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旅に出る!

 勇者の末裔であるワボッコはドルゴル山脈の麓の屋敷にて、乳母のクレアとひっそりと暮らしていた。しかし鷹狩に出かけたロラン王子が大魔女ヲーゴルにさらわれたという知らせを受け、彼女は勇者の末裔としての使命を果たすことを決意する。


 ご先祖様が残した宝物──伝説の装備──を纏って。



 しかし勇者ウェルディー(女)が氷の魔王を倒してはや1600年。勇者の使用した装備品は「伝説の武具」「伝説の防具」として今でも子孫達に連綿と受け継がれているものの、時代を経るとともに、神秘的な力を本気で信じるものはいなくなり、祭祀用の古びた工芸品としか見られなくなっていた。──今日の所有者であるワボッコもそう思っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 彼女が乳母クレアから伝説の武具一式を渡されたのは、ちょうど16歳の誕生日の朝のこと。小柄な老女クレアは新勇者のお披露目を待っているが、勇者はなかなか部屋から出てきてくれない。



「着心地はいかがですかワボッコ様。長らく倉庫の奥にありましたもので、少しばかり臭うかもしれません」


「もうちょっと待って。紐が少しキツイの」



 しばらくしてカーテンの奥から新たなる勇者が現れた。乳母クレアは喜び、顔の皺が増える。



「おおっ素晴らしい!とても立派なお姿でございますよワボッコ様」



 伝説の鎧を身に着けたワボッコは、さっそく鏡の前で体をくるりと回転させる。だが鏡に映る自分の後ろ姿をマジマジとみて困惑するしかない。



「やっぱりこれ露出が多すぎ。少しお尻がみえてるよ」



 どういうわけか伝説の防具はビキニと変わらない露出度だった。



「実のところ、そこはワシも気になっとります。しかし間違いなくこれが伝説の装備なのじゃから我慢してください」


「こんな鎧で体を守れてるのかしら?胸と腰以外は完全無防備なんですけど」



 クレアは古びた本を手に取ると、古代語で書かれた『勇者ウェルディーに関する伝説』を読み込んでいく。



「修道士達の言い伝えによれば……薄いバリヤーが体全体を包んでいるはずです。あとは伝説の盾をうまく使うとよろしいでしょう」



 少女はため息をつくと、テーブルの上に置かれていた銀色の盾を手にする。



「この小さな盾で露出部分を隠せるとは思えませんけど」


「だ……大丈夫でございますよ」



 焦りながらクレアは兜をワボッコの金髪の上に乗せる。厳つい兜であったが思いのほか軽い。



「ご先祖様が1600年前に使った時は、これで大魔王を倒したそうじゃから、心配はいりませんよ」



 大魔女に捕らえられたロラン王子は、北のアピー山の洞窟に閉じ込められているという。



「装備は完璧ですじゃ。さあアピー山に向かうのですワボッコ様!大魔女ヲーゴルを倒すために」


「でも私、王子様のことをまるで知らないの。見たこともないし。もしも……クレーマーなオジサンだったら助けずに帰ってきていい?」



 乳母クレアは必死に頭を振る。



「ロラン王子は聡明な美少年であられます!といっても8歳のお子ちゃまですけれど」


「お子ちゃま……。うーん。まあいっか」



 屋敷の玄関を出たワボッコは笑顔で乳母に手を振った。



「じゃあ行ってくる!」



 勇者ワボッコは元気よく走っていく。アピー山までは300オーグ(500キロメートル)はあろうかという道のりだ。まずはドルゴル山脈を超えて北に進まないといけない。


 だが春になったばかりの山々には雪がかなり残っており……このままでは遭難待ったなしである。出発して5分で屋敷に戻るべきか思案する。



「うう……寒い。冷たい風が素肌に直接当たるわ。バリヤーなんて全然効いてないよ。私、騙されてるんじゃないかしら」


「そんな時のために伝説のマントがあります。これを貸しましょう」


「これはちょうどいい……ってクレア!?足腰悪いのについてきてたの」


「大丈夫ですよ。ワシは魔法の絨毯に乗っとりますから。これも伝説の勇者の持ち物です」


「なんでそれ黙ってたのっ!私も乗せて!」



 ワボッコが絨毯に乗ると、乳母クレアは後方に下がる。大きな絨毯で2人乗っても全く問題がない。勇者は北を指差し叫んだ。



「飛べ!魔法の絨毯!北の山の洞窟まで」



 絨毯は飛んだ。ミサイルのような、とんでもねぇスピードで。



「ワボッコ様ぁ!そんなにスピード出されては危のうございます!」


「でも勝手に飛ぶんだもん!助けてぇ」


(続く)

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