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48:マリオネット見習い

 


 今日は朝から来たレリーナも交えて、この食堂と学園寮を繋ぐ術式を完成させるらしい。


「おはよう、レリーナ。昨日はよく眠れた?」


「はい。今日はクレア様のためにも全力を尽くしますね」


 小さくガッツポーズをしてやる気をみせる彼女。

 だけど、他の魔女がいない今、私にはどうしても聞きたいことがある。


「ねえ。どうしてお兄様やお父様に黙っていてくれたの?」


 西の魔女の代理。

 そのことをラグドーレ家に報告をしていないことは昨日聞いた。

 けど、私の情報を探ることは、お父様とお兄様の頼みでもあったはず。

 それを隠蔽するというのは、貴族の家に仕えるメイドとしてあってはならない。


「それは……いえ。この町から出られない。また、魔女どころか見習いとしても未熟だということは聞きました」


 ぐっ……はっきり言われると、ちょっと傷つく。


「しかし、お嬢様が隠している事柄を勝手に報告するわけにはいきません。

 私が忠誠を誓っているのは、ラグドーレ家ではなく、クレアお嬢様本人にですので」


 にこり、と爆弾発言をされる。

 私、いったい何をした!

 寝たきりの生活で、レリーナに慕われる要素なんてなかったはずだし、むしろ忘れてほしい記憶ばかりだと思うけど?

 残念ながら、私に十二歳以前の記憶はない。

 教えてもらうにしろ、レリーナにとって大切な記憶なら、忘れてしまったなどと悟られるわけにはいかない。

 ……もう、あの時のように悲しむ顔は見たくないから。


「それでは、今日中にはカタをつけますので」


 彼女はぺこりと一礼して去っていく。

 その後ろ姿を、私は黙って見送ることしかできなかった。





 ◇◇◇





 臨時休業とはいえ、ヒマなのは日向ぼっこ中のクーちゃんくらいだ。

 魔女の三人は工房へ籠もりきりだし、私はと言えば買い出しか食堂の掃除という二択しかない。

 部屋でのんびりするのは禁止されたし、工房に入れない限りはいつも仕事中にやるような修行しかできない。

 ならヒマだろって? 師匠に課せられたノルマがなければ、ヒマだったんですよ……。


 今日は一日中閉めるというので早めに買い出しも終え、食堂フロアは師匠の魔法でチョチョイのチョイだ。

 ただ、食器や食材などの食品に関するモノは手作業。

 いくら魔女とはいえ、魔法の洗浄効果を信用していないとか。

 でも魔法で精製した洗剤は信用しているらしいので、師匠のラインはどこにあるかわからないわ。


「あとはクーちゃんが居座る周辺のみですが、起きてます?」


「………………」


 耳を近づければ、小さくすぴーという寝息が聞こえてくる。

 変ないびきなら病気の可能性があったから、彼は健康ね。


 完全に寝入っているようで、今なら抱き上げても無反応だ。

 撫で放題、モフり放題なのは嬉しいけど、ここまでやって全く反応されないのも悲しい。

 ……邪魔なのは確かだし、このまま掃除続けちゃおう。


 それから一時間後、風呂場からクーちゃんが暴れる声が聞こえたと苦情があったけど、こちらの姿を見ると何も言わずに去っていった。

 クーちゃんの縋るような視線は誰も見なかったようで、それ以降は大人しく洗われてくれた。

 いい子いい子、きれいきれいしましょーね。




 キレイになった食堂と、まるでボロ雑巾になったかのように死んだ顔をしているクーちゃんを眺めて満足する。


「ヨシ!」


「何がヨシさね。アンタは夜まで特訓だよ」


 どうやらセリアとレリーナはつい先程旅立ったらしく、レオン先生も来ていたのに全く気が付かなかった。

 注意力散漫だ、と首根っこを猫のように掴まれ、ドナドナされる。


「……あの、本当に学園へ行っても大丈夫なので?」


「心配ないさ。昼はあの西の魔女ってのがヘルプに来るからね」


 クロとレリーナの黄金コンビが再び!

 これだけで客入りが良くなりそうな宣伝文句だ。

 それだと夜は私と師匠だけになりそうなので、もしコンビ復活となると夜の売上が激減しそうな予感もする。

 ……師匠目当ての客がいないことに、ほろりとくるわね。


「ししょーも学園に来ます? 居場所がないなら……あいたっ!」


「ここはアタシの工房だよ。居場所しかないさ」


 魔女は副業とか言っておきながら、お客相手に調薬や治癒促進効果のある料理を提供する師匠だ。

 必要にされていないとは言わないけど、いなくなったら困る存在なのは間違いない。


「私はいいのですか? この店の看板娘ですよ?」


「だから夜には戻ってくるんだろ? でないと乗り込む。

 あの嬢ちゃんにも任せてあるから、よほど大丈夫だとは思うがね」


 いっひっひ、と笑う動作は魔女そのもの。

 この師匠、私にいじわるするときだけ魔女に変身してない?




 そんなこんなで、修行とは名ばかりのしごきを受けて数時間。

 そろそろ時間だというので、住居スペースの空き部屋に来た。


「ここが向こうと繋ぐ転送陣だよ」


「ほへぇ……」


 いままで魔法陣とは、鍋敷きに描かれた紋様や、テーブルの表面に彫られたデザイン。

 それと絵画のような芸術っぽい何かしか見たことがなかったけど、目の前にあるのは違う。

 ……カーペットだ。


 まん丸なカーペットが、でん! と空き部屋の中心地に敷かれていた。


「……師匠」


「何だい?」


「そんなに敷物が好きなんですか? もしかして上に乗る趣味が――」


「食堂のド真ん中に設置して『イリュージョン!』とか是非ともやってもらいたいねえ?」


 やめてください恥ずかしくて死んでしまいます。

 まるでセリアのようになりながらも懇願し、設置はこのままに。


「起動させる媒体が必要だが、コイツが光ったら準備オッケーだ」


 ……それ以降、数十分経つも何も起こらない。

 何もせず、ただカーペットを見つめるだけの二人。シュール。


 やがてクーちゃんが黒猫状態で様子を見にきて、師匠が目を離した時にそれは起こった。


 カーペットが淡い光を放ったかと思うと、すぐさまフラッシュを焚かれたように強い光が部屋を包み込む。

 直視した私は、その影響をもろに受ける。


「目がぁ! 目がぁ!!」


「言い忘れてたが、最初は強い光を発するよ」


 遅いです。

 難を逃れた師匠とクーちゃんではなく、魔法陣から出てきた何者かにガシと腕を引っ張られる。


「え?」


「じゃ、行ってきな。あくまで潜入ってことを忘れるんじゃないよ」


 この腕は方向的に、師匠ではない。

 魔法陣から這い出てきた何者か。

 まだ目を開けられない私は、何者かによってカーペットの中に引きずり込まれる!




「た、たすけ――」


「何やっているんですか、貴女は……」


 聞き慣れた声がしたのと、目が開けられるようになったのは同時だった。

 見慣れない部屋、どこかの宿部屋みたいな空間に、見慣れた顔が二つ。


「セリア? レリーナ?」


「ようこそ、魔法学園へ。歓迎はしませんが、協力はしましょう」


 半日はかかる距離を、この一瞬で?

 町の外に出られたけど、セリアが相手だと不安しかない。



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