寝起きドッキリにしては酷過ぎない?!その3
あーだこーだ悩んでいるうちに、思ったより時間が過ぎてしまいすみません(汗)
宜しければお暇潰しにどうぞ。
サブタイトルを考えるのが難しいので、ある程度番号を振ってまとめる事にしました。
あと「寝起きドッキリ1」にすっかり忘れてた兄貴の存在を足しました。
両親が共働きで忙しかった事もあり、私は近くにある祖父母の家によく通学自転車を走らせて会いに行っていた。
おじいちゃんとおばあちゃんは女だてらに武道を嗜む私の事を、身内の欲目とはいえ可愛い可愛いと言葉にして可愛がってくれたし、遅くなると危ないと車で送ってくれたり、女の子らしい心配もされた。男の子からは遠巻きにされるかボスにされ、女の子からは鼻で笑われるかキラキラした瞳で見つめられる私が女の子である事を忘れずに成長出来たのも、おじいちゃんたちの賜物である。なので、私は両親の事は勿論大好きだが、おじいちゃん子でありおばあちゃん子でもある。
おじいちゃんとおばあちゃんは幼い頃に時代のせいで色々苦労した事もあって、食べ物を粗末にしてはいけないとよく私に言い聞かせていた。
都市部に住んでいたおじいちゃんたちは疎開先での食べ物ののある生活に驚き、感動し、いつか自分たち用の畑を持ちたいと願い、現在は郊外に家を建て、家庭菜園と呼ぶにはかなり広い面積に野菜を育てている。
私は遊びに行く度にその家庭菜園を手伝っていたのだが、土作りに水やり、病気予防や虫除けなどの世話、間引き、剪定、食べ物を育てるのはとても大変だ。
畑の世話を手伝うようになって、スーパーなどに当たり前のようにある野菜は当たり前ではないんだなぁと驚いた。3〜5割くらいで歪な形になったり虫に食われたり傷が入ったりする。売り物を作るって大変だ。見た目以上の手間と労力がかかっている。
そう考えると、規格通りじゃないから売れなくて、自分達でも食べきれないから廃棄って、農家さんの苦労と食べられならかったお野菜の無念が偲ばれる。
家庭菜園は農家さんのように美味しさに特化したものこそ作れないものの、ダメな所だけ切り取って美味しく頂けるのが良いところだ。カビは駄目だけど、少し痛んでるくらいなら、一皮剥けば意外と食べられるものだ。匂いを嗅いで少し味をみて、変な味がしなければ大丈夫ー・・・と、話が逸れてしまった。
つまり、何が言いたいのかというと、
――――食べ物は尊い。
♢♢♢♢♢♢♢♢
状況が分からないのでとりあえず大人しくしておこうと思った事や、高そうな家具だし傷つけて弁償しろ言われても困るので極力触らないようにしようと思った事は、全て頭から吹き飛んだ。
「食べ物を・・・っ!!」
私は勢い良く立ち上がり、椅子の横に立って背もたれを軽く抑えた。ついで、ぐっと重心を落とす。
「・・・っ、粗末に、するなあああぁぁぁっ!!」
勢いよく振り抜いた足が椅子を捉え、未だオムレツの皿を持っている義姉その1(どっちがどっちか覚えてない)の横スレスレを飛んで行く。椅子はそのまま鈍い音を立てて壁にぶつかり、バウンドしながら義姉その1へ向かう。
「ひっ・・・」
椅子が義姉その1を直撃する前に転がり戻って来たところを前に出て床に踏み止める。
流石に悪いとはいえ女子供に直接当てる気はない。私の武道の師は「普通の人が何か気に触ることを言ってきたりしてきたとしても、決して手を出してはいけないよ。武道を教わった時点でお前たちは一般人より強いのだから。」と口酸っぱく言っていた。だから、その教え通り「鉄の拳」だの「ブラッディーエリー」だの言われても、殴りかかったりはせず、偶然持っていた木の板や瓦を割りながら話し合いで平和的に会話で解決してきたものだった。多少嵩張るが、良い筋トレになった。目撃者がいなくなればオッケーなどとのたまう兄や従兄弟などの野蛮な奴とは違うのだ。
手は出してない。うん。ちょっとした教育的指導という奴だ。直接でないからセーフ。椅子の脚が二本程取れかかっているが、知った事ではない。
「あ、あんた灰かぶりエラの癖に私たちに逆らっ・・・ズダァァンン!!
義姉その1の言葉を遮る為に、足元の椅子を真っ二つに割り折った。体は違えど乙女の嗜みとして習った技術は覚えているんだなぁ、と頭の片隅で冷静な自分が分析をする。
「王侯貴族だろうと庶民だろうと腹は減る。食べなきゃ飢えて死ぬ。食べ物の前に貴賎はない。」
「な、何よ・・・」
転がっている椅子の脚を広い上げながら喋る私に、義姉達が訝しげな顔をする。
「つまり、食べ物を粗末にする奴は庶民以下の罰せられるべき悪辣な奴って事ですよね?オネエサマ?」
「ひぃっ・・・」
その場にへたり込む義姉その1に笑いかけると、座り込んだまま後ずさりされた。手の中でミシミシと音を立てていた椅子の脚のせいかな?あ、折れた。
「ネーア!!ーー灰かぶり!あなた誰がこの家においてやって・・・っ!!」
美人さんが怒鳴ってきたので、風(あくまで怪我をしないように風圧だけ)が頬を撫でるように破片を投げた。ズダムッ!!といい音を立てながら破片が壁に刺さる。
「ひっ!こ、こんな事をして唯で済むと思って・・・」ズダァン!!
