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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第五章:ドアを開ける男
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ドアを開ける男ー7

     ◆



 和田管理者、川瀬主任、大原ケアマネ、浩司、冴香、駿介。他、本日、出勤している職員を含め、計八名で緊急カンファレンスが行われる運びとなった。

 フロア右奥のお風呂場前である。

 浩司はブラックコーヒー、冴香はカフェラテ、和田管理者、川瀬主任、大原は日本茶を飲んでいる。

 駿介と他二名の職員は、スポーツドリンクを口にしていた。


「では、職員が付き添っていても、対応が難しいということで良いですか?」


 大原が言う。

 直接関わっている介護職員から事情を聞き、自前の手帳にメモを取っていた。

「そうですね」

 冴香が応じる。

「大きな声を出したり、ドアを開けたりするだけならともかく、西坂さんは手が出るので……。少なくとも、女性職員では対応しきれないと思います」

 その目には、確固たる意志が宿っている。

 さっきみたいなことはごめんだと、目を見るだけで読み取ることができた。

「……」

 異論を唱えるものはいない。

 浩司も同じ気持ちだった。

 大原は職員たちの様子を見て取り、すぐに結論を出す。


「では、ご家族に相談してみます。今現在、西坂さんは他施設への申し込みを行っていませんので、ふれあい西家では対応に限界があることをお伝えし、可能であれば、認知症対応型の施設等に入れるよう、手配します」


 それでいいですか、と和田管理者、川瀬主任に確認を取る。

 二人とも、「お願いします」と首肯した。


 ――まあ、こうなるよな。


 冴香は、体格的には女性の平均か、それよりもやや大きいくらいなのだ。

 冴香が殴り飛ばされたということは、小柄な女性職員はもとより、男性職員であっても、どこまで対応できるか不透明だ。

 今回はたまたま被害が出なかっただけで、次、同じことが起こったらどうなるか分からないのだ。

 事業所の方針として『対応不可』に偏るのも納得だった。


「…………」


 そんな中、浩司はある人物の態度がずっと気になっていた。

 カンファレンスが始まって以降、喋らないどころか、唇を開きすらしない。

 そうかと思えば、腕を組んでみたり、腰に手を当てたりと、なにやら落ち着きがない。

 手にしたコップをコツコツと叩き、苛立っているようにも見える。

 普段、人一倍騒々しいだけに、視界に入る度に気になってしまう。

「えーっと、あと話し合うべきは――」

 話を進めようとする川瀬主任も、彼の動向には気が付いているようで、なんだかやりにくそうだった。

 何度も視線が彼の方向へ向いていた。

 皆が眉をひそめていた。


「ええと、少しいいかしら?」


 たまりかねたように、和田管理者が口を開く。

 口元が引きつっていた。

「護人さん? なにか意見があるのかしら?」

 声をかけられた駿介は、「え?」と驚いた顔をする。

 自覚していなかったのか、それとも演技をしているのか。

 どうして自分が指名されたのか分からないという様子だった。

「意見、ですか?」

 わざとらしく駿介は聞き返す。

 和田管理者が「そうよ」と言うと、これまたわざとらしく、咳払いをする。

 そして彼は言った。



「西坂さんって、本当に対応できないのでしょうか?」



 ……議論が、振り出しに戻った。

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