54:さすがヒロイン
この棚の整理をお願いしたい。
そう案内された場所は、うちの食堂と同じくらいの空間でした。
「えっと、どの範囲なの?」
「全部です」
「?」
「ここにある資料、全部」
「うわぁ……」
二十メートル四方の部屋に、縦で並んだ棚が数十列。
会社の資料室というより、小さな町の図書館みたい。
ここには過去の資料が無造作に並べてあるらしく、年代順に片付けてほしいとのこと。
「先人たちは馬鹿なのでしょうか?」
「俺に言われても知らん。ただ、現会長以降の資料だけは向こうで綺麗に並べてあるぞ」
壁際に不自然なほど空間のあいた棚がある。
全く埋まっていないけど、あれが今の生徒会で処理した資料になるらしい。
あ、ちゃんと先生用の隔離スペースもあるのね。
……そっちは、すでにごちゃごちゃしているけど。
「これは結構かかりそうね。これからずっとここに居ようかしら?」
「それでもいいですよ。密談するのにちょうどよい部屋ですし、ここをわたしたちの部屋としましょうか」
先程からセリアは、ルファスにはよ出てけという視線を送っているも、彼に堪えた様子はない。
振り回されるセリアが面白いから、アシストしちゃおうかな。
「ルファスも事情は知っているんでしょ?
これだけ多いと、人手はあったほうがいいから三人でやりましょ」
「そ、それは……っ、なら他の生徒も呼びましょう。それなら早めに……」
「貴族以外で処理したい案件じゃなかったの?
どちらにせよ、魔法でちゃちゃっとやってしまう予定だから、部外者はいないほうがいいのだけど」
「そうだな。俺たち三人でやろう」
ルファスの表情は変化しないけど、私とセリアは知っている。
彼は平常心を装っているけど、緊張すると魔力の威圧が強くなるのだ。
敏感な者や魔女関係者ならすぐ気がつくので、彼の気持ちが昂ぶっていることは筒抜けである。
ナイスアシスト、私!
本気を出せば数日で終わりそうだけど、カモフラージュのため手でやれる量を分類する。
まずは棚にどんな資料があるか分類しないと。
教師が使う資料と、毎年行事のデータ類。そして生徒会関係とその他かな。
夕飯のレシピまであるとか、誰がここに入れたのよ……。
手早く片付けて、セリアに火急の案件を相談。
「ねえ、ルファスってこっちの陣営でいいの?」
「わかりませんね。魔女の血が流れているといっても、彼が協力的なのはわたしに…………のはずです。南のと繋がっている可能性もある以上、あまり情報の開示はできません」
攻略対象にとって、敵は共通の敵……とはならならいのが厄介だ。
アルフォンス王子、ヴィル様、レオン先生は正統派なのだけど、ルファスに関しては裏切りがある。
それが人気になれない理由、私たちが心を許せない理由でもあるのだけど、彼って簡単に敵へまわるのよね……。
ヒロインちゃんの謎パワーというか、涙の力で正気に戻るのだけど、その感動のシーン(?)を見ているため、いまいち信用できない。
しかし、だからといってスパイを疑うのは早計。
彼が南の魔女と接触しそうな日はセリアが連れ出していたり、傍に居て監視していたので可能性は少ない。
まあ、そのおかげで惚れられた可能性は高いけど。
ま、セリアの犠牲で彼が南の魔女と接触しないなら安いものね。
本人はともかく。
「しかし、彼はわたしの魔力なしでは厳しい身体になっています。
南の魔女の魔力を取り込んだ形跡はなさそうなので、暴走させられることはないかと」
さらっと重大なことを聞いた気がしたけど、まあいいわ。
ルファスには事情を少しだけ話し、泳がせることに。
ある程度事情を知っている彼ならば、何かあっても大丈夫だと。
しかも、セリアを裏切ることはしないだろうしね。
「それで、あんたもカミーユが怪しいと思っているわけ?」
あの場にいないことを考えれば、セリアが疑っていることは明らかだ。
アルフォンス王子の腰巾着って感じだけど、あれが魔女とつながっている?
王族と魔女の相性は最悪だから、潜り込んでいてもおかしくはないけど……。
「いいえ。そのような単細胞的な考えはできませんが、疑わしいところがあるのは事実です。彼、わたしに対する行動がおかしいのですよ」
いちいちトゲのある言い方をするとか、セリアも根に持つタイプらしい。
第三者から見るカミーユは、ただ猪突猛進でこうと決めたらそれしか考えないような人みたいだけど、セリアに対しては気持ち悪いくらい別人になるらしい。
怪しいうんぬんより、その態度を見たくなかっただけとか。
……メンバーにもハブられるウェルダン君、あわれ。
「でもおかしいですね。ルファスに彼を誘うように頼んでいたはずですが、用事でもあったのでしょうか?」
「ちょうどそこにいるから聞けばいいじゃない。ねえ、ちょっと聞きたいのだけどー」
「………………」
「あの、ルファスさん。わたしが頼んでいた件で、お聞きしたいことが」
「呼んだか?」
ちょっと彼、集中しているだけかと思ったけど、いまセリアに話しかけられたら露骨に態度変えなかった?
……気の所為じゃなかったら、アシストなんかしてやらないよ?
「カミーユさんがいなかったみたいですが、副会長は用事でもありました?」
「それは、ああ。参加できないと言っていたな。
すまない、伝えるのを忘れていた」
これは嘘だ。
ゲームでは立ち絵の変化上わかりづらかったけど、いまのルファスは片眉がピクピクしている。
ヒロインはこの仕草で彼の心を見抜くのだけど、この様子じゃカミーユを誘ってすらいなさそう。
「そうですか。ではカミーユ副会長に、今日のことを報告に――」
「待ってくれ、俺から伝えておく。そうだな、今からいってくるよ」
逃げるようにルファスは去っていくけど、去り際。
「…………厄介なライバル、だもんな」
と呟いたのはよく聞こえた。
なんでかって? ルファスに聞こえないよう、ささやき声で会話していたため、拡声の魔術がまだ残っていたんだもん。
セリアの顔を見ると、横に背けたままこっちを見ない。
「ねえセリア」
「わかっています何も言わないでください彼はアルフォンス王子の代わりにいろいろ手伝ってくれただけで、好感度をあげようとかそういう――」
「そのままがんばって♪」
私的にはヴィル様を狙わなければ問題ないし、二人ともヘカテやカトレアちゃんのような存在も居ない。
レオン先生は妹が最大の障害だし、セリアが全部引き受けてくれた。
そんなことを笑顔で言ったら、鎖骨をグーで殴られた。
すぐに回復してくれたけど、女性同士だからって容赦ないわね……。
平和な日常回。
あと20話で完結させる予定なのに、まだほのぼのしてます。




