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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第三章:見つめる先
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見つめる先ー8

「……」

 駿介は、その笑顔を呆けたように見つめてしまった。

 たかが数分、されど数分。

 ほんの少し、言葉を交わしただけだったが、田島への印象ががらりと変わった。


 ――この人、ちゃんと考えてるんだ……。


 失礼ながら、普段の勤務態度から、田島のことを単なる『マイペースな先輩』としてしか見ていなかった。

 しかし、現実は逆。どころか、ひょっとすると、介護に関して、遥か高みに位置する人かもしれなかった。

 目線を合わせるだとか、言葉遣いに気を付けるだとか、特定の言葉を言わない方がいいとか、具体的な指導は一切ない。


 それでも、田島の回答は、駿介の深いところに突き刺さった。


 これまで駿介は、『正解』を探し続けていた。

 なにが正しいのか、どんなコミュニケーションが良いのか、食事介助の正しい方法はなにか、排泄介助はどうか、無駄な時間をどうやって省いたら良いか、事故が起こった時は……。

 そんなことばかりを思い悩んでいた。

 浩司は、それに応えてくれていた、と思う。

 その都度、浩司なりのアドバイスをくれていたし、それを受けて、駿介も少しずつ、成長できていた実感がある。

 『正しいやり方』というものはあるだろうし、『してはいけないこと』もある。


 じゃあ、『それだけ』で良いのか?


 それが、介護士の理想の姿なのか?


 駿介が憧れた介護士、柚希は、いつも祖母へ『寄り添って』いた。

 決して、『正しいやり方が○○だから、ここは○○しなくてはならない』なんて、そんなことは口にしていなかった。


 ――そう言えば……。


 いつだったか、川瀬主任からも『介護という仕事に正解はない』と言われたことがある。

 あの時とは悩んでいることが違うし、川瀬主任は田島と全く同じことを言っていたわけでもない。

 でも共通して、『正解がない』と言っていることだけは分かる。

 おそらく、浩司や冴香より、さらに上を歩いている人たちにとって、それは共通認識なのだろう。


 ――……そうか、だから、か。


 再び、浩司が口にしていたコトを思い出す。

 田島は、駿介の理想に近い、と。

 まだ、心から「その通りだ!」とは思えないものの、少しだけ、理解できた気がする。

 田島は決して『マイペースなだけ』ではないのだ。


「あ、お菓子食べる?」


 と、田島がテーブルの脇に置いてあったお菓子を差し出してくる。

 ご家族や、関係各所からいただいた差し入れの品だ。

 差し出されたのは、クッキーにチョコレートが乗った、スーパーなどでもよく見かけるものだ。

「いただきます」

「どうぞ」

 駿介が受け取ると、田島は嬉しそうに、にこっと笑う。

 近所に住んでいる気の良いおばちゃん、といった雰囲気である。

「これ、わたし大好きなの」

「美味しいですよね」

 口の中へ入れると、クッキーのサクサク感と、チョコレートの程よい甘みが広がった。

 なんとも、満たされた気分になる。



「まだ若いんだから、頑張ってね」



 田島はそう言って――


「んごっふっ!」


 盛大にむせ込み、顔を赤くした。

 数秒で涙目になる。

「大丈夫ですか!?」

 駿介は慌てて、水を汲みに立ち上がる。

 田島は「大丈夫!」と言いながらも、駿介から受け取った水をごくごくと飲み、

「んんっ! んんっ!」

 それでも収まらず、しばらくむせ込んでいた。

「……あはは」

 その様子を見て、駿介は笑ってしまう。



 きっと、こういう飾らない部分も、田島が好かれている理由の一つなのだろう。

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