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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第六章:滝野さんⅡ
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滝野さんⅡー13

     ◆



 事業所へ帰還すると、玄関先に人だかりができていた。

 和田管理者が集まってくださった方々へ頭を下げていた。

「この度はご迷惑をおかけし、本当に申し訳ございませんでした!」

 そんな声が聞こえて来る。

 ご家族や警察だけでなく、ほぼ関係のない、地域の皆様も駆けつけてくださっていたのだ。

 その、大捜索の果てが『事業所の倉庫にいました』なのだ。しかも、『探していませんでした』となれば、事業所の責任者としては申し訳が立たないだろう。

「……行こう」

「はい」

 浩司たちは、なるべく気付かれないよう、こそこそと事業所内へと戻る。

 糾弾して来るような人はいないだろうが、事業所職員として、立場がなかった。

 玄関で靴を履き替え、早足で廊下を渡る。

「お、戻ってきたな。二人とも、お疲れ様」

 フロアへ入ると、真っ先に川瀬主任が声をかけて来た。

 川瀬主任の顔にも、いつもの笑顔が戻っている。

「お疲れ様です。それであの、滝野さんは?」

 駿介が応じる。

 事業所へ戻る道中も、駿介は、風邪をひいていないかとか、どこかで転んでいないかとか、そんな心配ばかりしていた。

「ああ、今、お風呂に入っているよ。全身、雨に打たれて冷え切っていたからな」

「分かりました。ありがとうございます!」

 言うや否や、駿介はそのままお風呂場へ行ってしまう。

 あまりの速さに川瀬主任はぽかんとした表情になるが、浩司は苦笑いで見送る。


 ――まあ、そういうヤツだよな。


 見つかって嬉しいとか、ホッとしたとか、いくらでも他の反応があるだろうに、駿介は『滝野さんが今、どんな様子なのか』を最優先で考えている。

 本当に、心の底から、そういう人間なのだ。

「それにしても、よく見つけられましたね。誰が気付いたんですか?」

 お風呂場へ突撃していった駿介を横目に、川瀬主任へ問いかける。

 滝野さんが事業所の倉庫に隠れていることは浩司たちも予想したが、気付けたのは偶然に近い。

 一体誰がそこに気付いたのか。

 いざという時に頼りになる和田管理者か、それともやはり、ベテランの川瀬主任か。

「あー。それな、うん」

「……?」

 やや歯切れ悪く、川瀬主任は言う。



「実は、ハナ子が、な」



「………………は? ハナ子? 犬の? ですか?」

「そうだ。犬の、ハナ子だ」

「えーっと……?」

 理解が追いつかず、瞬きを繰り返していると、川瀬主任は順を追って説明してくれる。

「ちょうど、捜索を開始してから二時間になる頃かな。事業所周辺を回っていた美智子さんが、ハナ子と一緒に戻ってきたんだ。で、その時、ハナ子が倉庫の方へ向かって行ってな?」

「見つけてくれたんですか?」

「いや、その時は、美智子さんが引きずり戻したんだが……。そのあとも、ハナ子が倉庫を気にする様子があったみたいでな。それで、美智子さんも気になって、周囲の人に『あそこ、なにがあるんですか?』って聞いたみたいなんだよ」

「それで、気付いた、と」

「そういうことだな」

 そう言う川瀬主任は、実に珍妙な表情をしていた。

 不満が半分、ありがたい気持ちが三割、アホらしい気持ちが二割といったところか。



 ――……ハナ子、ね?



 実際、経緯を聞いた浩司も複雑だった。

 ハナ子――美智子さんは、駿介がいたからこそ、ここへ来たと言っても過言ではない。

 今回の一件は、駿介の連携ミスが発端となっている事件ではある。が、ハナ子が見つけたとなれば、駿介の努力が実って解決したようなものだ。

 最初から最後まで、『駿介に振り回されただけ』のような気がしてしまう。

「……」

「……」

 それから暫しの間、二人は穏やかに時間が流れるフロアをぼんやりと眺めた。

 一息ついた他の職員たちは、御利用者と歓談している。

 和田管理者の手が空くまで、職員には待機命令が出ていた。

「お、出て来たな」

「はい」

 数分後、滝野さんがお風呂場から出て来る。

 冴香と駿介に付き添われていた。

「大丈夫そう、ですね」

「ああ」

 見たところ、様子に変わりはない。

 普段通り、背筋をピンと伸ばし、問題なく歩行していた。

 時おり、笑顔ものぞかせている。

 つい先ほどまで、自分がどこで何をしていたのか、既に忘れているような顔つきだった。

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