寝起きドッキリにしては酷過ぎない?!その4
ちょっとした説明回。
貴族の爵位や時代背景は適当です。
おじいちゃんが起きたので、現状の確認をさせてもらった。
ちなみに、私は「死にかけたからか記憶を失ってしまった」という事にしておいた。それを聞いた瞬間のおじいちゃんが悲壮な顔に罪悪感を覚えたが、本当にエラちゃんが死んでしまったと伝えるよりはいいだろう。
おじいちゃんはジョセフさんという名前らしい。貴族でもないので姓は無い。代々この家に仕える家令(執事の取りまとめ役的なものらしい)の家系の人で、彼はエラちゃんのお父さんの代から働いていたらしい。54歳だとか。おじいちゃんとは言ったが、生前あまり見かけなかったロマンスグレーの髪と疲れた表情でそう見えただけのようである。
我が家(とはいってもエラちゃんのーーって、面倒だし今はもう私がエラちゃんなわけで、ここはもう我が家って事でいいか)は子爵位を持つサンドラ家。先々々代の当主様、つまりこの体の曽祖父が商いで成功した事で、男爵位をもらった。元は商人だったらしい。その後飢饉の際に物資を運んで国に貢献したとかで子爵位を貰い、領地を与えられたそうな。基本男爵位は一定以上の名声やお金があれば買えるものらしい。ただし、一代限りのもので領地などはなく爵位のみ。そうでないと、際限なく増えちゃうもんね。
サンドラ子爵領は北西の山岳地帯にある、高原地帯だ。これといって名物や特産品はなし。農耕地としても中の下。聞く感じ、立地条件はあまり良くないようだ。まあ、いくら国に貢献したからといって、ぽっと出の平民出身貴族に良い領地が与えられる訳はない。
そんな訳で領地は悪環境だが、曾祖父は元商人。持ち前の商人ネットワークで更に一財産を築いていったらしい。ただ、曽祖父は本当の意味でお金儲けが好きだったようで、王都にいると貴族の付き合いが煩わしいと商い以外の用事では領地から殆ど出なかったらしい。元々商人として有名だった所に名声と爵位が加わって、一時は子爵らしからぬ財力を有していたようだ。
そんな曾祖父も最低限の貴族としての付き合いをする為、王都にタウンハウスを構えている。私が今いる家がそうだ。郊外にあるとはいえ広い庭付きのお屋敷は、一貴族が住むには少々広い。広過ぎる。そう感じるのは私が庶民だからだろうか。
調度品も綺麗に絵付けされた高そうなお皿(さっき一部割った)や落ち着いた風合いの木製家具(投げた椅子が刺さってる)などがある。曾祖父が何処そこの名匠から頂いたとかー・・・へぇー・・・こほん。とにかく高そうなお家だ。流石初代様。
しかしながら、残念な事に祖父や父にはその商才は受け継がれなかったようだ。商人として大成も出来ず、かといって貴族になって浅い為、貴族のネットワークもない。
曾祖父の死後、はじめこそ遺産があるので羽振りが良かったが、我がサンドラ家は緩やかに下降して行った。
没落の危機が間近に迫ったのは父の代。父は商才は無いが曾祖父のようになりたいと思っていたそうだ。色々な投資話に手を出したり、人脈作りとして夜会に出たりパーティを開いたりする度に洋服を一新。一部屋家具をまるっと変える事も一度や二度とではなかったそうだ。そこまでやっても傾くだけで、即座に路頭に投げだされないなんて、曾祖父は一体どれだけの財を持っていたのかそら恐ろしくなる。
そこに目をつけたのが、そこに転がっている継母様。私の実母は産褥熱で既に儚くなっていたらしい。男やもめの父を見事に籠絡し、継母様はそこに転がっている姉二人を連れて再婚。父がいる間も好き勝手していたらしいが、父が亡くなってからはさらに好き放題していたらしい。そのせいで我が家の財政はさらに急激に傾いている。まあ、あの三人を見れば予想ついたけど。
ジョセフさんによると「明日明後日に急にどうこうなる訳ではないが、半年先には危ない」そうだ。早急にどうにかしなければならない。
使用人はジョセフさんのみ。使用人を雇うのもお金がかかるので全てエラちゃん(元)に家事をやらせてドレスなどにつぎ込んでいたようである。まあ、あの三人を見れば予想ついたけど。
彼だけ残っているのは財産の管理や雑事の手配を任せるためである。ジョセフさんは始め三人を諫めはしたものの、全く聞き入れてもらえなかった。しかし、あまり口うるさ過ぎて解雇されると、エラちゃんを蔭ながらも守れなくなってしまうというジレンマに苦しんでいたようである。泣きながら謝られて驚いた。
ロマンスグレーなジョセフさんのつむじが目に入る。よくよく見れば、素敵なロマンスグレーには白いものが数本混じっていた。握られている手も、エラちゃん程ではないが傷だらけで荒れている。
「・・・。」
さっきまではどこか他人事のように「どうせ禄でもない目に遭って、遠くない内にここから逃げ出す事になるだろう」と思っていたし、実際そうするつもりだった。
けれど、何度も何度も涙を流して謝るジョセフさんを見て、先程までの考えを改めた。こんなにもエラちゃんを心配してくれる人がいるのだ。その気持ちを無碍にする事は躊躇われた。
だって、おじいちゃんだよ?ごめんねって、泣いてるんだ。
おじいちゃん大好きっ子の私が、おじいちゃんを泣かして平静でいられるわけがない。「優しそうな目元がちょっと似てるかも」と思ってしまう辺り、私もホームシックなのかもしれない。もう帰れないけど。いかん、ちょっと悲しくなってきた。
とにかく。今はもう私がエラちゃんなのだから、ジョセフさんの気持ちに応えるには、私が何とかしないといけない。
・・・・・・よし。
サンドラ子爵家を立て直す!
ジョセフさんの居場所は私が守る!!
正直、女の身一つで生活するには難しそうだと思っていたところだ。ならば、ここを拠点に頑張る方が成功率は高い。
そのついでに私がちょっとばかりジョセフさんを通して、元の世界のおじいちゃん孝行をしても許されるんじゃないだろうか。
この世界で生きる腹は括った。
私はジョセフさんに向き直った。
「あの、いくつか確認したい事があります。」
おじいちゃん(ジョセフさん)が起きたよ。予想通り、彼女たちは継母とその連れ子だったよ。
そしてエラちゃんはサンドラ子爵家という貴族のお嬢様だったよー。