サンドラ家改善奮闘録 その2
少し時間が空いてしまい、すみません。
まだまだ自粛が続きそうな今日この頃。皆様身体を大事になさってくださいね。
私は風邪こそひかないものの、運動不足に悩まされています。最近は怖くて体重計に乗ってないデス。困ったね。
投稿出来た事が嬉しくてタイトル直し忘れてました。大変失礼しました。
さて、次に継母様に関してだが。
「ちょっと!アナタ私の娘達に何やってるのよ?!」
「はい、お継母様にはこちらの洋服の手直しをお願いします。義姉様方が掃除や運動の際に使用する洋服ですので、動き易いようにお願いします。」
詰め寄って来た継母様との間に洋服の詰まった籠をドサリと置いた。これは義姉達のドレスの中から見繕ってきたものである。洗濯籠にミチミチと詰まったドレスは義姉達の持ち物のほんの一部だ。豪遊してたとは聞いたけど、どれだけ買い込んでるんだか。ドレス部屋って初めて見たわ。
「ちょっと!私は娘達の事を・・・」
「その件に関しましては私が全権を握っています。」
「っ!!」
「どうしても話し合いたい事がありましたら、与えられた仕事をこなして頂けますか?それからなら話し合いに応じなくはないですよ。」
「私に繕い物をしろというの?!」
「別にしなくても構いませんよ。但し、貴女方の生殺与奪の権限は私が持っていますけどね。」
「くっ、覚えてなさいよ!!・・・って、何よこれ!重っ、い、じゃ、ない、のっ!!」
衣類がみっちり詰まった籠を引き摺るように運ぶ継母様を見送って私は踵を返した。向かった先は書斎。そこには既にジョセフさんが準備していた。
「お待たせしました。宜しくお願いします。」
「いいえ。では、はじめましょう。本日は貨幣についてご説明させて頂きますね。」
そう言ってジョセフさんが話してくれた事を私は日本語で紙に書き綴っていく。
そう、私は今この世界の事を急ピッチで勉強中なのである。これから色々な人に関わっていく上で、マナーや社会についてエラちゃんが知らずとも「家が貧乏で学ぶ機会を逸した」で何とかなるだろうけど、暦や貨幣制度、現在の王室、住んでいる国についてなどの社会常識が抜けているのはおかしい。
特に継母達には「ブチ切れて開き直ったエラちゃん」で多少不自然でも無理に押し通しているので、記憶が無いと分かれば継承権を剥奪すると脅した事がハッタリだとバレるかもしれない。
しかし、常識を学ぼうにも講師なんて呼んだら一発でバレる。なので、ジョセフさんが講師役をしてくれているのである。
日本語で書いているのは、万が一バレるのを警戒してと、私が読み書きを勉強中の為である。英語の筆記体を更に崩してアラビア文字と混ぜたような不自然な文字は、非常に難解で難しい。とはいえ、貴族のお嬢様が汚ったない字でサインをするのはあまりにも無いので、自分の名前だけはなんとか覚えた。その際エラは略称で、エリアーシュ・サンドラが正式な名前だと知った。エラちゃんでいいじゃんもー!!と密かに荒ぶったのは秘密である。
ちなみにこの用紙は別のマル秘ノートに清書した後は焚き付けとして使うので証拠の隠滅もバッチリだ。
兎にも角にも。
そういう訳で、継母様との対面は今暫く先延ばしにしなければならない。
「終わったわよ!!さあ、私の話を・・・」
「ありがとうございます。では、次はこちらの破れたカーテンの繕い物をお願いします。」
「なっ!話が違うじゃない!!」
「依頼が1つだとは言ってませんよ。止めますか?それでも私は構いませんが?」
「や、やらないとは言ってないじゃないっ!!」
「終わったわよ!!」
「んー・・・こちらの繕い方が雑ですね。あと、ここの破れを見落としていますね。やり直してください。」
「なっ!!」
「おや、やりませんか。ではお話は以上ということで。」
「っ・・・や、やるわよ!!」
「終わったわよ!今度こそ・・・」
「ありがとうございます。次はこの書物の内容を頭に叩き込んでください。」
「なんですって?!」
「あら、おやりにならない?あーあ、可哀想なお義姉様たち。」
「やらないとは言ってないじゃない!!・・・地図?天気?何よこの本?こんなの読み物じゃな・・・」
「お義姉様たちは・・・」
「やればいいんでしょう!!」
「はい、あとこちら今日の夕食に使う豆の筋取りもお願いしますね。」
「そんな雑事、なんで私がっ・・・」
「あら、では今日のスープは具なしですね。育ち盛りの義姉様たち可哀想。」
「っ!!さっさと寄越しなさいよ!!」
「3日後に覚えているのかテストしますからね〜。」
「60点ですか。間違っている所は赤色で直してありますので、復習しておいて下さい。100点目指して頑張って下さいね。ハイ、次はこちらです。また3日後にテストしますね。あ、一緒に豆の筋取りもお願いしますね。」
「もおぉ!!なんなのよぉぉ?!・・・あと、今日も豆のスープなの?!」
「そうですね。畑の肉と呼ばれるくらいたんぱく質が豊富な大豆が無いのが残念ですが、その他の豆類も栄養が豊富です。節制は勿論大事ですが、義姉様達は育ち盛り。今日と明日と明後日も豆のスープを予定しています。」
「ほ、他のバリエーションはなくて?!」
「よくぞ聞いて下さいました!明明後日にはベーコンと豆のスープになる予定です!」
「・・・・・・・筋、とるわね。」
といった感じでなんやかんや毎日遠ざけている。
お伽話ならこっちが無理難題を吹っかける悪役だなと少し可笑しく思ったのは秘密である。
今日は若干弱めの足音を響かせながら去っていく継母様を見送って、私はふうと息を吐いた。
なんだかんだ文句を言いながらも継母がこちらに従っているのは、自分の保身もあるだろうが義姉達の事が大きいのだろう。根っからの悪人ではないようだ。
ちゃんと娘達を愛することは出来ているのに、エラちゃんがその愛を受ける事が出来なかったのはやはり血の繋がりのないせいか、はたまた別の理由か。
私は別に彼女の愛情が欲しいわけではないし、仲良くしたいわけでもない。もういい大人だし、郷愁はあれども親恋しさに泣く年でもない。
ただ、彼女には今後やって欲しい事があるので、彼女の怒りの根源が分からなければ作業に差し障りがあるかもしれないのだ。こちら憎しで足を引っ張られては困る。
どうしたものか。
・・・まあ、なるようになるか。
「さて、ジョセフさ、ジョセフ、準備は出来ていますか?」
「はい、こちらに。」
私の言葉にジョセフさんが頷く。
そんなこんなで一週間ほど過ぎた今日。
ようやく次段階へ進む準備が整ったのである。
遠くから響く荒々しい足音を聞きながら、私はゆっくりと立ち上がった。
継母様をのらりくらりしながら常識をざっくり勉強したよ。