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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第三章:見つめる先
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見つめる先ー6

「――ということなのですが、どう思いますか?」

「なるほどね~」

 田島は真剣に、駿介の話を聞いてくれた。

 うんうんと何度も頷き、そうよね、大変よね、と理解を示してくれる。

 その上で、田島はこんなことを言った。



「うーん……。どう対応するべきなのかしらね~」



 そして、箸でレタスをつまみ、咀嚼する。

「……」

 シャキシャキと良い音がした。

 実に美味しそうな音である。


 ――……え? 終わり?


 田島は頷くだけ頷いて、それ以上、何も言わなかった。

 いやいやいや、と駿介は戸惑う。

 川瀬主任にしろ、浩司にしろ、こんなことはなかった。

 なにか相談した時は――それが納得できるかどうかは別として――最低限、先輩職員としての意見やアドバイスをくれていた。

 何事もなかったかのように、レタスを食べ始めるなんて、そんな態度はアリなのだろうか。


 ――この人が、理想……?


 疑念が深まる。

 駿介が理想とする介護士像は、少なくとも、目の前にいるこの人ではないように思う。

 後輩が「悩んでいる」と言っている時、相づちだけ打って、それで終わりなんて、そんな『理想』はあり得ない。

 一体どういう――



「結局、人間関係だからね」



「え?」

 唐突に、田島は言葉を紡いだ。

 かと思うと、今度はトマトをパクリ。

 もぐもぐとゆっくり咀嚼し、ごくりと飲み込む。

 それから、また喋り出す。

「護人君は、御利用者と職員の関係って、どういう関係だと思っているの?」

「関係、ですか?」

「そう。よく、接客業なんかでは『お客様は神様』みたいに話されることがあるでしょ? じゃあ、御利用者と介護士の関係って、どういうものだと思う?」

 喋り終わると、田島はまた、箸を動かす。

「……」

 知ってはいたが、想像以上にマイペースな人だった。

 ひょっとして、答えようとはしていたが、口の中にモノを入れてしまったから喋ることができなかった、ということなのだろうか。


 ――よく分からん人だな……。


 そんな感想を抱きつつ。

 質問されたことを考えてみる。

 お客様は神様。

 それは確かに、よく聞く言葉だ。

 でも、それにしたって、実際のところは少し意味合いが違うだろう。神様だからといって、客側が無茶な要求をして良いわけではない。

 接客をする側の考え方の一つとして、そうした言葉が生まれたのではないだろうか。

 それと同じように――


 御利用者と、介護士の関係はどうだろうか……?


 対等、ではないだろう。

 少なくとも、介護士側はお金をもらっているわけで、それに見合う働き、支援をする義務がある。

 また、それとは別に、御利用者全員が『年上』ということもある。

 これは明確に、他の職種と違う部分である。

 高齢者施設における介護現場では、職員よりも年下の御利用者は、限りなくゼロに近い。

 自分より年齢を重ねている人に対して、間違っても『対等』などとは思わないだろう。

 基本的な介護姿勢として、御利用者へ敬意を持って接するように、というのは一般常識だ。

 つまり――


「わたしの考えだけどね」


 と、駿介が答えを出す前に、田島は自分の考えを話し始める。

 本当に、マイペースな人である。

「わたしは、そこにどんな立場があろうと、『人間関係』だということに変わりはないと思っているの」

「人間関係、ですか?」

「そうよ。わたしと護人君は、職場の先輩後輩かもしれないけれど、大きく捉えれば、『人間関係』でしょ? 介護士と御利用者も、それと一緒だと思っているのよ」

 随分、ざっくりとした考え方だった。

 そんなことを言ってしまえば、誰と誰を繋げたとしても、『人間関係』だと言えるのではないだろうか。

 なにが言いたいのか。

「古俣さんの話だけどね」

「はい」


「もし、古俣さんの前に立つのが、わたしたち介護士じゃなくて、サングラスをかけて無精髭を生やした、モヒカン頭の巨漢だったら、古俣さんは同じように『お願いします~』って言うと思う?」


「…………いえ」

 一瞬想像し、返答する。

 というか、そんな人が相手だったら、古俣さんでなくても躊躇するだろう。

 駿介だって、そんな人に甘えたいとは思わないし、そもそも、話しかけることすらしないだろう。


「だから、『そういうこと』なのよ」

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