サンドラ家改善奮闘録 その4
いつの間にかブックマークや評価をして頂いていたようで、ありがとうございます。今の今まで気付かずに誠に申し訳ない。皆様の日常の暇つぶしになれるよう善処します。
亀更新ですが、どうぞこれからも宜しくお願いします。
「さて、じゃあ真面目な話をしましょうか。クローディア様の言う裏とは、何処かに売り飛ばすとか変態エロじじいみたいな所にお金もらって後妻にやるとかって事なんでしょうけど・・・それで具体的に私は何を得ることができます?」
「何をって、お金がもらえるじゃない。」
「それは一体いくらでしょうね?我が家がどれくらい贅沢できるものですか?サンドラ領民全員が死ぬまで遊んで暮らせるものですか?」
「それは・・・」
「無理でしょうね。人1人が売れたところで王族の血筋でもなし、大した金額にはなりませんよ。それより義姉様方に金持ちの素敵な旦那様を捕まえて頂いて、サンドラ領に永続的な援助をしてもらう方が有意義じゃないですか。で、どうせなら旦那様をメロメロにして義姉様方が手綱を握っておけばおけば家庭生活も円満でクローディア様も安心で、サンドラ家も潤って、みんなハッピーじゃないですか?」
一般市民が分からないなりに考えてみたのだが、一家庭の明日のご飯を凌ごうって言うんじゃない、いくつもの村や町がある領地の運営である。どう考えても3人売れたところで領地経営をするには微々たる金額だと思う。平凡を愛する一般市民だったので人身売買やってるような組織となんて関わり合いになったことがない。相場は知らないし知りたくもないが。
「さて、色々話を詰める前に確認しておきたいのですが・・・クローディア様、貴女は私にどういった感情で接しているのですか?」
「え?」
「父を落として後妻としてやって来たは良いものの、そこには既に跡取り娘。貴族の法によると自分と自分の娘には相続権がない。仕方なくできる限りの豪遊三昧をしつつ、予定が狂ってしまった苛立ちを跡取り娘にぶつけていただけですか?実は父の昔の恋人で家の関係で結婚出来ず、私の生みの母憎しでその娘もとか、そんな昼ドラ的な展開ではありませんよね?」
「昼ド・・・何よそれ?エスターとは昔の恋人とかそんなのじゃないわ。ネーアとマイアは前の夫との子よ。確かにアナタが邪魔で色々当たっていたのは認めるけど、前妻の事は知らないし何もしていないわよ。だって私がエスターと出会った時には既に亡くなってたのだもの。」
クローディア夫人は今更誤魔化したりしてもしょうがないと思ったのか、多少不貞腐れながらも答えてくれた。ちなみにエスターとは父の名前である。こないだ家系の勉強の際に知った。
ふむふむ。父とはここ数年の付き合いってことか。最悪義姉たちと腹違いの姉妹かもと思っていたが、それは無いようで良かった。そこまでの泥沼は流石にごめんなので。今度暇な時に義姉達の親を調べておこう。
「じゃあ、クローディア様は我が家に来るまで我が家とは何の関係もなく、私が純粋に気に食わなくていびっていたって事ですか?」
「いびっ・・・ま、まあそうなるわね。」
「ふむふむ。あ、あと今回は時間がなくて調べが間に合わないので直接確認させて頂きますが、我が家以外ーー例えばクローディア様ご自身の名前で金品の貸し借りや契約などは行っていませんね?我が家に来る前に誰かに貢がせたり、他所から借金などしていませんよね?・・・不躾な質問で大変申し訳ないのですが、前の夫という事は結婚されていたようですが、その方と現在も揉めていたり親交があったりしますか?」
「・・・いいえ。その時あった借金はエスターが肩代わりしてくれたし、ちゃんと色々清算してからここに来たわよ。私過去に追われるのって嫌いなの。」
「・・・本当ですね?嘘ついたら売り飛ばすよりとんでもない目に遭わせますよ?具体的に言うと反省しようがしまいが三日三晩桶一杯のカエルと一緒に袋詰めに・・・」
「ええ、ええ!誓って本当に!!」
裏が取れないのは不安が残るけど、食い気味に答えてくれたクローディア夫人を今回は信用しよう。あまり踏み込んでは失礼にもなるしね。
私は了承の意を頷いて示すと、ジョセフさんから受け取った大きな紙を2枚机に広げた。といってもA4より少し大きめなだけである。本当はもう少し大きな紙が良かったのだが、現状手に入る最大の大きさがコレだったので仕方がない。ジョセフさんが私が広げた四隅にさり気なく重しを置いてくれる。出来る執事である。好き。
