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59:いたずらもほどほどに

 


 セリアに事情を話すと、すぐに……ではないけど来てくれた。


「あなたが正しい判断をできたことに驚きです」


「師匠はそのまま突撃してほしかったみたいだけど」


「訂正します。あなたは愚かな判断しかできませんね」


 見事な手のひらクルー。

 学園に戻ってセリアに事情を話し、師匠からの頼みということを強調してついてきてもらった。

 本来は夜の外出禁止みたいだけど、そこは東の魔女。


 急患を助けに行かないと! と迫真の演技で脱出する様子は「あなた誰?」と問いたくなるほどヒロインしてた。

 いや、この百均女がヒロインなのは間違いないけど、中身がね。


「どうしました? まさか場所がわからないとは言いませんよね?」


「まさか。多分こっちで――――あ、見えてきたわ」


 バレないように薄明かりの中を静かに進み。

 やがて猫様に案内された廃屋が見えてきた。

 ……本当は何度も迷ったけど、セリアには気づかれなかったようね。


「入り口がないようですが」


「そうよ。猫様はそこの隙間から入っていったけど、私は猫になれないから入れなくって」


 嘘じゃない。

 けど、もしかしたらセリアの猫が見れるのでは? という期待をこめての発言だった。


「そうですか。だからわたしを連れてきたのですね。いいでしょう」


 そうして、セリアの居た場所が一瞬だけブラックホールのようなものに包まれると、シュタっと一匹の黒猫が降ってきた。


 微かな月明かりを反射して艶のある毛並み。

 パッチリと開いたお目々と、スマートな身体はとても美人さんね。

 師匠みたいにぽっちゃりとした……いいえ、どこかの猫とは違って若々しいと言ったボディで、ぜひとも顔をうずめたい。


『ではわたしは先にいってますね』


「ちょ、ちょっと! 服はどうしたの?」


『もちろん変身済みですよ。何言っているんですか』


 そういえば師匠も変身した後、既に服を着てたっけ。

 誰得案件になるからそれはいいんだけど、いつも全裸になるクロがちょっとかわいそうね。


『では、いってきま――――きゃっ! ちょっと、何するんですかっ!』


「かわいい~! まるでぬいぐるみのようね! これで喋らなかったら最高なんだけどっ!」


 抱きっ!

 後ろからその無防備な身体をすくい上げ、思わず腕の中へ。

 うーん、この毛並み、重量感。そして反抗具合。

 どれをとってもクーちゃんとも師匠とも違っていいわね。

 あとはこの先にいる猫様も抱かせてもらえば――。


『自慢ですか嫌がらせですかその脂肪の塊をこのわたしにに押し付けないでください』


「あっ、もうちょっと優しく抱くから」


『違います馬鹿なんですか早く解放してくださいひっかきますよ』


「こっちにね、私が壊した入り口があるのよ」


 その言葉に、セリアは「え?」と言いたそうな顔をする。

 驚いた顔もキュート。このままずっと猫でいてくれないかしら?


「ほら、ここから入って地下の入り口を見つけたの。じゃあ――」


『でしたら猫になる意味はなかったのでは? 一度変身したら数分は戻れないのにこの女はだからってわたしに――――フギャバロロ……』


 地下室へご案内!


 なんかセリアの断末魔が聞こえたけど、本来の目的は地下の調査。

 階段に降ろしただけでどうして転がっていくのよ?

 猫に慣れていなかっただけかもしれないけど、セリアならうまくやってくれるでしょう。






 しばらく経ってもセリアは戻ってこない。

 おかしいわね。

 本来なら怒り狂ったセリアが戻ってきたところで安全を確認し、突入するはずだったのに。


「奥で捕まっているかも知れないし、行くしかないわね?」


 コツン、コツンと階段を降りる音が響く。

 セリアが転がっていった距離から、そんなに深くはないはずだけど。

 そうそう、階段を下りた先にこんな扉があって、ゲームではこの中に閉じ込められて――。


 扉を開けたと同時に、私の意識は刈り取られた。




 はっ!

