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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第三章:見つめる先
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見つめる先ー1

 ふれあい西家にも、本格的な夏がやってきた。

 強い日差しが照り付け、カーテンを閉めていても、太陽光が室内に入り込んでくる。

 外気温は既に三十度を超え、少し動くだけでも汗が噴き出してくる。

 冷房をつけていなかったら、熱中症になること間違いなしだ。

 そんな、暑さばかりに目が行きがちな季節ではあるが――


「夏祭りって、なにをするんですか?」


 忘れてはならない。

 お祭りの季節である。

 浩司、駿介、冴香の三人は、フロアテーブル席に陣取り、夏祭りについて話し合っていた。

「その年によって違うけど……焼きそばとか、かき氷を出して、あとは、職員の出し物とかかな?」

「ボランティアの方に手品をしてもらったり、フラダンスを踊ってもらったりしたこともありましたね」

 駿介の疑問に、浩司と冴香が答える。


 夏祭りは、数多くある行事の中でも、最も規模の大きいものだ。


 他の行事は職員と御利用者のみで行われるが、夏祭りは外部の人間も呼ぶ。

 ボランティアや民生委員さん、普段からお世話になっている行政管轄のケアマネさんや、法人のお偉いさんを招待することもある。

 また、毎年、御利用者家族にも案内状を出しており、希望があれば、ご家族にも参加していただくこととなっている。

 総勢五十名以上が集まる、大規模イベントなのだ。

「そうなんですね。聞いているだけで楽しそうです」

 浩司たちの言葉を聞き、駿介は俄然、乗り気になる。

 御利用者のためとあらば、どんな労苦も厭わないのが彼の性分だ。

 当然の反応と言えた。

 対し、先輩二名の反応はというと、


「聞いているだけなら、な」

「そうだね~」


 ため息を吐く浩司と、苦笑いの冴香である。

 楽しい行事であることに違いはない。

 普段なら絶対経験できないことをいくつもできるのだ。

 鉄板の上で焼きそばを作ったり、電動のかき氷機を使ったり、大勢の人の前で出し物を披露したり――普通に生きていれば、なかなかしない経験をいくつもできるのだ。

 なかなか会う機会のない方々とも、親交を深める良い機会にもなるし、夏祭りは『交流の場』としても重宝されている。


 ただし、それは『参加するだけなら』、である。


 今回、浩司たち三名は、起案者として指名されている。

 起案者――つまり、行事全体の企画進行を一任され、他の職員への指示や、上司とのやり取り、さらには招待する外部の方々との橋渡し役も行わなければならない、重要な役職だ。

 

 はっきり言って、誰もやりたがらない業務の一つだ。


「とりあえず、大枠だけでもなにをするのか、決めようか」

「そうですね」

「分かりました」

 浩司が主体となり、起案書を作成する。

 冴香が書記としてボールペンを持ち、なにをするのか、誰を呼ぶのか、具体的に必要なものはなにか。

 そう言ったことを、思い付く限り書き出していく。

 夏祭りは、毎年、九月初頭に行われている。

 あまり暑い時期だと、お年寄りたちには酷だろうと、配慮された結果だ。ぎりぎり『夏』と言えそうな時期に設定されている。

 あと一ヶ月以上ある計算になるが、仕事量を鑑みれば、それでも足りないくらいだ。

 早急に、進める必要があった。



「お願いしま~~~~す!」



 当然、それは普段の業務を行いながら、である。

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