51:もとめられても
情報伝達が上手く行っていない。
セリアが意図的に隠しているのかもしれないけど、学園に私がいると知っているのは先生とセリアくらい。
「フレアさんも魔法は使えるんだよね。
どうかな? 僕たちと学園生活を送ってみては」
かつて憂い顔の王子と呼ばれた人物とは思えないほど、爽やかな顔で微笑まれる。
ものすごく「はいっ!」て言いたい。言いたいのだけど……。
師匠を見る。首を横に振られる。わかってました。
でも協力を仰ぐのは推奨なんですよね?
「すみません。学園に入る条件って知ってますか?」
「なんだい、それは? ヘカテさん、カトレアさん、わかる?」
「いえ、聞いたことがありませんね」
「そんな条件知らないわ。あったとしてもフレアなら問題ないわよ」
そこで早速、私が入れなかった理由、条件を説明する。
皆は第一条件で突破しているみたいで、師弟関係のほうもそういえば……と思い出す友人もいたみたい。
ただ、私には無理。
「なので、生徒として通うことはできませんが……じつは」
ちょうどいい。
ここでカミングアウトして、協力してもらおっと。
「え!? セリアの使用人なの? あの全てを見下したような視線をするセリアの?」
「セリアってそんな目をしてるの? 今度聞いてみよっと」
「フレアさん……」
やはり私の存在は皆知らない。
けど、これからは生徒会室くらいなら来てもいいってさ!
というか、ぜひ来てほしいと懇願された。
「大丈夫だよ。メンバーもここに来たことのある人間ばかりさ。
それに僕が会長だからね。フレアさんを悪いようにはしないよ」
「ありがとうございますっ!」
メンバーはここにいるヴィル様、ヘカテ、あとはセリアとルファス。
最後にアルフォンス王子……だっけ?
「カトレアちゃんはメンバーじゃないんだ」
「ええ。アルフォンス様がいるところにわたくしアリ。
彼のいない生徒会なんて興味ありませんもの」
「……え? メンバーはあと一人いるんじゃないの?」
「副会長はカミーユ。
フレアさんがウェルダンと呼んでいた彼が、最後の一人だよ」
あの生意気そうな子供?
背丈はアルフォンス王子と似ているけど、違ったような……。
これはセリアに要確認ね。
それと、もう一つ。
「どうして私を学園に誘ってくれたのですか?」
師匠やセリアはわかる。
戦争を防ぐため、学園で魔女の情報を集める。
『Magic☆Cats』で最後に起きるソレは、普通に過ごしてるだけだと回避できない。
ハッキリ言えば、魔女と国の殺し合い。
原因が南の魔女とはいえ、それを機に全ての魔女は排除されることになる。
ちらっとしか出てこない北の魔女や西の魔女はわからないけど、始まってしまえば全ての魔女が対象になる。
そうじゃないと、力に怯えた民というのは、いつまで経ってもビクビクすることになるから。
師匠が協力してくれるのは、まだここで食堂をやりたいかららしい。
だったら魔女なんてやめてしまえばいいのに……。
北の魔女って称号、そんなに大事なのかしら。
セリアは主人公だから死なないけど、表舞台には立たなくなるのよね。
アルフォンス王子のルート以外は、二人で逃避行みたいなメリーバッドエンドだし。
その魔女の関係者以外、つまりヴィル様やヘカテが私を誘う理由。
既に学園へ潜入している身だけど、それがわからない限りはいくらヴィル様といっても協力できない。
もしかしたら……敵対する可能性もあるので。
「君を、ここの魔の手から……いや。
君の顔を見ると、元気がもらえるんだ。できれば、学園がある日も会いたいから……じゃ、ダメかな?」
「……………………」
ダメかな? ダメかな……ダメかな――。
はっ! 一瞬だけ意識が飛んでしまった。
セルフエコーがかかるくらいに衝撃的だったけど、え? ヴィル様?
目の前にいるのは本物?
この前フラれたというショックはまだ引きずっているけど、これはチャンスなの? それとも隠された意味が?
ああもう! 思考がぐるぐるしてまとまらない。
「えっと、フレアさん? 補足しますとですね――」
「まって! このままの気分に浸らせて!」
手で待ったをかけ、ヘカテを黙らせる。
ああ、しばらくヴィル様の言葉を噛み締めて、耳に残っているうちに返事を――。
「フレアは魔力操作が得意なんでしょ? ぜひ手伝ってもらいたいわ!」
一瞬で真顔になりました。
そのまま顔をスライドしてヴィル様を見るも、苦笑い。
つまりカトレアちゃんの言うとおりってことね。
「質問。それは何日間ですか。期間と報酬を定めてください」
「う、うん。ひと月くらいは手伝って欲しい。
報酬については、学園生として頼みに来たから決めていないよ。
そうだね……使用人というなら、別途報酬がいるかも」
欲のままをぶつけるなら『私と付き合ってください!』かな?
でもそれだと、ヴィル様の気持ちを無視してしまう。
好きな人にはやっぱり、心の底から好きになってもらいたいし。
「でも、君はセリアの使用人というなら、彼女と相談するよ。
雇い主もいないのに、勝手に決めるわけにはいかないからね」
パチ、と飛ばされたウインクにくらくらする。
ここでもセリアの名前が……。
師匠はあの女を信用しているみたいだし、あの性悪女がこっちのためになるような報酬を指定するかしら。
気づけばクロが出てくる時間になったようで、自然と話もそこで流れる。
ヘカテはもっと近くへ移動したいかと言うようにソワソワするし、カトレアちゃんなんかは「待ってました!」と言わんばかりに王子の話を始める。
……まあ、ヴィル様に会えるならいいかな。
そんなことを思いながら、兄妹でカトレアちゃんの話を聞き流した。