「ならば結構です。さて、先程言った義姉様達の件、叶うかどうかは彼女達の努力は勿論、我々の手腕にもかかっているのです。まずはこちらをご覧下さい。こちらが我が家の収入と支出。縦が金額、横が月を表しています。支出のバーの内、黒く塗りつぶしているのが貴女方親子で使った金額です。」
1枚目に書いてあるのは棒グラフで表した我が家の状況。急なので半年前からしか書けなかったがまあ十分だろう。月毎の収入と支出を棒グラフで書いてある。ジョセフさんに初めて見せた時は数値の可視化に驚いていた。見やすいと太鼓判付きだ。
「次にこちらの紙をご覧ください。こちらの線は我が家の資産を示しています。赤いラインは危険域です。ここになってしまうとサンドラ家を維持する事自体が難しくなります。今はここですね。この線は大体この角度で下がっていってますね。このくらい毎月使っていたって事ですよ。で、仮にこれが続いたとしたら・・・こうなりますね。」
2枚目には線グラフで我が家の総資産が書いてある。用紙の下から三分の一くらいの目盛りのラインは赤く塗られて「危険!」と書いてある。私は現在の月を指差し、そこからフリーハンドで線を伸ばすと、約半年程後の月に線グラフが赤いラインに触れた。
「はいドーン。我が家はおしまいです。現状の危うさがわかりましたか?」
「・・・こ、こんなに切羽詰まっていたなんて思わなかったのよ。」
クローディア夫人は驚いたのか少し震える声で呟いた。今更な感はあるけれども、現状を理解してくれたようで何よりだ。
実はこのグラフは正しくない。これは「もし今のまま豪遊を続けたら」のグラフである。慎ましやかに暮らし、ツケを少しずつ返済していくのであれば、本当は1年先くらいがタイムリミットである。だが、現実は何が起こるか分からない。短く見積もっておいて損はないだろう。
それを言って気が緩まれても困るので、彼女が気付くまで黙っておこう。
「さて、現状が伝わったようで何よりです。私が今日クローディア様を呼んだのはこれからの話をする為です。」
私の言葉にクローディア夫人がキュッと唇を噛んだ。まあ、半年後に路頭に迷うかもって状態で大事な話って言われたらヤバイ話だと思うよねぇ。これから私がする話も大概だけど。
私はニヤリと笑って用紙を指で叩いて言った。
「クローディア様にサンドラ領の経営をお願いしたいんですよね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
クローディア夫人は、たっぷり一分間程悲壮な顔をした後、更に一分間程呆けたような顔をして、私の言葉が染み込んだのか立ち上がって私とジョセフさんを交互に見遣った。
「あっ、アナタ何を考えてるの?!!」
彼女が立ち上がった時に耳を押さえてて良かった。思いの外大きな声にビックリしながら手を離すと、こちらを睨みつけるクローディア夫人と目があった。
「何って、そのままの意味ですよ。サンドラ家の財政運営をクローディア様にお任せしようかと。毎月の目標金額を設定し、それを超えた分は借金の返済に当てられます。クローディア様の手腕によっては十年もかからないかも知れませんね!勿論全部丸投げじゃありませんよ。ちゃんと私もジョセフも確認しますし、最終印は私が押さないと決定にはなりません。情報収集をして経営計画を立ててもらうのがメインになります。最終決定権が私にある共同経営者ってところですね。」
そう、これが一週間かけて考えた私なりの落とし所である。彼女達の事があろうがなかろうが、領地は治めなければならないが、治めるべき私はまだ未熟過ぎて使い物にならない。正直まだまだ勉強中で簡単な文章しか読めないし、顔つなぎの挨拶回りとかしてる暇はない。ならば、今クローディア夫人が代理で立っているんだし、私が使い物になるまでそのままお願いすればいいんじゃね?と言う事である。
領地経営もお願い出来て、クローディア夫人も監視出来て、その間に私も勉強出来る。我ながら名案だなと思ったのだが、お気に召さなかったようだ。
「私はそれを使い込んでいたのよ?!」
「えぇ。ですから私がちゃんとチェックします。早く上がりたいからって、横領や不正は許しません。」
「だからって・・・アナタ本当に何を考えているの?!」
「合理的に考えた結果なんですが・・・まあ、あといくら嫌味な人たちだからといって、そんな目に逢わせたら寝覚めが悪いし、ご飯が美味しくないじゃないですか。」
「ご飯って・・・そんな理由で?馬鹿じゃないの?!」
