞬考え、

「一応、な」

 そう返す。


 ――気になるよな。


 冴香の心中を察する。

 一ヶ月ほど前、駿介は、ある一人の御利用者に注意が偏り、警察や周辺住民をも巻き込む大騒動を起こしている。

 その時、最も近くにいたのが彼女なのだ。

 御利用者に関心が向くのは決して悪いことではないが、駿介の場合、極端なのだ。

 指導担当を任されている浩司にとっても、懸念事項の一つだった。

「さっきも注意して見ていたけど、古俣さんだけに集中している感じはなかったし、大丈夫だと思うよ」

「そうですか……」

「田島さんも、アドバイスしたらしいし、な」

 浩司がそう言うと、冴香は「田島さんが?」とびっくりしたような表情を作る。

 それから、


「だったら、大丈夫ですね」


 と、ようやく安堵の息を吐く。

 自身の目の前にあった、ふわふわのカプチーノを口にして、顔をほころばせた。

「……」

 その様子を見て、浩司は複雑な気分になる。


 田島に対する信頼度は、かなり高い。


 普段は『マイペースおばさん』なんて、皆で冗談交じりに言い合っているけれど、実際、田島の『介護に対する真剣度』は職員内でも一、二を争う。

 それこそ、川瀬主任と比べても遜色ないレベルなのだ。

 仕事の早い遅いはともかくとして、『御利用者へ寄り添う姿勢』に関しては、群を抜いている。

 田島は、誰よりも御利用者の気持ちを考え、誰よりも御利用者の立場に寄り添っている。

 だから、決して事故を起こさないし、ご家族や職員からも慕われているのだ。


 その田島が、アドバイスをした。


 良い方向に進むと思うのが自然だ。

 面倒くさがりで、今年度いっぱいで辞めると宣言している浩司が、「アドバイスをした」などと言うよりも、余程、安心できるだろう。

 それは、分かるのだが……。


「そう言えば彩峰さん、夏祭りの件ですけど――」


 冴香は、もう別の話題に切り替えようとする。

 もう駿介の『しゅ』の字も出てこない。

 完全に安心したようだった。


 ――………………。


 なんとなく、面白くない。

 浩司が、どれほど安心できるよう言葉を重ねても、こうはならない気がした。


 ――別に、いいけどな。


 冴香が悪いわけでも、田島が悪いわけでもない。

 強いて言うなら、浩司自身が悪い。

 日頃の行いの差だろう。

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