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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第五章:ドアを開ける男
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ドアを開ける男ー8

     ◆◇◆



 駿介は、怒りを堪えていた。

 カンファレンスを行うことに異議はない。

 冴香を殴り飛ばしたことを鑑みれば、他の御利用者への影響も大きいだろう。緊急を要する事例であることは明らかだ。

 御利用者の日常を支える職員として、どのように接していくべきか、全員で共有する必要があった。

 だからこそ。


 ――論点がずれてないか?


 駿介は、話し合われている内容に疑問を感じていた。

 浩司や冴香は、カンファレンスが開始されて以降、『西坂さんを他施設へ追い出すコト』を重視しているように感じる。

 大原や他の職員もそれを受けいれているように思う。


 ――その前に、話すべきことがあるだろうに……。


 駿介はそう思っていた。

 先日、川瀬主任から『ありがとうを引き出すこと』が介護士の目標ではないか、と言われた。

 それを受け、駿介はこう捉えていた。


 『常に御利用者の味方であれ』。


 冴香が殴り飛ばされたことから、女性職員に対応が難しいという意見は分かる。

 ならば、男性職員が傍にいれば良いではないか。

 川瀬主任と浩司と駿介。

 三人いるのだ。

 何故、早急に対応できないと結論付けるのか。


 そもそも西坂さんにとっての最良が不明瞭だ。


 西坂さんは若い頃、警備の仕事に就いており、ドアを開ける行為はその癖が残っているのではないか? との話は駿介も聞いている。

 ならば、執拗に「開けないでください」と声をかけるのではなく、もっと別の声のかけ方があるのではないだろうか。

 対応できないと結論付ける前に、介護士としてできることが残っている。

 対応が難しいからと、別の施設へ追い出すようなことをしていたら、この先、もっと難しい人が来た時、その人たちも全員、受け入れを拒否するのだろうか。

 本当にそれで良いのだろうか……?

 だから、駿介は発言した。


「西坂さんって、本当に対応できないのでしょうか?」


 駿介の一言で、場の空気が変わる。

 まとまりかけていた話を蒸し返したのだ。

 ヒリヒリとした視線を感じる。

 覚悟の上だ。

「西坂さんの対応が『難しいこと』は理解しています。でも、西坂さんにとっては、ドアを開けて回ることは仕事の延長線上で、なにもおかしなことではないんですよね。だったら――」

「だったら、どうするんだ?」

 強い語気で反論してくるのは、指導担当の浩司だ。

 また面倒なことを言い出した、とでも思われているのだろう。

「駿介も聞いていたと思うけど、さっきも『見回りはしましたよ』ときちんと声はかけていたし、トイレのドアであることも、女性が中にいることも説明していたよな。それ以上、どうやって説明すれば納得してもらえると思う?」

「ですから、その点をもっと話し合って、対応してからでも遅くはないのではないですか? と言いたいのですが――」

「そうやっている間に、誰かがまた殴られたらどうするんだ? 次は職員ではなく、御利用者が殴られるかもしれないんだぞ?」

「それは……」

 歯噛みする。


 ――いつもいつも、この人はっ!


 浩司は、事ある度に、『○○だったらどうするんだ』、『○○が起こったらどう責任を取るんだ』と口を出してくる。

 リスクがどうとか、責任がどうとか、それを理由に御利用者の『最善』を無視している。

 滝野さんが転倒した件に関しては、駿介にも非はあったし、木澤さんの入浴拒否に関しても、川瀬主任の説明で納得してはいる。

 してはいるけれど、


 全て、『川瀬主任の説明で』だ。


 毎回、浩司はそれらしいことを口にしているが、浩司本人にどれほどの能力があるというのか。

 ついさっきだって、御利用者に対して怒鳴り散らしていた。

 どんなことがあろうと、介護士が御利用者と同じ土俵に立って、喧嘩をするなど、あって良いことではない。

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