57:違和感の謎
使用人としての作業中に聞きこみをしたら、やはり黒猫は目撃されているらしい。
何日か前に庭で見かけたとのことだけど、最初は何かわからなくて放置していたんだとか。
学生から世間話として話をふられ、それが黒猫だと気づいたとのこと。
「だから、出現するとしたら寮よりもこっち側なのよね。二人は見かけたことない?」
「うーん、ないですね。そもそも、私より先に他の方々が騒ぎ出すはずですし」
「あたしもないわ! アルフォンス様の前にも現れないなんて、とんだ無礼者ね! 噂って時点で信用できないし」
「カトレアちゃんは黒猫に何を求めているの?」
昼休みに二人を誘って聞いてみるも、あまり良い返答はなかった。
ヘカテに関しては黒猫が近くにいるだけで怯えるのにこの余裕。
ちょっとはクーちゃんで免疫もできたみたい?
しかし、噂が信用出来ないというのも一理あるのよね。
もしかしたら見間違いかもしれないし。
「じゃあまた情報を手に入れたら教えてね」
「いいけど、どうしてセリアに聞かないのよ?」
「えっと、あの……フレアさんは、あの方と仲が悪いのですか?」
「なんていうか、何だろ?」
二人の疑問はごもっともだけど。
仲が悪いと言うか、相容れない存在というか。
元プレイヤー同士といっても、モブとヒロインじゃ扱いが違うし。
でも自然とモテモテなセリアと違って、ヴィル様が残っている限りはライバルって感じでもないのよね。強いて言えば。
「きょ、協力者?」
「どうして疑問系なんですか……」
「協力者なら、尚更協力してもらえばいいじゃないの!」
「なんでもヴィル会長から仕事を頼まれたそうよ。ルファスと二人で」
「「あぁ……」」
うん、嘘は言っていない。
何を頼まれたのかまではわからないけど、その仕事があるからヴィル様にひとりで聞き込みしてくれって言われたんだっけ。
昨日の今日で終わる内容ならいいけど、長引くのかしら?
その場は解散し、今日はカトレアちゃんも含めて書架で落ち合うことに。
……一人じゃ話相手がいなくて退屈なんだもの。
ヴィル様が手伝いに来てくれる可能性も考えたけど、ヘカテいわくまだ仕事がたんまりと残っているとのこと。
書架の担当になるはずだったヘカテが、ヴィル会長につきっきりなのも仕方ないわね。
セリアはルファスとカミーユにより会長補佐から外されたらしい。ざまぁ。
午後から他の使用人仲間にも聞いてみたけど、得られたのは先程の目撃情報一件。
つまり、まだ黒猫が現れてから日は経っていないということね。
そんなことを書架で報告すると、ヘカテから意外な声があがった。
「え? 生徒たちからはもう十件に届きそうなほど……」
「それほんと!?」
「は、はい……もし心配なら、会長に確認してみてはいかがですか?」
生徒たちの報告は生徒会へまとめて届く。
なんでも目撃された件数が片手で足りなくなってから、問題視され始めたんだとか。
「そういやヴィル会長も、生徒たちの目撃情報はあるって言っていたわね……頼む時に教えてくれたら良かったのに」
「会長も忙しいのですよ。私も今日くらいしかこっちへ来れませんし」
今日はヴィル様、別件でカミーユと回るらしい。
なのでヘカテは手持ち無沙汰だったらしいけど、そのおかげでちょうど私のところへ来ることができたってさ。
これから生徒会に集まった情報はヘカテに教えてもらおうかしら?
頼めばヴィル様も教えてくれるだろうけど、大変そうにしているのに邪魔はできないから……。
「私としては、一刻も早く立ち退いてもらいたいのですけどね」
「そうね! アルフォンス様も頭を悩ましているようで、全然構ってくれないのよ。見つけたら捕獲しなくちゃ」
「カトレアちゃんは……まあいいや。ヘカテ、頼んだわよ。カトレアちゃんはまあ、その、がんばって?」
しかし、アルフォンス王子って影が薄いわよね。
本当ならセリアがべったりになるはずだけど、あの子は王子に興味ないらしいし。
恋愛よりも魔法をエンジョイしてるみたい。
おかげでカトレアちゃん以外に女の影がないのはいいとしても、むしろ学園にあまりいないってどういうこと?
「アルフォンス王子も忙しいの?」
「ええ。最近は会議ばかりで寝不足とボヤいていたわ。でもそんな眼もかわいくて素敵なの!」
「お、おう……」
「フレアさん。言っておきますが、ヴィル会長のことを話す時、貴女も同じ顔してますからね?」
「それを言うなら、クロを見つめるヘカテだってそうじゃない」
何気なく放った言葉だけど、それを聞いたヘカテはだんだんと顔を青ざめていく。
クロというか、クロウドが好きなんじゃないの?
「えっ、ちょっと! どうしたの?」
「す……ご、ごめんなさい。ちょっと気分が悪いので、帰らせていただきますね……」
「大丈夫? じゃなさそうね。カトレアちゃん、悪いけど寮まで送っていってくれる? 私も一緒に――」
「だ、大丈夫です! フレアさんはここで続きを。カトレアさん、悪いのですが……」
一瞬ヴィル様に任された仕事かヘカテを優先するか迷ったけど、彼女の言葉には微かな拒絶を感じた。
まるで私がついていくのを避けるように。
ただの勘違いかもしれない。
だからついていってもいいのだけど、ヘカテがそれを望んでいないなら強行はしない。
「そう? じゃあ、お大事にね。また明日会えるのを楽しみにしてる」
「ええ……すみません。では、今日はこれで」
「えっと、フレア? 貴女も無理しないようにね?」
そうして二人は去っていき、私は一人残されたけど。
その後はヘカテのこともあり、あまり仕事は捗らなかった。
ある程度終わらせ、無人の生徒会室に書き置きをする。
セリアとルファスも見なかったし、もうすぐ食堂の時間。
このまま寮まで行ってまた明日ね。
そんな夕刻に一人歩いていると、視界の端に何かを捉えた。
「ん? 飛蚊症かしら」
ゴシゴシと擦って、違和感があった先へ目を向ける。
そこには、黒い塊が存在していた。
それだけなら石か何かに見えただろうけど、決定的に違うのは黒い塊についた点のようなもの。
二つの、黄金の眼。
「くろ、ねこ?」
呟いた言葉を肯定するかのように、それは短く「にゃぁ」と鳴いた。




