介護士にできることー8
「……」
駿介は一瞬黙ってから、「いえ」と答える。
「自分は単に、もともと出席予定であった桐谷さんが出席できなくなることに関して、それで良いのか、ご家族にお聞きしたいだけで――」
「分かった、分かった」
浩司はひらひらと手を振り、面倒くさそうに言う。
表面的な理由など聞く気はないといった風だ。
「……」
「……」
二人とも、それ以上はなにも言わなかった。
どうすべきか考え込む浩司へ、駿介は視線だけで訴える。
概ね、浩司の言葉通りだ。
一晩中思考を巡らせても、浩司や冴香の言葉が引っ掛かり、消えることはなかった。
社会人として、介護士として、他人に迷惑をかけたり御利用者によって優劣をつけたり――それは、駿介の意にも反していた。
その反面、やはり「なにかしたい」という気持ちがあるのも事実だった。
田島にも、背中を押されている。
それならば、どうするべきか?
考えに考えた末、『家族の意志をきちんと聞く』――これが、最善だと思えた。
社会人としても介護士としても、自分の意思だけで動くことは間違っている。
けれど、ご家族から夏祭りに参加させたいという希望があるならば、それに沿おうと努力するのは間違っていない。
そう考えたのだ。
問題があるとすれば、尋ねたところで桐谷さんの家族が『夏祭りに参加させたい』と言うかどうかだが……聞く前から諦める理由にはならない。
オーケーがもらえるなら、大前提である『動く理由』がはっきりする。
これに賭けるしかなかった。
「いいぞ。電話してみろ」
「…………え?」
「え、じゃないだろ。確認して良いって言っているんだよ」
浩司は相変わらず面倒くさそうにしていたが、否定しなかった。
いいぞと言ったその顔は、曖昧な笑顔ではなく、明確な苦笑いへと変わっている。
あまりに簡単な返答で駿介は面食らってしまう。
「本当に、いいんですか?」
思わず聞き返すと、「くどい」と一蹴される。
「どうせ、駄目だと言っても引きさがらないだろ」
「……」
「ただし、余計なことは言うなよ。相手は家族だぞ。夏祭りの出欠確認以外は口にするな」
やってみろと言いつつ、しっかりと釘を刺してくるあたりは、リスクを重視する浩司らしい。駿介のことをよく理解している。
「分かりました」
はっきりと返答し、とりあえず決着となる。
「……」
駿介は一呼吸おいて。
――よしっ!
気合いを入れ直す。
ここからが、本番だ。




