見つめる先ー7
「……?」
眉を寄せる。
今の例え話から、突然「そういうことなのよ」と言われても困る。
話に一貫性がない。
駿介が考え込んでいると、伝わっていないことを悟ったのか、田島は「えっとね」と言葉を選びながら、説明を付け加えた。
「つまりね、ここでわたしが、古俣さんに対するコミュニケーション方法を答えたとしても、それは『わたしの答え』になってしまうよ、ってことなんだけど……分かるかしら?」
「えーと?」
分かるような、分からないような……。
前後の話から田島の言いたいことを思案する。
サングラスにモヒカン頭は極端だとしても――小柄な女性職員である田島に対する態度と、大柄な男性職員である駿介に対しては、反応も異なる。
田島なりの考えを教えてもらったとしても、御利用者側も、相手によって態度が変わる。
要は、『人間関係なのだから答えはない』ということだろう。
それはまあ、分かるのだが、
――なにかこう、技術的な指導とか、ないのかな?
理解した上で、そう感じてしまう。
就職してすぐの頃、浩司から滝野さんへのコミュニケーション方法として、様々な技術を教えてもらった。
どんな言葉が相手を不快にさせるのか、どんな態度が相手を不安にさせるのか。様々な指導を受けた。
田島には、そういう答えはないだろうか。
「ごちそうさまでした」
と、田島は空になった弁当箱の蓋を閉じる。
手を動かしつつ、田島は言った。
「わたしは、御利用者さんと職員が、お互いにお互いのことをよく見て、一緒に答えを探していくことが、コミュニケーションだと思っているのよ」
田島は、パチンと箸箱を閉め、それから駿介の顔をじっと見つめる。
真剣でありながらも、穏やかな空気感は変わらず――包容力のある声音だった。
「わたしは、福祉の学校を卒業しているわけじゃないから……たぶん、テクニックに関しては、あなたたちにもう負けていると思うの。そういう『技術』って、とても大切なものだから、逆に教えて欲しいと思うくらいよ」
でも、と田島は言う。
「でもね、コミュニケーションの本質は、そこじゃないと思うの。『誰かに寄り添って、通じ合っていくこと』が、コミュニケーションだと思うのよ」
「……つまり、技術に頼ってばかりじゃダメってことですか?」
「ううん、そういうことじゃなくて……。コミュニケーションを取る中で、きちんと伝わるように『一つの手段として』テクニックを使うことは良いと思うの。むしろ、どんどん使って良いと思うわよ? けど、本質を忘れちゃダメなのかなって、そう思うのよ」
「……」
「古俣さんへの対応で困っているのなら、今以上に、もっと古俣さんに寄り添って、古俣さんと一緒に悩みながら、答えを出していくことが大切なんじゃないかな?」
にこりと、田島は微笑んだ。




