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結―ユウー  作者: 初雪奏葉
第五章:介護士にできること
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介護士にできることー10

「桐谷スミさんは、長い間、ふれあい西家で過ごされて――」

〈ええ、それに関しては感謝しております。それが?〉

「ですから! 長い間、一緒に過ごしてきた職員としても、『最後に夏祭りを楽しんでいただいてから……』という想いもありまして――」

〈……〉

「御本人さんが、どう思っておられるかは分かりませんが、私たちとしましても、楽しんでいただけるよう全力を尽くしているところです。ご一考いただけないかと思い、今回、連絡させていただきました」


 駿介は気を張り、最後まで言い切った。

 無理だろう、とは思う。

 駿介とて、突然こんなことを言われて「はいそうですか、分かりました」と頷くわけがないと思っている。


 それでも、我を通した。


 何と言われようと、これが『介護士、護人駿介』だ。

 昨夜、一晩考えて、ここだけは曲げないと腹をくくってきた。

 結果がどうであれ――



〈……ふーー〉



 と。

 電話口から、大きく息を吐く音が聞こえてきた。

 それはまさしく『ため息』と呼ぶにふさわしいもので、声を聞かずとも、返答が透けて見えた。

〈護人さん、とおっしゃられましたか?〉

「はい」

 駿介は覚悟する。

 明良さんの静かな声が、逆に怖かった。

 明良さんは最初から出ないと断言しているのに、もう一度考えてくれと無理やりお願いしているのだ。

 何と言われても仕方がない――



〈大変ですね、介護士さんも〉



「…………え?」

 聞こえてきたのは、予想よりも数倍、穏やかな声だった。

 怒られることも覚悟していたため、その声に――いや。

 違う。

 本当に驚いたのは、そこではない。

 なにが、大変だと?

〈介護士という立場上、そういう提案も、しなくてはならないんでしょう? ああ、もしかして……上司の方にそう言いなさいと、指導されているんでしょうかね?〉

「……」

〈ご存じかと思いますが、母は、なにを言っても、なにをしても、分からなくなっていますよね? そんなに無理をしなくても良いですよ。どうせ、分からないのですから〉

 明良さんは悪びれる様子もなく、そのまま続ける。

 自身の母を『なにも分からない人』と言い、駿介の厚意を踏みにじる。

 本心から、そう思っているようだった。

〈他の、もっとしっかりしている人を気にしてあげてください。母なんかより、時間をかけなければならない人はいるでしょう? 介護士という立場上、誰に対してもきちんと接しなければならないことは分かりますが、無視してもらって構いませんよ〉

 そして、明良さんはその一言を、口にした。



〈なにをしても、無駄ですから〉

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