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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第五章:介護士にできること
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介護士にできることー11

「――っ!」

 駿介の中で、なにかが切れた。


 ――この人は……っ!


 介護士だからとか、上司に言われたからとか、そんなことは一切ない。むしろ逆だ。

 そんなことは思っていないし、言われてもいない。

 無駄だと思っているのなら――無意味だと感じているのなら、最初からこんな提案はしない。

 他にもっと手をかけるべき人がいる?

 その通りだ。滝野さんや古俣さん、他にも、大変な御利用者は多くいる。本来ならそちらを優先するべきだろう。入所が確定している桐谷さんに時間をかけるべきではない。



 そんなこと、言われるまでもなく分かっている。



 それでも、桐谷さんのためにと動こうとしているのだ。

 血の繋がった自分の母のことに関して、無駄とか意味がないとか、なにを言っているのか。

 どういう家庭で、どういう環境で育つと、そんな思考回路が生まれるのだろうか。

 実の母親に対して、情というものがないのだろうか。

「あの、あなたは――!」



「駿介」



 文句の一つでも言ってやろうかと口を開いた、その瞬間だった。

 肩をつかまれた。

 びっくりして顔を横に向けると、いつの間にか、浩司が至近距離に立っていた。

「……」

「……」

 受話器は置いていない。

 明良さんとはつながったままだ。

 駿介も浩司も、言葉を発することは許されない。

 ただ、浩司の睨みつけるような視線から、意図を察することはできた。


 『それ以上、何も言うな』。


 駿介の反応から、会話の流れが良くない方へ動いていることに気付き、すぐそばで見守っていたのだろう。

 浩司らしい対応だった。


 ――くそっ!


 駿介は歯噛みする。

 あくまで、ふれあい西家の職員として電話をかけているのだ。駿介の独断で、余計な発言をするわけにはいかない。

 電話をかける前にも、浩司と『夏祭りの出欠確認をするだけ』と約束している。

 浩司の方が正しいのだろう。



 だとしても、一言くらい、なにか言ってやりたかった。



「……っ」

 肩に置かれた手に、さらに力がこもる。

 波打つ感情を見透かされていた。

 訴えかけるように浩司へ視線をやるが、より一層、鋭い視線が返ってきた。


 ――くそっ、くそっ!


 感情に任せてなにか言おうものなら、受話器を取り上げられるだろう。

 それほど、強く、迫力のある表情だった。

「……」

 この場で、これ以上の言動は許されなかった。

 駿介は燃え上がった感情を必死に抑え込み、


「分かりました。お時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした」


 それだけ口にして、静かに受話器を置いた。

 同時に、肩に置かれた手がゆっくりと離れる。



 ――……だったらっ!



 受話器を置いた数秒後、駿介は走り出した。

 居ても立っても居られなかった。

「おい!」

 浩司の制止は、当然のごとく無視した。

 あとで、どれだけ怒られても良い。

 そんなことは気にしない。

 今は、ただ、



 悔しかった。



 何もできないもどかしさが、胸の内いっぱいに広がっていた。

 明良さんに対する怒りもあるが、それ以上に、このまま終わらせたくないという気持ちの方が強かった。

 いつでも、どんな時でも笑顔で支えてくれた柚希のように――。

 なにか、自分にできることがあるはずだと信じたかった。

「くそっ!」

 息を切らし、走った先は、ふれあい西家の二階――。

 浩司よりも、川瀬主任よりも権力を持ち、説得できればそれで全てが進む――和田管理者と、大原がいる事務室である。



「失礼します!」



 駿介は、僅かな望みをかけて、ドアを開けた。


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