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7:そして二年

前半ダイジェストです。

 



 私が死んでから二年。

 正しくは、死んだとされた日から二年半が経過した。


 この二年近くは色々あった。


 まず、私の身体に魔女の血が馴染むまで。

 師匠の血を取り入れてすぐ馴染む……わけもなく、三日ほど激痛にのたうちまわるハメになった。

 予め教えてくれたらいいものを、決して乙女がしてはいけない表情を浮かべる私を見て、師匠はゲラゲラと笑っていた。


 そのあとに師匠の愛用していた櫛やクッションが何故か紛失したらしいけど、私は知りませんよ?

 この部屋にある、どこか見覚えのあるような櫛と、似たようなデザインのクッションは、私が持参したものですからね?




 そして魔女の血が馴染んだ後。

 本格的な魔女修業が始まる……かと思えば、案内された場所は食堂だった。


 私がいた部屋から階段を下り、すぐ目の前に広がった食堂。

 師匠を二度見すると「ここでしばらく修行だよ」と言われたときは、何の冗談かと思ったくらいだ。


 どうやら師匠の副業というのは食堂だったらしい。

 師匠いわく「はあ? 魔女なんて生活の役にも立ちゃしないよ! こっちが本業に決まっているさね」だってさ。

 魔女ェ……。


 とにかく。魔女というか食堂のオバチャン指導の下、ウェイトレスとしての修行が始まった。

 この店は注文と同時に料金もいただくシステムだ。


 なので、魔女にはオーダーを記憶する能力と、客から渡されたお金に不備がないか瞬時に計算する能力が必須らしい。

 もしミスをした日なんか、私の食事はスープだけとなる。


 しかし、この点は日本の義務教育に感謝したい。

 おかげで通貨の単位さえ覚えてしまえばミスもなく、値段をちょろまかす客なんかもすぐにわかる。

 師匠にも「実験体・・・がすぐ確保できてありがたいね」なーんて、お褒めのお言葉をいただいたり。


 ちなみに実験体・・・は、二度とお店に来なくなるので何をされているかは不明だ。




 同時に、私が死んだことで名前も変えた。

 クレア・ラグドーレから、ただのフレアに。

 最初は「クレア、贅沢な名だね。今からアンタの名前はレアだ!」とか言われたけど、全力で拒否した。


 湯〇婆でももっとマシな名前をつけるよ!

 間違っても「俺はレアだぜ」とか名乗りたくないから、自分でフレアと名乗ることにする。




 あとは何事もない日々……といっても、魔女狩りと称してこの店が襲われたり、街を歩いていたら何故か誘拐されかけたり。


 この食堂、師匠は正直に「魔女の家」なんて看板を出しているからか、本物の魔女を警戒して魔女狩り軍団がやってくる。

 そのたびに常連さんや師匠に「ようこそお客さん。魔法のような料理はいかが?」と馬鹿にされ、顔を真っ赤にして去っていくのだけど。


 堂々としていれば疑われない、とはよく言ったものだ。

 さすが師匠、肝っ玉が太い。




 誘拐については、買い出しの途中に馬車へ連れ去られ、叫ぶ間もなく街の外まで一直線だった。

 どうやら強盗とか人さらいとか、そういった類の集団だったらしく、私はどこぞの貴族令嬢と間違われたみたい。


 かつてはそういう身分も持っていたけど、今の私はただの町娘。

 どうやらお忍びで町娘の格好をしていると思われたらしく、いくら説明しても納得してくれなかった。


 しかし、私には街から出られない制約があった。

 正確には、街から出ては無事ではすまない・・・・・・・・制約、が。


 街を出て少し進んだところで、私の魔力が暴走。

 馬車は吹き飛び、積んであった荷物も周囲に散乱して、私自身が台風となったみたいに被害を拡大させた。


 すぐに師匠が助けてくれ、私の命に別状はなかった。

 けど、巻き込まれた強盗には重傷を負っている人がいたり、飛ばされた荷物は街のほうまで吹っ飛んでいくつかの建物を破壊したらしい。


 師匠曰く、全部強盗の仕業にしたので気にしなくていいらしいけど。

 それを聞いて、絶対街から出るもんかと誓ったものだ。

 師匠と一緒なら大丈夫なのだけど、一人で出るにはまだ早いとのこと。


 せっかく生き延びたのだから、死ぬかもしれないリスクより師匠の忠告に従う。




 そんなこんなで、気づけば何年か経ち。

 魔女としての教えはほとんど伝授されず、ウェイトレスとしての経験値ばかりが溜まっていきます。






 ◇◇◇



 今日は珍しくお昼のお客が多い。

 いつもは夜の時間まで材料が持つのに、今日はすでに野菜と調味料の在庫がいくつか切れてしまった。


「ふ。ちょいとアンタ、休憩ついでに買い出しに行ってきな。これは命令だよ」


「えー、休憩なら裏でのんびり休ませてくださいよ」


 師匠の経営する食事処「魔女の家」は、その名前に反してそこそこ客入りが良い。

 どの国も魔女という名前と、それに関する事柄は畏怖されたりする。

 だけどここは「魔法にかけられたようにハッピー!」がキャッチフレーズになっている人気店だ。


 その宣伝文句を聞いたときは急に難聴となり「え? なんですか」と何回か聞き直したけど、三回目で師匠がキレた。

 それ以降この話題に触れるのはタブーとなっている。


「グダグダ言っていないで、さっさと動きな。今日のまかないはスープだけにしてしまうよ」


「それは嫌だなぁ……はーい。じゃあ師匠、お金ください」


「チッ、いつもの場所から勝手にもっていきな!」


 師匠はどこか忌々しげに舌打ちをすると、そのまま奥へとひっこんでしまった。

 まだお客は残っているのに不在でいいのかしら……。


 師匠はケチだから、最初に言わないとお金を払ってくれないのよね。

 最初の頃は何度もお金を忘れ、魔法の言葉「師匠にツケといてください」を連発したものだ。

 ちなみにそのツケ、私の血液を媒体にした薬を十本作ることで返済できる。


 もちろん、一回のツケにつき……だ。

 値段とかに関わらず、お金を忘れるごとに血を抜かれて貧血で倒れる。

 だったら最初からお金を渡してくれたら良いのに、師匠曰く「アンタの血は高く売れるからねぇ」とのこと。こわい。




 ま、これも仕事の一つよね。

 私は住居スペースまでお金を取りにいき、給士服のまま街へ繰り出すことにした。


 お客がいるのに、店は無人になるって?

 フロアに店員がいなくなって粗相をする客なら、いい実験体・・・となるでしょうね。

 ふふふ。




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