「馬鹿とは失礼な。そんな理由が大事なんですよ、お継母様。私は色々あって、色々考えて、これからは自分の為に生きると決めました。長い人生一片の悔いがあっては楽しくないでしょう?」
その『色々』に前世的なアレとかが含まれているけど、まあ別に言うまい。
「あ、ちゃんとクローディアにも利がある話ですよ。なんと、ささやかですがお給金が出ます!ドレスは到底無理ですが、お菓子くらいなら買えるんじゃないかと。」
私が付け加えた条件に、今度こそクローディア夫人は砂利でも噛んだような顔をしてグッタリと椅子にもたれかかった。
「・・・そんな事をして、一体貴方に何の得があるのよ。」
「ですからサンドラ家にーー」
「違うわよ!・・・家にじゃないわ。アナタに、よ。アナタ自身には何の得もないじゃない。そんな上手い話は信用出来ないって言ってるのよ。」
確かに、聞く側だったら怪しさ満点かもしれない。考えるのに夢中で、相手からどう見えるかは考えてなかったな。
「確かについ先日までの私たちの関係では、怪しい話に聞こえるのかもしれませんね。では、契約書を作りましょう。ではジョセフ、お願いしますね。ーーええと、私エリアーシュ・サンドラ(以下甲)は、クローディア・サンドラ夫人とネーア・サンドラ嬢、マイア・サンドラ嬢(以下乙)が協力的である限りは、了承を得ない結婚を強いる事はしない。協力の定義として、乙は甲に決して嘘をつかない事。また、心身の消耗や損傷が見られない限りは甲の健康指導に従い、淑女教育カリキュラムを目標通りに消化する事・・・っと。こんな感じで如何です? 」
私の言葉に従い、ジョセフさんが2枚の書面に書き起こしてくれる。私はそれにサインとサンドラ家の家紋の判子を押してクローディア夫人に差し出した。
「・・・私今ひとつ納得がいかないのだけど、私の常識がおかしいのかしら?」
「そうなんじゃないですか?」
「お黙り!!」
当のクローディア夫人はそれを信じられないものを見る目でしばらく眺め、こめかみに手を当てて唸っている。何でもいいけど早くしてもらいたいものだ。お茶を飲みながら適当に相槌を打ったら怒られた。
そうして私のお茶一杯分悩んだクローディア夫人は、長い長い溜息と共にペンを手に取った。
「・・・分かったわ。協力もしてあげるわ。けど、あの子達への態度は改めて頂戴。酷すぎるわ。」
「それは了承しかねます。」
「どうしてよ?!」
クローディア夫人の言葉に私は即答で否と返した。驚きにクローディア夫人の文字が歪む。まあ、書類が破れてないし多分大丈夫だろう。
再びこちらを睨みつけるクローディア夫人に向き直る。
「・・・クローディア様ならもう気付いていらっしゃるかと思ったのですが、このままでは体型も淑女としてのマナーも半年後の夜会に間に合いません。いくら素敵なドレスを着て化粧をしたとしても、体型もマナーもそれらでは隠せません。嘲笑われるのは義姉様たち自身です。果たしてそうなった場合、今厳しく躾けるのと義姉様達が笑われるのが分かって黙って見ているのと、より酷いのはどちらでしょう?」
「そ、それは・・・」
厳しいことを言うようだが、今対面すべき現実である。
「今後義姉様達の事を少しでも想うのであれば、邪魔しないで下さい。隠れてオヤツあげてるの知らないとでも思いましたか?」
せっかくのダイエットもクッキー缶丸々食べられたら意味がない。まあその分メニューを上乗せしたが、基本のノルマを達成出来ていないこの状況では未消化メニューを抱え込むばかりだ。
「義姉様達の結婚はあくまで彼女達が協力的であれば可能性があるプランです。私一人でやれる事には限界があります。私はどちらに転んでも構いませんが、クローディア様は如何しますか?」
「ぐっ・・・き、協力、する、わ。」
「では、今後私の指導にご協力お願いしますね。では、早速ですが、これから義姉様達にもノルマをきちっとこなすようにクローディア様から伝えに行きましょう。私も一緒に参りますので。」
「・・・本当にあの子達の為になるんでしょうね。」
「クローディア様と義姉様達次第じゃないですか?少なくとも私はそのつもりですけど。」
「・・・・・・・・・・・・わかった、分かったわよ。」
渋々と言った感じではあるが、クローディア夫人の協力を取り付ける事が出来た。これは大きな前進である。頼みの綱の母親からも頑張れと言われれば、義姉たちも目が覚めざるを得ないだろう。
クローディア夫人との対談その2。
なんとか協力を取り付けたよ!
説教くさい話ばっかりですまない。