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5:クレア死す

 

 お父様が出て行ったあと、入れ替わるようにしてレリーナが入ってくる。

 どうやら部屋の外で全て聞いたようで、私の決断に何か言いたそうで何も言えず、悶々としているようだ。


「私は、まだ死にたくないわ」


「……はい」


「わがままでごめんなさいね」


 それだけ伝え、軽く目を瞑る。

 静かに扉が閉められた音から、レリーナは何も言えずに出て行ったのだろう。


 どうしてこの世界に来たのか知らないけど、自らの欲望のために関わりの薄い家族を巻き込む。

 ……どうせなら、ヒロインになれたらよかったのに。


 このままクレアが死ぬ未来も変わらず、私に残ったのはヴィル様……の妹になって会話できた思い出だけ。

 地球に戻れるかはわからないけど、その思い出があれば来た意味はあったのかもしれない。


 そうしていつしか眠りにつき――。




 かすかに聞こえた猫の鳴き声で目が覚めた。


 既に夜は遅い。

 窓のほうから、にゃーんにゃーんと猫の鳴き声が聞こえてくるけど?


「レリーナの言っていた白猫かしら。発情期なの?」


 この世界にきてから、私はまだ動物というものを見ていない。

 もし猫ちゃんだったらモフモフしたいのだけど。


 好奇心から、鳴き声に誘われるように窓へと近づいて開放した。

 途端、冷たい外気が部屋の中へ流れ込んでくる。


「これは良い夜風ね。空気も新鮮だし、気持ちいいわー」


 うーんと軽く伸びをし、景色を楽しむ。

 夜空には月と星が輝き、ここが地球だと言われても信じてしまいそうだ。

 ふと思ったけど、この世界に星座の概念とかあるのかしら?


 星空に見惚れていると、私の真横をサッと何かが通り過ぎる。

 一瞬の風かな? とも思ったけど、振り返ってみるとどこか得体の知れない恐怖を感じた。


「…………っ!」


 何かいる。

 そう感じたのは本能だ。


 いつでも逃げられるように窓は開けたままで、部屋に入り込んできた何かを探す。

 ……………………そして見つけた。


 暗闇に光る、黄金の光を二つ・・


「猫ちゃん、なの?」


 それは、私のベッドの上にいた。

 月明かりをうけているにも関わらず、その毛並みは闇のように深い。

 そして黄金の眼だけは、さも獲物を逃がさないと言うかのようにこちらへ真っ直ぐ向けられていた。


「あなた、黒猫なの?」


『何だい。もっと取り乱すのかと思えば、随分冷静じゃないか』


「シャ、シャベッタァアああ!!」


 怪奇! いきなり言葉を話し出す黒猫!

 え、これってもしかして同意の上でモフり放題?

 私なら黒猫でも自重しないよ?


『止まりな小娘。何か身の危険を感じるからやめておくれ』


 黒猫ちゃんは警戒するかのようにフシャー! と毛を逆立てる。

 そんな仕草も可愛い!


「大丈夫だよー、怖くないよー?」


『……全く。普通はアタシを怖がるのだけどね。それ以上近づくとアンタを助けるのはヤメだ』


 薄々気づいてはいた。

 このタイミング、そして魔女の遣いとされる黒猫。

 そんな存在が私に用事なんて、一つしか思い浮かばない。

 トントン、と軽く姿勢を正してっと。


「私はクレア・ラグドーレと申します。初めまして、北の魔女様」


 私に手を差し伸べてくれた存在。

 それが、黒いモフモフとなって会いにきてくれました。



 ◇◇◇



 夜は長い。

 ただでさえ退屈なのに、この時間はレリーナも就寝している。


『つまり、アンタはある程度未来を予測できるって? こりゃまた、とんでもない逸材を引き当てたね!』


「ええ。私に出せるカードはそれくらいです。もちろん、百発百中とまではいきませんが」


 私はベッドに座りながら、黒猫の魔女様を思う存分モフっていた。


『あー、そこそこ。アンタ撫でるの上手だねぇ……』


「おや、お疲れですかい? 疲れがたまってまんなー」


『ちょいと副業のほうがね。あとその言葉遣いはなんだい? 気持ち悪いからやめておくれ』


「あっ、はい」


 どうやら黒猫状態でも疲労は残るらしく、魔女様は仕事の疲れが溜まっているようだった。

 魔女って何の副業をするのかしら?

 怪しげなポーションでも販売していたりして。


『さっき言ったように、アンタを助けるのは善意じゃないよ。だいたい、魔力暴走状態の子供ってのは、早いうちに命を落とすものさね』


 北の魔女様がいうに、私は生まれつき魔力保有量が多いらしい。


 魔力の適性が現れるのは、第二次成長期ごろ。

 ここで高い魔力を持つものは適正アリと判断され、各国の魔法学園へと行くことになるのだけど。


 私の場合、魔力が膨大すぎて成長する前に爆発しちゃうってさ。


「それって魔法を使って発散してもダメですの?」


『体が完成する前にそんなことやってみな。さらに魔力が増えて、周囲も巻き込んで破裂するよ』


 ……想像したくない。

 私みたいな子は数十年に一人いるらしいけど、攻略対象の一人もたしか同じ境遇なのよね。

 まさかあの攻略対象と同じ症状だったとは予想外ですわ。


『で、アンタにはこれから魔女見習いとして生きていく覚悟があるのかい? もっとも、覚悟できないなら死ぬだけだよ』


 この北の魔女様が私を求める理由。

 幼いころから魔力保有量が多い子供を探し、次世代魔女の後継者を探すという。


 魔女というのは人間だけど、正確には人間ではないらしい。

 じゃあ何だと言う話だけど、人間の皮を被った何か。

 それか神か悪魔の遣いという説もある。


 人ならざる力で蹂躙する姿は、そう捉えられても仕方ないのかもしれない。


 けど私は知っている。

 それは南の魔女だけ・・・・・・で他は人間……いや、亜人だということを。


「北の魔女様は、ただ後継者が欲しいだけですよね?」


『正確には助手さね』


 魔女の血を長期に渡って取り入れると、魔女の眷属としてその魔女に服従する。

 その代わり、魔力操作が上達したり、長きに渡って伝えられた術も継承できる……可能性もあるとか。


 今回の目玉は魔力操作だ。

 これさえできれば、体内に巡る膨大な魔力も制御できるらしい。



 メリットは

 ・健康体(?)になれる。

 ・魔力、魔法の知識が得られる。

 ・今後もヴィルお兄様と生活できる。


 デメリットは

 ・魔女に連なる者になる。

 ・家族に迷惑をかける。

 ・北の魔女にコキ使われる。



 ……いまさら、考えるまでもない。


「助手でもなんでもやるわ。私を死なせないで?」


『フッ、いいだろ。じゃあまずは――――死ね』


「……え?」




 その日。

 願いをすぐに反故した魔女によって、私は殺された。


 証拠は残らない。

 ……ただ一枚の、手紙と何か・・を除いて。








やめて!

もしお兄様とのお話中にクレアの体内魔力が暴走したら、私の愛するヴィル様にまで大けがをさせちゃう!


お願い死なせないで魔女様! 

私が今ここで倒れたら、お兄様やレリーナの決意はどうなっちゃうの?

メリットはまだ残ってる。ここを生かしてくれたら、全部教えちゃうんだから!


次回、「クレア死す」デュエルスタンバイ!(大嘘)

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