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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第六章:滝野さんⅡ
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滝野さんⅡー12

「もしもし?」

〈もしもし、彩峰さんですか? 硯です〉

「ああ。どうした?」

 事業所を出て以降、捜索範囲が被らないよう、頻繁にやり取りしている。

 冴香とは、つい十分ほど前にも通話したばかりだ。

 なにか新情報でもあるのかと期待するが、


〈こっちは全然ダメです。彩峰さんは進展ありましたか?〉


 冴香の方も、何もないらしい。

 こちらの状況を伝えると、電話の向こうでも落胆の息が漏れる。

〈もう探す場所、ないですよ〉

「そうだよな。あとは、警察の情報を待つくらいか?」

〈進展があれば良いですけど……〉

 雨宿りしている可能性もあるのではないか、という線から、警察は『住居に侵入している可能性』を追っている。

 緊急時とはいえ、警察でもない人間が、他人の住居へ上がり込むわけにもいかない。

 警察の方々には、警察という身分を生かして、独自に動いてもらっていた。

〈でも、家の中ならともかく、農業ハウスとか、普段使っていない倉庫に入り込んでいたら、所有者でも分からないですよね。警察でも、簡単に見つけられないんじゃないですか?〉

「それはそうだけど……」

 浩司は同意しつつ、それを言い出したらキリがない、とも思う。

 農業が盛んなこの地域には、ハウスや倉庫といった、『その時以外は入らない場所』が多く存在する。

 滝野さんがそういった場所に入り込んでいた場合、見つけ出すのは容易じゃない。


 ――……なるべく、そうだとは思いたくないな。


 薄暗いままの空を見上げる。

 道路を歩いているのだとすれば、このまま捜索を続ければ確実に見つけられる。

 住居に侵入していた場合も、時間の問題だろう。


 もしも、そのどちらでもなかった場合。


 どれほど手を尽くしても、見つけられる保証はない。

 冷たくなった状態で、後日、発見されることになる。

「とにかく、捜索を続けるしかないだろ。こうして電話していてもしょうがない」

〈そうですね〉

「見つけられると信じよう。……無理はするなよ」

〈はい。そちらも〉

 互いに声を絞り出して、通話を切る。

「……」

 スマホの画面を見つめ、途方に暮れる。

 いよいよ、打つ手がない。

 捜索自体は続けるとして、それとは別に、覚悟を決めておく必要があるかもしれなかった。


 ――……倉庫に、農業ハウス、か。


 ここへ来る間にも、そういった場所は沢山見て来た。

 農家でなくても、一般の家庭にだって、倉庫の一つや二つあるだろう。

 そんなところに隠れられたら、把握は困難だ。

 しかも、弱まって来たとはいえ、この雨の中だ。

 倉庫の中を確認しようにも、並大抵の――



「…………倉庫?」



 と、そこまで思考を巡らせて。

 引っ掛かりを覚える。

「ひょっとして……」

 それはある意味、馬鹿みたいな考えだった。

 まだ『事業所内に隠れていた』と言われた方が、納得できるかもしれない。

 これだけ外を探し回って、何十人もの人間が集まって――なんで、気付かなかったのか。



 ふれあい西家にも、倉庫はある。



 駿介たちは、滝野さんがいなくなってから、事業所内にいないことを確認し、和田管理者や、浩司たちに声をかけている。

 その後、すぐに車に乗り込み、事業所外へと出発した。


 ふれあい西家の敷地内は、いつ、探した?


 探していないじゃないか。


 少し考えれば分かることだった。

 滝野さんが玄関から外に出ていないのであれば、そこはまだ、ふれあい西家の敷地内だ。

 『外へ出てみたものの、雨が酷くて雨宿りしている』と考えるならば、なおのこと、最も近くにある『雨宿りできそうな場所』は、事業所の倉庫しかない。

 倉庫は、玄関前を清掃するための箒やちりとりなども収納されており、基本的に鍵はかけていない。

 一時的に身を隠す場所としては、うってつけだ。


「なあ、駿介、一つ聞いていいか」


 浩司は、低い声で問いかける。

「事業所の倉庫は、探したか?」

「え? 倉庫?」

 尋ねられた駿介は、一瞬、きょとんとした表情になるが、



「あっ!!」



 浩司と同じ考えに思い至ったらしく、大きな声をあげる。


 ――ビンゴだ!


 駿介の反応を見て、確信する。

 現場にいた職員の中でも、最も真剣に探していた駿介が、気付いていなかったのだ。

 他の誰かが気付いているとは考えにくい。

「コージさん、すぐに連絡を!」

「ああ!」

 駿介に促され、スマホのホーム画面を立ち上げる。

 事業所の電話番号を立ち上げ――


「お!?」


 立ち上げようとしたところで、逆に、事業所から電話がかかってきた。

「……」

 鳴り響くスマホを見て、なにか、予感がした。

 駿介と顔を見合わせる。

「出てください」

「分かった」

 駿介も、同じものを感じ取ったようだった。

 張り詰めていた表情が、和らいでいた。

「はい、彩峰です」

〈もしもし、コージか?〉

 電話の相手は、川瀬主任だった。

 少し、声が上ずっていた。

 どうしましたか、と聞くと、川瀬主任は言った。



〈滝野さん、見つかったぞ! 事業所の倉庫にいた!〉



 かえって来た言葉は、思った通りのものだった。

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