滝野さんⅡー10
◆
冴香のこと、駿介のこと、お孫さんのこと。
じっくり考えたいことは多くあったが、それは全て、滝野さんを見つけてからだ。
「雨、弱くなってきたな」
「はい」
浩司はアクセルを強く踏む。
視界が開けたことで車の運転も楽になり、スピードを出しても見落とす可能性は低くなった。
聞き込み調査も格段に行いやすくなり、当初予定していたよりも随分早く、捜索を進められていた。
「……二時間になりますね」
車載時計をチラリと見て、駿介が呟く。
その顔には、焦りと疲労が色濃く表れていた。
事業所を出た時こそ決意に満ちた顔をしていたが、時間が経つにつれて、精神的な重圧が勝ってきたようだった。
――マズイな。いい加減見つけないと、本気で命に関わるぞ……。
焦りがあるのは、浩司も同様である。
捜索時間が一時間を超え、他人事ではいられなくなっていた。
「あそこ、まだ行ってないですよね。行ってみませんか?」
駿介の提案に頷き、ハンドルを切る。
目の前に現れた、ふれあい西家周辺では最も大きな商業施設へと向かう。
周辺住民からは『ここに行けばなんでもそろっている』と慕われる、評判のデパートだ。
ふれあい西家から、車で十五分ほどの距離である。
徒歩で来るにはやや遠い場所だが、もはや、滝野さんがどこにいるのか、見当もつかない。
目についた場所から全て探していくしかない。
道路や路地裏の捜索だけでは足りないのだ。人が入れる場所であれば、屋内であろうと、捜索する必要があった。
「俺は一階から行く。駿介は上から頼む」
「分かりました」
駐車と同時に、駿介へ指示を出す。
商業施設は三階建てだ。
二手に分かれた方が効率的だった。
「人が多いな」
入口の近くには、食品売り場がある。
雨が収まって来たことも影響しているのか、主婦の皆さんが列をなしていた。
ただでさえ時間がないというのに、余計に骨が折れる。
「寒っ」
野菜売り場から、肉、魚を売っているコーナーへと移る。
仕方ないこととはいえ、雨に打たれた体に冷気は酷だった。
「……」
一人一人、おばさま方や、年配の皆さんを注視していくが、滝野さんらしき人影は見当たらない。
乾物コーナー、お菓子コーナー、パン売り場まで回って、それでも見つからない。
「あの、すみません!」
「はい、なんでしょうか?」
店員に聞いてみた方が早いかと思い、声をかけてみるも、誰に聞いても判然としなかった。
店員の中には、防災無線を聞いて目を光らせている、という方もいたが、それらしき人は見かけていないとのことだった。
「お仕事中にすみませんでした」
「いえいえ。もし見つけたら、連絡しますね」
「ありがとうございます!」
お礼を言って、食品売り場を離れる。
フードコート、靴屋、アクセサリーショップと、目についた順に足を運ぶ。
「すみません!」
「はい、なんでしょうか?」
その都度、店員に声をかけて回るが、
「分かりません」
「いえ、ありがとうございました」
やはり、情報は得られない。
一階を回り終えても、どこにも滝野さんに繋がる手がかりはなかった。
「そっちは?」
「いえ、誰も知らないと」
「そうか……」
二階へと歩を進め、三階から降りて来た駿介と落ち合う。
そのまま二人で、書店や眼鏡屋など、残る店舗をぐるりと一周するが、結果は変わらなかった。
――これだけ探して見つからないなんて、あり得るか?
そんな疑問が、頭をかすめる。
施設内を回っている間に、捜索時間が二時間を超えた。
総勢、三十名以上の人員が、あらゆる手段を使って探し回っているのだ。
先ほど会った店員のように、防災無線を聞き、気を付けて周囲を見てくれている人もいる。
それでも目撃情報すら得られないなんて、いくらなんでも不自然だった。
「コージさん、他から、連絡来てないですよね?」
「ん? ああ」
スマホを取り出し確認するが、通知の一つも来ていない。
駿介も、首を傾げていた。
「とにかく、探すしかないですよね」
「まあな……」
違和感を覚えつつも、取れる手は限られている。
結局のところ、探すしかないのだ。
不自然だろうと、疑問があろうと、迷っている暇などない。
浩司は見落としのないよう、施設を出るその時まで、周囲へと目を配り――
「……ん?」
あるモノが目についた。




