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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第六章:滝野さんⅡ
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滝野さんⅡー11

 それは、どんな場所でも珍しくない、非常口を示すマークだった。

 緑色の人型がドアから飛び出していく、ありふれたイラストだ。


 ――ちょっと待てよ?


 その絵を見て、浩司はある疑問に思い至る。

「なあ、駿介、一つ聞いていいか?」

「なんですか?」

 浩司は立ち止まり、尋ねる。



「滝野さんは、どこから外に出たんだ?」



 そう言えば、確認していなかった。

 フロアには、キッチンで食事を作っていたとはいえ、川瀬主任がいたはずだ。駿介も、注意を逸らしていたかもしれないが、いなかったわけではない。

 ホールと玄関をつなぐ廊下は、そこそこの距離がある。

 滝野さんが玄関から外へ出たのだとすれば、さすがに気が付くのではないだろうか。

 一体、どこから外へ出たというのか。



「……? 居室の窓からですよ」



 しかし、浩司の疑問は、駿介に一蹴された。

 立ち止まった浩司を振り返り、駿介は早口に答える。

「居室の窓が開いていたのですよ。この雨ですから、閉め切っていたのは間違いありません。おそらく、そこから外へ出たのではないかと思います」

「そうか……」

「そう言えば、細かく説明していませんでしたね」

「ああ」

 頷き、浩司はがっくりとうな垂れる。

 もし、どこから出たのか分からないなら、『出て行ってしまった』と思い込んでいるだけで、ひょっとしたら事業所内に隠れ潜んでいるかも……と想像したのだが、考え過ぎだったようだ。

 確かに浩司も、窓を開けた記憶はないし、開ける理由もない。

 開いていたのだとすれば、滝野さん以外考えられないだろう。

 そもそも、滝野さんがいなくなった後、駿介たちは事業所内を探し回ったはずだ。何らかの理由で事業所内に隠れ潜んでいたとしても、誰かが発見しているだろう。

「……ふう」

 首を回し、肩に入っていた力を抜く。

 煮詰まってしまい、思考が鈍っているのかもしれない。

 パン、と頬を叩き、歩き出す。

 駿介から『しっかりしてください』という視線を受け、申し訳なくなる。

 駿介は、滝野さんがいなくなったその時から、ずっと動きっぱなしだ。浩司よりも、数倍体力を消費しているだろう。

「……」

 どっちが頑張っているとか、どっちが活躍したとか、駿介と張り合うつもりはない。

 駿介の熱意を肌で感じて、心変わりしたとか、そんなこともない。

 ほんの少し――。


 ほんの少しだけ、自分に足りない部分を、気付かされただけだ。


 先輩の自分が、めちゃくちゃな思考で場をかき回していては面目が立たない。

 駿介が熱意で動き続けるなら、浩司は冷静な思考で、先輩らしく、リードしたかった。


 ――もう一度、最初から考えてみよう。


 足は止めないまま、浩司は時系列を追う。

 疲れた頭でも、一から考えれば、なにかが生まれるかもしれない。


 今回の件はまず、浩司が休憩に入ったところが始まりだ。

 浩司が休憩に入ったあと、冴香が排泄介助へと向かった。

 次に動いたのは駿介だ。西坂さんが立ち上がったことから、その対応へと動いたらしい。

 その結果、フロア内が手薄になり、滝野さんが外へ出てしまった、と。


 こういう流れだ。

 その後、駿介たちは慌てて事業所内を探したが、滝野さんの姿を見つけられず、和田管理者と大原、次いで、浩司へと連絡。

 そこから先は、浩司も知るところだ。


 ――おかしなところはない……と思う。


 順序もはっきりしているし、連絡すべきところへ連絡できており、探すべきところも探している。

 やはり、このまま捜索を続けるしかないのか――


「ん? 誰だ?」


 商業施設を出て、車へと戻る途中、スマホが振動を伝えて来た。

 急いで車に乗り込み、画面を確認すると、冴香からの電話だった。

 駿介に断りを入れ、通話ボタンを押す。

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