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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第一章:時間
69/105

時間ー4

     ◆◇◆



「硯さん、排泄終わりました!」

「ありがとうございます。記録も書いておいてください」

「分かりました!」

 午後、三時過ぎである。

 駿介は、トイレ誘導やオムツ交換といった排泄業務を終え、冴香の指示通り、手早く記録も済ませてしまう。

 まだまだ先輩たちの速度には敵わないが、自分なりに一生懸命、動いていた。

「えーっと……」

 次はなにをするべきか、フロアを見渡す。

 午後三時は、おやつの時間だ。

 おやつは、あらかじめ発注されたものを提供しており、日によって出されるものが違う。

 喉に詰まりやすい餅類はNGとされているが、それ以外であれば、多種多様なものが提供される。

 今日のおやつは、昔ながらの醤油せんべいだった。

 あちこちからパリパリという音が聞こえて来る。

 中には、既に食べ終えている人もいた。


 ――次は、送迎の準備、かな?


 駿介は、これまで教えてもらったことを思い出す。

 泊まりではない、『通い利用』の御利用者は、だいたい、三時半頃から自宅へ送ることになっている。

 これも、午前中の送迎と同様に、ご家族の意向から時間指定されているため、時間がずれこまないよう、配慮しなければならない。

 三時におやつを食べ、一服した御利用者から順々に、玄関に集まり、乗車していただく形となる。

 送迎業務を行う職員が中心となって動くのだが、必ず、誰かがやらなければならないという決まりはない。

 手が空いているのなら、その業務へ入るべきだ。


 ――でもなー……。


 しかし、そこまで理解していながら、駿介は逡巡した。

 本日、送迎業務を担っているのは田島だ。

 通常であれば、田島が中心となり、駿介が支援に入る形になる。


 ただ、その田島が、休憩から戻って来ないのだ。


 田島は二時半頃に休憩に入っている。

 一応、休憩は一時間取って良い決まりになっている。

 まだ戻って来ないのも、悪いことではない。

 ないのだが。


 ――普通、少し早めに戻って来ないか?


 駿介は、不満に思ってしまう。

 田島の休憩時間がその時間になってしまったのは、桐谷さんの食事介助が異様に長かったことが原因だ。

 そうでなければ、駿介よりも早く出勤していた田島が、駿介よりもあとに休憩に入ることなどあり得ない。食事介助がいつになっても終わらないため、冴香と浩司から、駿介が先に休憩に入るよう、指示されたのだ。

 その結果、送迎業務を担当するはずの田島が、ぎりぎりまで休憩に入っているという、今の状況に発展している。


 普通、自分が行わなければならない業務があるのなら、五分、十分くらい早めに休憩を切り上げるものではないのか?


 そう思ってしまう。

 しかも、遅れた理由は本人にあるのだ。

 何故、その尻ぬぐいを、他の職員が行わなければならないのか。

 駿介には理解できなかった。

 その上、


「駿介、そろそろ送迎に準備お願いしていい?」


 これである。

 浩司は、それが当たり前かのように、指示を出してくる。

 田島が遅れていても、誰も、文句を言わない。

 一体、どういうことなのか。

「はい、分かりました」

 返事はしつつ、駿介の行動は鈍かった。

 御利用者が持参してきたバッグをまとめ、玄関へ運び出す。

 意味もなく、田島のように、のんびりとした動きで歩いてみる。

 足元を確認し、ぎゅっと足先に力をいれ、ゆーっくりと歩く。

 一歩ずつ、一歩ずつ……


 ――……阿保らしいな。


 ほんの数秒で馬鹿らしくなり、やめる。

 これでは、逆に疲れてしまう。

「皆さん、送っていきますよ!」

 その後、帰宅する方々に声をかけて回る。

 そうして、帰宅する御利用者全員が玄関に集まり、準備を終えた頃――。


「あ、準備ありがとうございます~」


 田島が休憩から戻って来る。

 本当に、たっぷり一時間休憩に入っていた。

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