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おとぎ話のような日々をあなたと  作者: 吉里 ユウ
とある灰かぶりと腹ペコ魔法使い
12/15

年の瀬に願うことは… その1

時間が空いて申し訳ありません。

せっかく梅雨も終わったのに、未だステイホームとは辛いですね。主に電気代が。

1日も早い収束を祈ります。


「タリサさんこんにちわ、こちらのお野菜くださいな。」

「おやエリーちゃん、こないだはありがとうね。助かったよ。」

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ。あ、小麦粉も一袋お願いします。」

「偉いねぇ。ウチの倅にも見習って欲しいもんだよ。ほら、これも持って行きな。」

「まだ、遊びたい年頃ですからねぇ・・・いいんですか?」

「こないだの荷運び手伝ってくれたろ?そのお礼さ。豆、好きだろう?」

「あははー、ありがとうございます。では頂きますね・・・よっ、と。」

「・・・毎回驚いちまうけど、アンタ見かけによらず力持ちだねぇ・・・。」


野菜と小麦袋を抱えた私は、若干引き気味のおかみさん、タリサさんに挨拶して歩き出す。豆、好きな訳では無いんだけど、毎回沢山買ってたらそう思われるよね。まあ、栄養あるからいいか。

おかみさんとの気安い会話から分かるかも知れないが、私は今、庶民エリーとして下町で買い物をしている。

理由は簡単。安いからである。


料理人もいない我が家に高級食材は必要ない。だいたいの食材は煮込めば食える。じゃあ安くていいじゃん。というわけで下町に買い物に来ている訳だが、当然貴族然としたまま買い物をする訳にはいかない。出来るだけ質素に見える服でまず古着を購入し、更に庶民的な服装になった後、庶民には珍しい鮮やかな金髪を茶髪ヅラで隠した。そうして、最近越して来た庶民エリーちゃんとして潜り込んだのである。両親が他界したので親族を頼ってやって来たという設定である。嘘をつくのは気が引けるが、まるきり嘘という訳でもない。両親はいないしね。この話をするとだいたい同情してくれて深く詮索しないでくれるので助かった。

今では雑貨屋兼八百屋さんのタリサさんと宿屋兼大衆食堂のハンナさんとはすっかり仲良し。たまにお手伝いをして余り物を頂いたりする仲である。これぞ社会人の処世術。


主な貨幣は金属のコインだった。通貨単位はルード。

だいたいの目安だが、銅貨が千円、銀貨が一万円、金貨が百万円と言った感じだろうか。

銅貨、銀貨、金貨だなんて、全く何処のファンタジーだろ。あ、童話(仮)だったわ。更に上には白金貨という物があるらしい。他の硬貨とは違い細やかな細工が掘られていて希少な金属を混ぜて作られるそれは、とてもとても美しい輝きを持つらしい。一枚で小さな屋敷なら建ってしまうとか。下流貴族の我が家には縁のない硬貨なので、勿論現物は無い。

このように色々硬貨の種類はあるが、ジャラジャラと持ち歩くのも煩わしいので、貴族の買い物は基本、家の名前でツケる。後で支払いに人を遣るか、商店の人が取りに来るのが主流らしい。だから、継母様や義姉たちがぽんぽん買い物できちゃったんだね。ホント困るわー。


庶民の生活では銅貨、銀貨の他に鉄銭と呼ばれる硬貨が使われる。こちらは百円くらいの価値の硬貨で、中央に穴が開いていて紐などで吊るせるようになっている。日本の昔の古銭みたいな感じである。価値が少額で紐でまとめられる為、子供の駄賃などにも使われるらしい。鉄銭と言っても金属加工の余りで作るものらしく、内容物が鉄だけではないとかなんとか。

食料品の物価は日本よりも安く、大きな丸型のパンーーカンパーニュ的なやつーーが鉄銭一枚で買えたりする。十円単位の硬貨はないが、大抵物々交換だったり、賃金でなく物で支払われたり、と下町では硬貨を使わないことも多い。銀貨はそこそこ大きな買い物でないと見ないようだ。エリーちゃん家はそんなに裕福な設定ではないので、うっかり出して余計な問題を起こさないようにしよう。



