56:黒猫は二匹いる?
「こうやってみると、私もタダの学園生ね」
「あら? 滲み出る品性は隠しきれていませんが、本当に擬態できていると思っているのですか?」
「……………………」
書架には二人きり。
いつもなら止めてくれるはずのルファスもいないから、セリアと無言で手を動かす。
ほんとこの女、口が悪い。
制服はヘカテが貸してくれたので、午後は大手を振って潜入できるように。
ただ、講義中などはこの部屋に隠れて資料整理をすすめたり、使用人服でいかにも掃除してますーというていで擬態したり。
気分は特別捜査官! となればよかったんだけど。
擬態というか、フツーに雑用係として使われているのよね。
「あまり余裕がないのでお聞きしますが、進捗はどうですか?」
「え、なんですか?」
「難聴もほどほどにしてください。あの方にいいつけますよ」
あの方とは、もちろん師匠しかいない。
認めたくないけど、このセリアとは協力体制なのよね……。
「今のところ、生徒に怪しい動きがないのは知っているでしょ?
あのカミーユはセリアはぞっこんだっただけだし、アルフォンス王子がコソコソしているのは気になるけど、どちらかといえば味方だし」
あれから数日見張っていたけど、特に尻尾をつかめなかったセリアと違ってすぐに気づけた。
カミーユはヴィル様の友人でアルフォンス王子のこしぎ……付き人。
元気になったヴィル様が異様に心配で、生徒会長という役職をサポートしたいがために加入したとか。
それを聞いて、めっちゃいい人なのは確定。
あとは軽く話をするようになったルファスの談で、彼がセリアを狙うライバイルだと。
ルファスはキザで生意気な男だと思ったけど、ヒロインに一途なルファスはかわいい。
事情を知っている私の魔力もけして受け取らないし、彼と話していればセリアが距離を取るので面白いし。
アルフォンス王子はそもそもヴィル様の味方、それに王道ルートなので大丈夫なはず。
なので、今は疑う人も居ないので振り出し状態だったりする。
「一つだけ、気になる噂があるのですが」
こちらには目も合わせず、セリアが話し出す。
それをみて私も作業を再開するけど、もったいぶるように中々続きがこない。
「…………教えてよ!」
「はぁ。わたしも小耳に挟んだだけですが、男子生徒が黒猫の姿を見かけたそうですよ。訓練中だったので、見間違いかもしれませんが」
黒猫。
魔女は全員変身できるとか聞くけど、そういやゲームのヒロインは潜入の時に変身してたっけ。
だからセリアも可能なはず……まさか!
「先に言っておきますがわたしではありませんので。お宅のクロさんが可能性高いですが、万が一ということもあります。偵察の線も含めて警戒しておいてください」
「そ、そう」
魔女の使いともいわれる黒猫。
ゲームだったらクロ、もといクーちゃんが学園にいてもおかしくない頃だけど、ちゃんとお留守番してるわよね?
今日帰ったら、一応聞いてみようかしら。
ノルマを終え、生徒会室へ戻った時も同じ話を聞いた。
「何やら、学園内で黒猫がうろついているらしい」
「っ!!」
息を呑んだのはヘカテだけ。
セリアもルファスも関係者なので無反応だけど、ヴィル会長が話題に出したってことは。
「この噂の真偽を、そうだね。フレアさん、少し調べてくれないかい?」
「私ですか?」
ヘカテは論外だとしても、セリアとルファスは……あ。
あの笑み、何か企んでいそう。
「うん。自由に動ける君だからこそ、使用人で誰か見ていないか聞いてほしいな。生徒たちの目撃情報はあっても、そっちはまだないんだ」
彼のことだから、アルフォンス王子にも相談済みなのだろう。
それでも私に頼むってことは、まだ解決していないのかな?
けど、それはこちらとしても好都合。
ヴィル様の好感度もアップで一石二鳥ね!
「そしてルファスとセリアさんには、二人で別の仕事を頼みたいんだ。
書架の整理もある程度パターンが出来ただろうし、二人はこっちを手伝ってね?」
「うへぇ……」
それは誰の嘆きだったか。
二人にとってもそうだけど、私としても人手がなくなるのは……。
最悪、魔法でちゃちゃっと終わらせることもできるけどね。
にしても、二人に頼んだ仕事ってなんだろう?
私だけを先に帰すなんて珍しいけど、今日はもう食堂へいかないと。
◇◇◇
「ねぇ、クロって勝手にゲート通ってきていないよね?」
「何だいきなり。学園には…………興味が無いとは言わないが、近づいてはいないぞ」
ある程度ヒマになってから聞いたけど、クロは学園に来ていないという。
ヘカテに会いに、なんて聞いたらロマンチックだったけど、そんな甲斐性もないらしい。
「何故か視線で侮辱されている気がするのはどうしてだ?」
「いーえ、なんでもないですよ」
昼間はごろんと丸くなって、良い身分ですよね。
たまには学園でひなたぼっこしてくれてもいいのに。
「いきなりどうした?」
「最近、学園で黒猫が目撃されたらしいのよ。本来なら正体がわかっているから問題ないのだけど、その正体がここにいるのよね……」
自己申告だから師匠に聞かないとわからないけど、師匠は最近工房から出ていないらしいし、昼間は休業も増えたみたい。
ただ、それで売上が変わらないっていうのもすごいのよね……レリーナブーストと、その分夜の客が増えたってことだけど。
そんなわけで、最近は夜の休憩間隔が長くなったくらいに忙しい。
「黒猫か。それは先輩が探している大きな手がかりじゃないのか? 南の連中は黒猫がたくさんいるんだろ?」
「そうだけどー、まだなんとも言えないわね。ねぇししょー」
「ダメだ。今日の営業が終わったらにしな」
見れば、次々と料理が完成している。あとは配膳待ち。
急かすようなお客はいないけど、冷めるからはよ持っていけという無言の視線が痛い。
「はーい。日替わりセットお持ちしまーす」
「出た! 嬢ちゃんのトリプル配膳コンボだ!」
うるさいわよ。
溜めてた私も悪いけど、これ見世物じゃないから。
立派なしゅぎょ……最近は自信がなくなってきたけど。
「ししょー、黒猫が学園にいるとかいないとか噂が流れていますけど、心当たりはあります?」
「どっちなんだい、はっきりしな!」
噂なのでなんとも言えません。
師匠が工房に籠もりっきりというのは本当のようで、レリーナが立ち去ってからも仕込みを始める様子はない。
あの、食堂がメインでは?
そんな師匠に、クーちゃんかもしれないと問えば「はいはいそうかもね」という適当な返事をいただけた。
「でも今の所、怪しいのはそれくらいですよ?」
「ならさっさと突き止めてきな。もしそれが南のヤツの偵察だったらどうするんだい? あいつらの猫は斥候もこなすと言ったのはアンタじゃないか」
あの『Magic☆Cats』で学園に黒猫がー、というのはクーちゃんだったけど、もしかして黒猫は複数居る?
可能性はゼロとも言えないから、確かに警戒は必要だけど。
「常時監視するにしても時間が足りません。何か監視できる魔道具とかないですかね?」
「アンタの使命は?」
「ヴィ……情報を探ることです」
「なら、そういうことさね」
つまり、一人でなんとかしろと?
……セリアとルファスは無理そうだし、ヘカテとカトレアちゃんに協力してもらおうかな。
あと2話くらいで最終章に入れそうですが、次は月曜日に更新します。




