滝野さんー1
デイサービス、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、グループホーム、ケアハウス、ホームヘルパーなど、老人向けの施設、サービスは多数あるが、ふれあい西家の分類は、
小規模多機能型居宅介護支援事業所
となる。
通称、小規模、又は、小規模事業所だ。
長ったらしい名前だが、簡単に言ってしまえば介護業界の『何でも屋』だ。泊まりでの利用も、日中だけの通い利用も、自宅への訪問利用も、オールオーケーである。
介護業界のコンビニと言えば分かりやすいか。
なんでもできるが規模は小さい。
そんな事業所だ。
ふれあい西家へ勤め始めて今年で五年目となる彩峰浩司は、今日も今日とて、介護に明け暮れる日々――
「お疲れ様です!!」
と、鼓膜が破裂しそうな、けたたましい声が響いた。
朝の八時である。
鶏の鳴き声だってもう少し控えめだろう。
「お疲れ様です」
「おはようございます! お疲れ様です!」
「二回言わなくていいよ」
「はい! すみません!」
やたらとうるさいこの男、護人駿介は、つい先日、ふれあい西家へ入って来た後輩である。
浩司が指導を託された新人だ。
「なにをしましょうか?」
駿介は挨拶もそこそこに、やる気満々の様子で尋ねて来る。
「ん、そうだな……」
浩司は、相づちを打ちながら、駿介の大きな体をつま先から頭頂部までじっくり眺める。
法人指定の白のシューズに、ベージュのチノパン、紺色のポロシャツ。新品のそれらに身を包んだ彼は、フレッシュさが二割増しに見える。
スポーツ刈りで、少し日に焼けた肌。加えて、早朝という時間帯もあってか、野球少年がそのまま大人になったかのような、妙な爽やかさがある。
「特にないようであれば、玄関を掃除してきますよ!」
駿介は目をキラキラさせてそう言う。
「あー……うん、じゃあ頼む」
「分かりました!」
言うや否や、駿介はダッシュで玄関へ向かおうとする。
「走るな! 危ないから!」
「すみません!」
返事の声すらも大きい。
一応、速度は落として、彼は玄関へ向かっていった。
「……疲れる」
見送って、浩司は一息つく。
駿介と出会って一週間。
毎日、こんなやり取りの繰り返しだった。
『皆さんのお手伝いがしたくて来ました!』
先日、目標を聞いたらそんな言葉が返って来た。
元気がないよりは良い。
耳の遠いお年寄りが相手であるため、介護職員は、快活に喋るタイプが好かれる傾向にある。例にもれず、駿介も、お年寄りからの評判は良い。
ただ駿介の場合、あまりにも元気すぎるのだ。
一週間も経てば収まるかと思っていたのだが、そんな様子は微塵もなかった。
「終わりました! 次はなにをしましょうか?」
五分ほどで玄関掃除を終え戻って来る。
彼は、既に次の仕事へ向けて意欲を高めていた。
「……」
浩司は頭を捻る。
今日は、なにをしてもらおうか。
この一週間、基本的なことをずっと教えてきた。まだ「一人で動いてみろ」と言うには早すぎるが、改めて、一から全て説明する必要もなくなっている。
指導経験がない浩司にとって、次になにを教えるべきか、悩みどころだった。
十秒程、じっくりと考え、
「よし」
浩司は指示を出す。
「今日は一日、コミュニケーションを取っていてください」




