ドアを開ける男ー7
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和田管理者、川瀬主任、大原ケアマネ、浩司、冴香、駿介。他、本日、出勤している職員を含め、計八名で緊急カンファレンスが行われる運びとなった。
フロア右奥のお風呂場前である。
浩司はブラックコーヒー、冴香はカフェラテ、和田管理者、川瀬主任、大原は日本茶を飲んでいる。
駿介と他二名の職員は、スポーツドリンクを口にしていた。
「では、職員が付き添っていても、対応が難しいということで良いですか?」
大原が言う。
直接関わっている介護職員から事情を聞き、自前の手帳にメモを取っていた。
「そうですね」
冴香が応じる。
「大きな声を出したり、ドアを開けたりするだけならともかく、西坂さんは手が出るので……。少なくとも、女性職員では対応しきれないと思います」
その目には、確固たる意志が宿っている。
さっきみたいなことはごめんだと、目を見るだけで読み取ることができた。
「……」
異論を唱えるものはいない。
浩司も同じ気持ちだった。
大原は職員たちの様子を見て取り、すぐに結論を出す。
「では、ご家族に相談してみます。今現在、西坂さんは他施設への申し込みを行っていませんので、ふれあい西家では対応に限界があることをお伝えし、可能であれば、認知症対応型の施設等に入れるよう、手配します」
それでいいですか、と和田管理者、川瀬主任に確認を取る。
二人とも、「お願いします」と首肯した。
――まあ、こうなるよな。
冴香は、体格的には女性の平均か、それよりもやや大きいくらいなのだ。
冴香が殴り飛ばされたということは、小柄な女性職員はもとより、男性職員であっても、どこまで対応できるか不透明だ。
今回はたまたま被害が出なかっただけで、次、同じことが起こったらどうなるか分からないのだ。
事業所の方針として『対応不可』に偏るのも納得だった。
「…………」
そんな中、浩司はある人物の態度がずっと気になっていた。
カンファレンスが始まって以降、喋らないどころか、唇を開きすらしない。
そうかと思えば、腕を組んでみたり、腰に手を当てたりと、なにやら落ち着きがない。
手にしたコップをコツコツと叩き、苛立っているようにも見える。
普段、人一倍騒々しいだけに、視界に入る度に気になってしまう。
「えーっと、あと話し合うべきは――」
話を進めようとする川瀬主任も、彼の動向には気が付いているようで、なんだかやりにくそうだった。
何度も視線が彼の方向へ向いていた。
皆が眉をひそめていた。
「ええと、少しいいかしら?」
たまりかねたように、和田管理者が口を開く。
口元が引きつっていた。
「護人さん? なにか意見があるのかしら?」
声をかけられた駿介は、「え?」と驚いた顔をする。
自覚していなかったのか、それとも演技をしているのか。
どうして自分が指名されたのか分からないという様子だった。
「意見、ですか?」
わざとらしく駿介は聞き返す。
和田管理者が「そうよ」と言うと、これまたわざとらしく、咳払いをする。
そして彼は言った。
「西坂さんって、本当に対応できないのでしょうか?」
……議論が、振り出しに戻った。