全く反省の色がないので、もう少し近くに投げた。
「やめっ、やめなさいよ!!グズ…」
義姉その2も泣き喚いて何かを言って来たので、近くに投げた。逃げられないように、投げる破片で無駄にフリルなドレスをついでに縫い止める。
「何事ですか?!ーーえ?エラ様っ!?何をなさって?!お止めください!!」
「部外者は静かにしていて下さい。」
途中から部屋に入って来たおじさんが近寄って来ようとしたのでそちらにも投げた。勿論、彼はまだ何もしていないので、少し離れた足元に。
「今のは威嚇です。それよりこちらに来たら、次は当てます。」
「いい加減にっ!」
「ーーするのはどっちだ!反省の色がないっ!!」
ズドン!!
「ひ、人を呼ぶわよ!そうしたらアナタなんてー」
「ーー呼ばせると思ってるのか?おめでたい頭だなぁ?あぁ?!」
ズドン!!
「わ、悪かったわ!だからっ!!」
「謝り方が悪い!やり直し!!」
ズドン!!
「ごめんなさいぃ!!これでいいんでしょ!!」
「何が悪いか分かってないのでやり直し!!」
ズドン!!
「何て言えばいいのよ?!謝ったじゃない!!」
「そういうトコだぞ!!やり直し!!」
投げた。投げた。投げた。
破片が足りなくなれば新たに椅子を圧し折った。
投げた。投げた。投げた。
投げた。投げた。投げた。
最終的に彼らが泣きながら謝るまで投げ続けた。いや、泣いて謝っても投げ続けた。
試合でも何かの勝負でも、立ち合いが肝心だ。初手で二度と逆らおうと思わない程心を圧し折るのが大事だ、と兄と従兄弟が言ってた。
考え事をしているうちに静かになった室内を見回せば、投げた破片は壁や床の至るところに突き刺さって、それを避けようと身をくねらせたまま固まっている人間と相まって、前衛アートのようになっていた。
ふときづけば、女性三人と途中から入って来た初老の男性も目を回して気絶していた。
しかし、あれだけ騒いだのに来たのがこの男性一人って、どういうこと?
他の人はいないのだろうか。
聞こうにも、事情を知ってそうな人達は目の前で気絶している。しまった。
転がる4人を見て思う。
「おいてやっている」「グズのくせに」などの言葉から、女性3人は日常的にエラちゃんを蔑み、こき使っていたようだ。
対してこのおじさんは「エラ様」と呼んでいたから、エラちゃんはこのおじさんよりも立場が上という事になる。こき使われている女の子より下と考えるより、エラちゃんも実は彼が仕える主人の一家と考える方が自然だろう。
これだけ騒いでも男性1人以外来ないという事は、彼以外の使用人はいないのかもしれない。
落ち着いたら、これからの事に対する不安が出てきた。
恐らく私は死んだ。
よくあるお話のように元の世界に戻ることは出来ないだろう。となれば、この世界で生きていくしかない。
この世界で生きる以上、まずは身を守る術(知識)が必要だ。まずは常識を学ばないといけない。暦や貨幣制度、習慣なんかをね。極端な話挨拶をしたつもりで決闘を挑んでいる、なんて事にはさすがにならないと思うけど、念には念をだ。実際、日本で親指を立てるGOODを示す行為は、何処かの国では殺されるかもしれない合図だしね。
そして何より、貴族って何をどうしたらいいの?
疑問は山積みだが、とりあえず礼儀作法。一般庶民だった私は貴族のマナーがさっぱり分からない。一朝一夕で身に付くものではないからコツコツやらねば。家庭教師呼んでもらえるかなぁ。
それと、この世界が『シンデレラ』だと決まったわけではないが、王子様は警戒しておこう。王妃様なんてとんでもない。
諸外国との関係を気にするとか、施設の慰問や沢山の貴族の動向を見て交流をもつとか、一言一句に言質を取られるから気をつけて喋らないといけないとか、
絶っっっっっっっ対に、無理!!!!
ああいうのは小さい頃からの教育があってこそはじめて出来るもの。ぽっと出のヒロインで何とかなるのは物語だけだよね。
と、なると。当面の目標は勉強しながら旦那様探しかね。幸いエラちゃん(このボディ)はまだ未発達だけど将来は美人ぽいし、何とかなるでしょ。せっかくだしイケメンの優しい旦那様をゲットしたい。「お家の為に」って変な所に嫁がされるのは勘弁してほしいなぁ。まあ、そしたら迷わずトンズラするけど。
・・・最悪は、性別偽って傭兵か猟師でもして食いつなぐかな。
吐いた溜め息は寒い室内に溶けていった。
エラちゃん大暴れ。
食堂が半壊したよ。被害総額は考えない。