♢♢♢♢♢



冬妖精の下月も半分を過ぎて寒さも大分緩んできた。

あと半月でこの世界の新年になる。最近は、新年の祝いの準備に街中がバタついている気がする。年の瀬はどこもこんなものなのかもしれない。

この日はハンナさんのお手伝いで食堂のウエイトレスをしていた。年末は人の出入りが多くなる分、宿屋と食堂が忙しくなるらしい。


「おや、エリーちゃん、ずいぶんご機嫌だねぇ。」

「トーマスさん、こんにちは。はい、御注文の牛頰肉のシチューですよ。」


声をかけてきたのは人当たりの良さそうな男性、トーマスさん。行商人をしており、定期的にこの街にやって来るらしい。今は年末の商いの為ハンナさんの宿に拠点を置いており、併設の食堂をよく利用する。私は此処で臨時バイトをしているので、必然顔見知りになったという訳だ。誰にでも話しかける気さくさは、流石商人さんだなぁと感心したものだ。また、商人さんは情報に明るい。流石にサンドラ家の事を直球では聞けないが、行商先の町の話や各地の噂話などが聞けて面白いし勉強になる。

ちなみに私がご機嫌に見えるのは、バイト代とは別に、売り物にならない端肉を後でもらう約束があるからである。ハンナさんの気遣いで賄いも持って帰っていいというサービス付きだ。久しぶりのお肉の予感に頬の筋肉も上がりっぱなしになろうというもの。


「えへへ、労働って素晴らしいですよね。」

「そうかい?エリーちゃんは働き者だねぇ。そういやエリーちゃん、年越しのお願いは決めたかい?」


私の頭の中が見えないトーマスさんは良い様に解釈してくれた様だ。笑って誤魔化そうとして、聞き慣れない単語に首を傾げた。


「年越しの・・・?」

「すみませーん!」

「あっ、はい!今すぐ伺います!」


聞き返そうとしたところで別のお客さんが声をあげたので、会話が中途半端になってしまった。

年越しのお願い?どこに?だれに?神社なんてないよね?

気になったので終わりにハンナさんに聞いてみることにした。


「ーーと言う事を聞いたんですが・・・。」

「おや、前居た所じゃ年越しの火守をやらないのかい?」

「ええと・・・」


記憶を探せば、先日今月の行事として勉強した気がする。

確か、地域によって多少の差はあるが、冬妖精の下月最後の夜は各家で夜通し火を灯す。暖炉であったり、燭台であったり、カンテラであったり色々だ。夜通し灯した火を使って新年初めての調理をして、その一部を妖精用に取り分け置いておくと妖精が食べるらしい。そうする事でその年一年も仲良く共存したいという意思表示をするのだとか。勿論メルヘンな作り話なので、実際はそうそう無くなったりしない。昼頃にはそのお供物を食べる、そんな行事だった筈だ。稀に無くなったという話もあるが、その家の子供とか飼い猫などがこっそり食べてしまったのだろう。


「いえ、前にいた所でもやっていましたよ。でも、お願い事はしてなかったですね。」

「おや、じゃあここら辺の風習かねぇ。」


ハンナさん曰く、年越しの火の番の際、揺らめく火の影に妖精が通り過ぎる影が見えることがあるとかないとか。妖精達にとっても年越しは一大イベントらしく大忙しらしい。その為いつもは身隠しに使っている術が疎かになるから姿を見る事が出来るのだとか。

その時に願い事を言うと、姿を見られた口止めとして叶えるとか、年末準備に大忙しの妖精が年越しの仕事の一環で言いつけられたと勘違いして叶えてしまうとか言われている。個人的には後者が面白い。


「妖精、ですか?」

「そうそう。影が揺らめいてる間に言わなきゃだから、お願い事は先に考えておくんだよ。」


流れ星に願いを、みたい。まさかその妖精に叶えてもらうわけではないので、珍しいものを見れてラッキー!ならば運が向いてるだろうって感じかな?二重の虹とか四つ葉のクローバーみたいなもの?対象がメルヘンだけど。

見られるかどうか、真実かどうかはともかくとして、まず我が家は夜通し灯すの火の準備をしないとね。暖炉はコストが高いから、我が家ではカンテラかなぁ。夜通しなら新しい芯も買わないといけない。まあ、カンテラの芯一本くらいは何とかしよう。こういった季節行事は参加する事に意味があるものだ。

なんて思考も、お手伝いの報酬の端肉を受け取った時には全部吹っ飛んだ。えへへへへ、お肉だぁ。出汁をとってスープでしょ。その後甘辛く煮直して時雨煮みたいなのもいいなぁ。あぁ、醤油とご飯が欲しい。

ハンナさんに別れを告げ、報酬の肉の包みと賄いのサンドイッチを貰った私はホクホク顔で帰路に着いた。



ここ最近なんやかんや色々忙しかったせいで、私はすっかり忘れていた。

義姉達が憎々しげな視線を向けていた事を。




庶民エリーちゃん爆誕。

薄幸の美少女、ただし怪力。

八百屋と食堂ではバイトもしてるよ。

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