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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
目標
61/105

目標ー1

 澄み切った青空を見上げ、コーヒーを一口。

 微かな甘みと、コーヒー独特の苦みが喉を通っていった。

「……勝手に入れるなって何度言えば分かるんだ」

 茶色く濁ったコーヒーを見つめ、ぼやく。

 冴香がまた、浩司のコーヒーに細工をした。

 今回は、ミルクを入れられたところで阻止できたから良かったが、放って置いたら砂糖も入れられていただろう。

 彼女は決まり文句のように


「疲れているようだったので、甘いものが良いかなと思いまして」


 なんて言ってきたが、どこまでが本音か分からない。

 今度、仕返しにめちゃくちゃ苦いコーヒーを出してやろうと心に決める。


 ――良い天気だな……。


 空を見上げ、目を細める。

 浩司は今、ふれあい西家二階にある屋上で、一休みしていた。

 ちょうど、一階のホール部分が屋上になっている造りであるため、かなりの広さがある。

 温かい季節には、御利用者とお茶会なんかもする場所だ。

 落下防止用のフェンスにもたれかかり、もう一口、コーヒーを口に含む。

「不味くはない、か」

 ミルクだけだから、それほど甘味はない。

 一番好きなのはブラックだが、特別、不味いとも思わなかった。


 滝野さん脱走事件から、今日でちょうど一週間が経過する。


 それぞれが反省し、それぞれが事後処理に追われ、ようやく、気持ちの整理がついて来た。

 浩司にとっても『介護』との関わりを考える、良い機会になった。

 周囲との温度差や、自分の未熟だった部分を痛感させられた。

 一歩間違えば人死にが出ている案件で、『良かった』などとは口が裂けても言えないが、いろんな意味で『勉強になった』ことは間違いなかった。


 その中で二つ、消化し切れていないことがある。


 一つは、川瀬主任に関してだ。

 気になることがあった。

 川瀬主任の視野の広さは、言うまでもなく一流だ。

 浩司や冴香でも気付かない、微細な変化を誰よりも早く察知している。

 そんな川瀬主任が、


 駿介の動向に気付かなかったのか?


 ということだ。

 滝野さんが出て行ってしまったことは、想定外だっただろう。

 御利用者の笑顔を第一とする川瀬主任が、そんなことを許すはずがない。

 ただ『駿介が西坂さんに付きっ切りになっていること』は気付いていたのではないだろうか。

 事件当日はバタバタしていて、そんな考えには至らなかった。浩司だけが駿介の変化に気付いており、注意を払わらなかったから脱走事件が起きてしまった、とも考えた。


 しかし、思えば、浩司が謝った時の反応も変だった。


 事件集束後、浩司は『申し訳ございませんでした』と謝っただけだった。

 なにが、とは言っていない。

 だというのに、川瀬主任は瞬時に理解した様子で『次は、期待しているぞ』と返答してきた。

 もしも――



 もしも、全て理解していた上で、あえて放って置いたのだとしたら……。



 理由は一つしかない。

 浩司と駿介の『仲違い』だ。

 浩司はリスク管理を重要視し、駿介は御利用者本位を重要視していた。

 どちらも正解で、どちらも間違いではない。

 川瀬主任も把握していただろう。


 そこで、どうするか?


 滝野の脱走などという、重大事故までは予測できていなかったとしても、二人を中心に、『なにかが起これば』お互いを見直す良いきっかけになるのではないか、と考えたのだとしたら……。



 ――さすがに、考え過ぎか。



 いやいやと首を振る。

 いくら川瀬主任でも、そんなリスクのあることはしないだろう。

 なにかが起これば、なんて、そんなことを考えるとは思えない。

 そういう『見極め』に関しては、それこそ川瀬主任の得意分野のはずだ。

 川瀬主任にとっても、予想外の事態が重なったと考えた方が、まだ現実味がある。

 そんなことより、もう一つの疑問点の方が、余程、気になる。

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