滝野さんⅡー5
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事業所へ戻ると、予想以上の人数が集まっていた。
三十名近くはいるのではないだろうか。
滝野さんのご家族に加え、休日出勤となったふれあい西家の残りの職員や、近隣の別施設からの応援職員、近くに住んでいる民生委員さん、警察関係者、他、大勢の方々が集結していた。
駐車場には見覚えのない車がずらりと並び、それを見ただけでも異常事態であると分かる。
玄関には人がごった返し、緊迫感が漂っていた。
「あなた、大丈夫なの!?」
浩司たちが玄関へ入ると、見覚えのある女性が声をかけて来た。
濡れネズミになっている駿介を見て、駆け寄って来る。
「……?」
浩司はその人が誰か、すぐには分からなかった。
「あ、美智子さん。すみません、こんな格好で……」
一方の駿介は、すぐに木澤さんの娘さん――美智子さんであることを理解し、応じていた。
よく見れば、傍らにはお犬様もいらっしゃる。
美智子さんは、手に持っていたバスタオルで駿介の頭をがしがしとかき回し、ポケットから缶コーヒーを取り出す。
「ほら、飲みなさい」
「いえ、大丈夫です」
「いいから!」
断ろうとする駿介へ、強引に押し付ける。
「すみません」
「いいのよ」
苦笑いで受け取る駿介を見て、美智子さんは嬉しそうに笑う。
随分と親し気な様子だった。
「ところで、どうして美智子さんがいらっしゃるのですか?」
駿介が尋ねる。
警察や福祉関連の皆さんが応援に来るのは分かるが、無関係のご家族にまで応援を要請するはずはない。
浩司も気になるところだった。
こんな雨の中、わざわざ自宅から出向いてくれるなど、普通じゃない。
「なにを言っているのよ!」
しかし、美智子さんは笑う。
そして言うのだった。
「うちの子が、ふれあい西家の職員さんに声をかけられたって電話をかけてきたのよ。どんな人だったか聞いたら、体の大きい若い男性だって言うじゃない? 護人駿介君に間違いないと思ったの。それも、おばあちゃんを探していた、なんて言うから、ただ事じゃないと思ってのね。……駆けつけない方がおかしいわよ」
美智子さんは、やだわもう、と手をぱたぱたとさせる。
飼い主に呼応するかのように、ハナ子も「ワン!」と元気な声を聞かせてくれた。
「あなたたちには、普段から迷惑をかけているから、こういう時くらいはね。力になりたいのよ」
にこやかな笑みを浮かべ、美智子さんはそう言った。
おそらく駿介が声をかけた通行人の誰かが、美智子さんの息子さんだったのだろう。
一人でも多く人員が欲しい現状で、この応援はありがたかった。
――ありがたい、はずなんだが……。
浩司は、顔が引きつるのを感じた。
どこか、喜びきれなかった。
浩司にはない、駿介の努力、強い意志が、実を結んでいく光景を見せつけられた気がする。
「……」
すみません、ありがとうございますと、お礼を言う駿介を脇目に、浩司はその場から退散する。
美智子さんは、相手の風貌を尋ねたと言った。
もしそれが、駿介ではなく、自分だったらどうだっただろうか。
『護人駿介迷子事件』は記憶に新しい。
駿介の、不器用だけど一生懸命なところを、美智子さんは気に入ったのかもしれなかった。




