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52:姉でも魔女でも生徒でもなく

 


 あれからヘカテがカウンター席に突撃したり、カトレアちゃんの終わらない話にヴィル様がやんわりと逃げたりと色々あった。

 ……まさかヴィル様が、レオン先生をダシにして逃げるとは。


「そういえば、フレアさんは明日一緒に帰るかい? 今日は随分と早かったみたいだけど」


 そりゃあ、直通なので。

 ヴィル様との馬車旅も捨てがたいけど、絶対に師匠は許してくれない。

 うう……今回はあきらめよう。


「大丈夫です。多少の遅刻は許容してもらっているので。

 休日はこっちでガンガン働きます!」


「あなた働いていないじゃない」


「だな」


「代わりに宿屋へ行かせたほうがよかったかねぇ?」


 カトレアちゃんが冷静につっこむと、すぐさま食堂組が同意してくる。

 一応これ、師匠の命令なんですけど?


 話し相手にレリーナが来ても、お兄様がいたら彼女、口開きませんよ?


 食堂にいつもの空気が流れたところでお開きとなり、次はまた学園で、と明日は来ない宣言をして帰っていく。


「師匠、確認ですが」


「ダメに決まってるさね」


「まだ何も言ってないです……」


 地獄耳の師匠には、一緒に帰る宣言も聞かれていたようで。

 知ってはいたけど、少しは希望をもたせてくれてもいいじゃない。




 今頃ヘカテたちは、ヴィル様と仲良く馬車の旅なんだろうなー、と思うとやる気が出ない。

 昼間っからカウンターにぐでーとしても、今は誰も咎める人がいない。

 だって師匠も、乱入してきたセリアと歓談中だし。

 あぁ……このひんやり感が気持ちいいのよね。


「にゃーぁ?」


 咎める人はいないけど、咎める猫はいる。

 眉を吊り上げて訝しげな視線を送ってくるクーちゃんには、猫なのによくそんな顔ができるなーと感心したり。


「いいんですよ。どうせ師匠が出てくるまでは準備中ですし。

 いきなりやってきたセリアに、師匠をとられて悔しいなんてことは思っていないので」


「にゃ」


 ぽんぽん、と肉球で軽く慰めてくれる。

 ……いい子や。


「ありがとうございます! では早速そのポンポンに顔を――」


 サッ! と素早く距離をとられた。

 そこまでは許してくれませんか、そうですか。

 こちらが元気になったのを察したのか、クーちゃんは丸くなって寝る準備を始める。

 あの、もうちょっと相手してくれてもいいんじゃない?


 それからは師匠とセリアの会話をBGMに、コツコツと練習。

 いつまでも外に出られないとかいう危険な状態、早くなくならないかな?

 一回だけ外へ攫われた時はなんとかなったけど、次も大丈夫って保証はないし、また師匠が助けに来てくれるとも限らない。


 うーん、うーんと唸っていると、師匠にうるさいと追い出されたけど。




 帰りはセリアと一緒に帰るため、夜の時間はクロを入れた三人でまわす。

 今日は昼に閉めていたからか、妙に客入りが良い。

 稼ぎ時に店を閉めるとか、やっぱり魔女が本業なんじゃない?


「次はこっち頼む」


「はーい!」


「嬢ちゃん、エール追加でもってこい!」


「少々お待ちを!!」


「全く、騒々しいですね。わたしみたいに優雅にできないのでしょうか」


 ふぅ……と、ひとりため息をつくのは、カウンターに座るセリアだ。

 ソーサーを持ち上げて紅茶をちびちび飲む彼女は、その仕草だけでここの常連を寄せ付けない空気を放っている。


「……師匠、アレ追い出しません?」


「あれくらいはサービスしてやんな。

 アンタより客寄せとしての効果も高いからね」


 ヘカテやカトレアちゃんとはまた違った雰囲気。

 いかにもお嬢様ーという姿勢だけど、あれただの平民なんですよ。

 師匠のお気に入りでヒロイン。しかも魔女で聖女というマシマシ案件だけど。


 結局その日は、夜までセリアの視線に晒されながら仕事を終えた。

 一緒に学園へ帰ってからも、お互い無言だったけど。

 ……なんですかその目は。逆に何か言ってくれたほうがありがたいんですけど。






 それなりにハードなメイド業務も済んだ放課後。


 学園では意外にも、ちらほらとメイドの姿が見受けられる。

 これなら目立たなくていいわね! と思ったのも束の間。

 なんか、ジロジロ見られているのだけど?


「ねえセリア。どうしてみんな、こっちを見てくるのかしら?」


「どうしてでしょうね。私と貴女がそっくりさんだからですかね」


 よく言うわ、本人も思ってないくせに。


「じゃ、私はセリアの姉ね!」


「それでもいいですよ」


「え?」


 いつものセリアなら、ここで口喧嘩になるはずなのに……。

 どういう心境の変化かしら。


「優秀な妹に出世され、姉はそのメイドとして雇われる。

 その年で学園生ではない、ということはそういうことですね」


 裏に含まれた意味を察すると。

 魔法が使えない無能な姉は、妹のなさけで仕事をもらった。

 てことね……。

 どちらにせよ、この年齢で学園の使用人ということは、そういうことらしい。

 貴族とか先生の功績とかで入ったボンボンどもがよく言うわ!


「ちなみに、わたしは実力ですのでお間違いなく」


「魔女の力だけどね」


「うふふふふ」


「あはははは」


「……お前たち、扉の前でいつまでも笑うのはやめろ。

 中でヘカテが怯えている」


 一瞬だけ自動ドア? と思ったけど、単にルファスが開けてくれただけみたい。



 ヴィル様、ヘカテ、ルファス。そしてアルフォンス王子もなぜかいる。

 久々に見る彼は何も変わっていないけど、カトレアちゃんのノロケが嘘ではないとしめすように高貴なオーラが伝わってくる。

 これが王族の気品というやつなのね……見た目は人懐っこい少年だけど。


 うん! 全員いるわね。

 ゲーム時代のメンバー、は。


 一番怪しげなカミーユって人がいないけど、アルフォンス王子がいるならちょうどいい。

 彼にあのカミ……ウェルダン君について教えてもらいましょうか。



???「アルフォンス様のいる場所に、わたくしアリですわ!」


いない(無慈悲)

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