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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第四章:介護という仕事
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介護という仕事ー3

     ◆



 和田管理者、川瀬主任、大原ケアマネ、浩司、冴香、駿介の六人は、事故が起こったお風呂場前に集まった。

 川瀬主任を中心にかたまり、事故は何故起こったのか、話し合いの場が持たれたが……。

「……」

「……」

 いつになく、空気が重い。

 起こってはならないことが起こったのだ。

 今、全員が予定外の行動を強いられている。

 川瀬主任は、来月の勤務表作成を行うため、和田管理者と調整している最中だったし、大原は、ご家族との電話対応中だった。

 他にやらなければならない仕事がある中で、突然呼び出されたとなれば、誰だって良い気はしないだろう。

 そしてなにより、浩司自身が一番、不満を抱えていた。


 ――なんでこっちまで怒られるかな……。


 川瀬主任は、おおよその状況を確認した後、駿介を問い詰めるよりも先に、「コージはなにをしていたんだ?」と尋ねてきた。

 まるで、浩司が悪いことをしたかのような言い方で、それが腹立たしかった。

 理屈の上では分かっている。

 駿介が事故を起こしたとなれば、指導担当である浩司にも、当然、責任が生まれてしまうだろう。

 それが組織であり、会社というものだ。

 だけど、今回の一件に関しては、その理由だけで責任を被りたくなかった。

 滝野さんが玄関で暴走した時のように、浩司がなにか見誤ったわけではない。今回、浩司がしたことと言えば、駿介に洗濯物干しをお願いしただけだ。

 洗濯物干しをお願いしたら転倒事故が起こるなんて、神様でもなければ予測できないだろう。


 ――なんなんだよ……くそ。


 駿介本人には気付かれぬよう、密かに睨みつける。

 木澤さんの件でのストレスも、まだ消えていないのだ。

 頭の中で、こういうこともある、仕方ない、と何度も唱えてみるが、それ以上に、駿介への不満が勝ってしまっていた。


「――他に、聞きたいことがある人は?」


 浩司の思いをよそに、話し合いは核心部分に到達する。

 先ほど、駿介から滝野さんが転倒した時の状況を詳しく確認した。

 トイレへ入った滝野さんが、思ったよりも早く出てきてしまい、物干し竿の足に引っ掛かり、転倒してしまった、と。

 目撃者が一人だけということもあり、滝野さんがどこを歩き、どのように転んだのか、物干し竿がどこにあったのか、シミュレーションも行った。

 川瀬主任は、疑問点がないことを確認し、駿介への質問に移る。


「護人君は、どうして転倒事故が起こったと思う?」


 浩司は、『分かりきっているだろう?』と駿介に視線を投げる。

 対し、まだ不安そうな表情のまま、彼はこう答えた。


「滝野さんは、お辞儀をしながら通り過ぎたので、足元の確認が疎かになっていたんだと思います」


「…………あ?」

 思わず、低い声が出てしまった。

「コージ」

「あ、すみません」

 川瀬主任に窘められ、慌てて謝る。

 が、驚いているのは自分だけではないと悟る。

 大原や冴香も眉をひそめ、明らかに困惑していた。


 ――阿保あほうか?


 心の底から、そう思った。

 これまでも、同じようなことを感じたことはあった。

 一度教えたことが上手く伝わっていなかったり、応用が利かず、何度も何度も同じようなことを繰り返したり……。不器用なタイプなのだろうと評価していた。

 ただ、今の回答は、器用とか不器用とかそういう話ではない。

 誰がどう解釈しても、事故原因は、


 駿介が物干し竿を移動させなかったこと、だろう。


 駿介の話によれば、彼は始め、滝野さんがトイレへ向かう際、物干し竿をきちんと脇に寄せていたらしい。しかしその後、物干し竿を少し動かしたという。

 それが、滝野さんにとっては障害物になったのだ。

 要は、面倒くさがらず、もう一度、脇へ寄せれば良かったのだ。

 たったそれだけの話だ。

 それがどうして、


 滝野さんが足元への注意を疎かしていた


 と、滝野さんに原因があったかのような言い分になるのか。

 自分に責任はないと言いたいのか、それとも本当に、ただの阿呆なのか。

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