55:わ、忘れてないから
夜は食堂の手伝いとはいえ、働くのは主にクロだ。
師匠とレリーナは昼に動いているらしいけど、売上が伸びている気はしないのよね……。
彼女がいて、私がいたときよりも売上は低い。
つまり、私目当てのお客さんが多かったってことね!
「さっさと運んでくれ、先輩。後が詰まっている。別にあの女性にヘルプを頼んでも良いのだが?」
「え、私が運ぶからいいわよ。だって師匠になんて言われるかわからないじゃない」
最近はヘルプが終わった後も、レリーナは師匠と工房へ籠もることが多い。
彼女が西にいる魔女の代理人ってことにも驚いたけど、いつのまにそんな仲良くなったのよ。
こっちは仕事ばかりで忙しいっていうのに。
「お、フレアちゃんじゃないか。今日は学園の手伝いじゃなかったのか?」
「あっ、レオン先生。や、やだなー今日はこっちですよ」
「そうか、あっちもこっちもで大変だな。ま、生徒になれなかったなら仕方ないか」
「それは言わない約束ですよ。忙しいので、お相手はまた次の機会、で」
先生は転送陣以外の事情を知っている。
だから下手に情報を流せないのだけど……店に来るのよね。
本当にアウトなら師匠が私を出すはずないし、いざとなったらレオン先生と同じように魔法を使って距離を短縮してるとでも言えばいい。
それで納得してくれるかはともかく、バレたらそのとき考えろとは師匠の言い分だ。
そのときは誤魔化せる自信がないので、師匠に丸投げする予定。
お客も少なくなってきた頃、ふとレオン先生の視線が気になった。
「? 何か用ですか」
「いいや、学園での生活はどうだ?」
「忙しいですけどそれなりにやってます。生徒会長のヴィル様と毎日会えるので、その点で言えばここよりも恵まれてますね」
あの顔さえ見ればいくらでもがんばれる! とまではいかないけど、山のような書類を見てもやろうって気になれる。
だって終わったあと報告にいくと「よくがんばったね。明日も頼むよ」と頭を撫でてくれるもの。
セリアは「……ちょろ」とか言ってきたけど、近寄ろうとしたカミーユやルファスから逃げる姿は面白かった。
けど、いきなりなんでそんなことを聞いてきたの?
「先生は今の生活どうですか? こっちまで戻ってくるのは辛そうですが」
「ミナのためだ。もう少しで改善されるし、あとひと踏ん張りだな」
ミナとは先生の妹さん。
もう少しってことは、病気が治ってきているのかな?
先生も個人で動いているみたいだし、私が気にすることでもないか。
今日も師匠には異常なしって報告しないと。
「で、アンタは何しに学園へ行ったんだい? まさか書類整理のためとか言わないだろうね?」
「じょ、情報を集めるためです……」
魔女側に不利な情報を流されないか、問題になりそうな点がないか、南の魔女の手が伸びていないか。
諸々の事情があるわけだけど、これといった情報はない。
強いて言えば、カミーユが怪しいけど尻尾をつかめない?
だって学園へは昼以降しかいけないし、限られた時間で探るにしろ、彼がどこにいるか知らないのよね。
セリアの近くによくいるから、彼女に丸投げとも言えるけど。
「あの、魔女様。やはりクレア様ではなく、私が適任ではないでしょうか?」
「お前さんはこの食堂になくてはならない存在だよ。それに、生徒に潜り込めるってのが利点な癖、この見習いはそれを活かしてないときた。今夜の夢が楽しみだねぇ」
「そ、それはやめて。あと潜り込めって、制服もないのにどうやって」
セリアの制服は見ただけで小さいとわかるし、私も借りたくない。
ヘカテなら貸してくれるだろうけど、ヘカテか……。
腰回りがきついような予感がして嫌なのよね。
でも師匠が追求してくる当たり、贅沢を言ってられるほどの余裕はない。
「そんなに急ぎの案件なの?」
「あの小娘が言うには、いつ動き出してもおかしくないらしいじゃないか。アンタの未来視? がアテにできない以上、万全を期すには情報だよ」
攻略対象の彼らがこっちに関わってきてから、セリアもルファスルートから逃げられなくなっているとか。
もちろん、私としてもルファスとしても大歓迎だけどね!
アルフォンス王子は中々捕まらないけど、カトレアちゃんは生き生きとしているし、ヴィル様にいたってはいい感じ。
……いい感じ、よね? 毎回褒めてくれるし、顔も合わせてくれるし。
ただ最近、余所余所しくなったというか、憂い顔の王子(笑)が復活しかけているのよね。
そんなヴィル様も好きだけど、悩み事に苦しむ姿は見たくない。
だってあの顔、同じ屋敷に居た頃のお兄様を彷彿させるもの。
私も制服を来たら、お兄様は相談してくれるかしら?
まずはヘカテに貸してくれるか聞いてみないと。