 もしかして罠にはまった?

 周りを見ると、椅子に腰掛けた女性が二人。

 片方はセリアだけど、もうひとりは?


「え、ここは…………あれ?」


「ようやくお目覚めですか。しばらくはそこにいてください」


 セリアはふぅ……とカップを口に運ぶと、何事もなかったかのように女性へ向き合った。

 あの、私壁に繋がれているんですけど?

 このジャラジャラした鎖はヒロインであるセリアの付属品では?


「そこの貴女もよくやる。私を無視したあげくこの子を放り込むなんて」


「この人ここで飼いませんか? わたしもこの人には手を焼いているので」


「いらない。むしろ危険だからはやく引き取って欲しい」


 うわぁ……。

 なんだかよくわからないけど、散々な言われようね。

 しかもなに、このロリっ娘?

 いかにも魔女ですーと言いたげに三角帽子と黒ローブだけど、こんな小さな魔法使いなんて知らない。

 見た目は子供。顔はよく見えないけど、町の子供が迷い込んだと言われても納得できる体型ね。

 南の魔女じゃない限り、考えられる可能性は――。


「さて、では西の魔女様の考えを聞かせてもらえますか?

 そこ、ジャラジャラうるさいので静かにしてください」


「あっ――」


 いくら声を出そうとも、私の口は金魚がエサを欲するようにパクパクするだけになった。

 くっ、セリアのやつサイレント魔法をかけやがったわね。

 パクパクするたびに笑われるので、さっきの意趣返しなの?


「そう。私はあなた達に協力したい。ここには私以外にも黒猫が何匹かいた。彼女が動く日は近い」


「クロウド様ではない猫が? それにヴィル様とは特別親しくしていないはずなのになぜ――フレアさん、その顔やめてください」


 セリアはヴィル様と親しくない?

 私は毎日顔を合わせて、褒められる仲ですけど?

 と、したり顔をしていたら咎められた。

 ついでに鎖も締め付けが強くなった。

 解せぬ。


「では、西の魔女様もこちら側ということでよろしいのですね?」


「そう。レリーナは元気? 彼女はきちんと役目を果たしている?」


「ええ。唯一の欠点といえば、ここにいるフレアに心酔していることでしょうか。

 それ以外は問題なく」


 私が欠点とか言ってくれるじゃないの。

 こっちが喋れないのをいいことに、セリアの毒舌は今日も絶好調ね。


「そう。じゃあ私はここから支援する。がんばって」


 それで会話は終わったみたい。

 セリアは小さく頷いて、そのまま扉から出ていき……。


「――! ――っ!」


「忘れ物。ちゃんと回収していって」


「そういえばいましたね。もう一度問いますが、ここで飼って――」


「無理。私を放置する人はいらない」


 あ。

 これ西の魔女様も根に持ってますね。

 扱いがひどいけど、コレに関しては私も人のことを言えない。


 セリアはしぶしぶ解放してくれたけど、サイレントの魔法はかかったまま。

 なぜ?


「ときに西の魔女様。わたしも先程は投げられてしまいましてね」


「知ってる。見てた」


「お互いにこの身体、好きにしませんか?」


 投げたんじゃなくて、あなたが勝手に転がっただけでは?

 そう抗議したかったけど、サイレントのせいで声はでない。

 セリアの手が脇腹に伸び、西の魔女様は靴を脱がしてきて――。


「――っ! ――――っっ!」


「何を言っているのでしょうね? おや、ここを触ると踊りだしますよ」


「ふむ。私は趣向を凝らして、猫になってサワサワする」


 それご褒美だけど、足の裏はやめて!

 しかしサイレントがかかった状態では声は出ない。


「――! ――っ――――っ!」


 もし声が出てたら笑い殺されてた。

 しかし、いくら身体をよじっても二人はくすぐりをやめてくれない。

 数分。

 いや、数十分?


 二人のくすぐりが終わったときには、もう立てないくらい疲れ果てていた。

 これが、魔女の力……。



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