45:邪魔者はだれ?
今日は平日。
学園がある日だというのに、セリアはまだ店にいた。
「魔女さま。ここの術式なのですが……」
「それはこっちをこうして、アレをああすると……」
「なるほど。そのようにして構成するのですね。
ということはこちらは…………」
なんか朝っぱらから、二人で魔法談義をしているのですが。
入れない私は、師匠を取られてちょっとジェラシー。
……いいもん。私はクーちゃんをモフモフして遊ぶからっ!
クーちゃんはちらっと見てきたけど、何も言わずにジッとしている。
そんな「しょうがないにゃあ……」みたいな目で見ないでよ。
それもかわいいけどさ!
「ねークーちゃん。あのセリアって人、どう思います?
あなたに全て捨てる覚悟があれば、クロウド様に戻れますよ?」
「にゃー」
帰ってくるのは、聞いているのかわからない返事のみ。
禁術がどうこうっていうのは伝えていないけど、本人もなんとなく代償がいるって事は察しているらしい。
「なんか、何が何でも戻りたいって感じではないわね。
意外とこの生活も気に入っているの?」
「にゃー」
「そうですかそうですか。そんなに私と一緒に寝るのが好きですか。
それとも、私と一緒にお風呂が好きなの? …………へんたい」
「にゃー…………ニャ!?」
ビクン!
とクーちゃんは飛び起きたけど、最後のはあくまでひとりごとです。
そんな熱心に見つめられても、もう何も言いませんよ?
にこにこーっとクーちゃんをモフり続けていると、どうやら折れてくれたみたいで、また興味がなさそうにぐでーとした。
私もぐでーとしたいけど、今やるとセリアに馬鹿にされそうなのよね……師匠と話すなら他所でやってくれたらいいのに。
「確かにクーちゃんの生活は羨ましいですねー」
「にゃー」
「…………今度ヘカテに報告しよ」
「!?」
今度はハッキリ聞き取れたみたいで、わきわきさせていた手の中から脱出しては、毛を逆立てて「フシャー!」と威嚇してくる。
あらら。そんなにヘカテが大事なのね。
クーちゃんの視線には「わかってるんだろうな?」と意味が込められているけど、なんてことはない。
「もちろん、ここひと月のクロについてだけですよ。
ヘカテに頼まれたアレも……いや、なんでもないです。それよりもそろそろ買い出しに行くので、着いてきてくださる?」
「きゃぷんっ!」
一言鳴いて、工房へと去っていく。
……何アレ!? 拒否されたけどめっちゃかわいい鳴き声!
子猫のクシャミみたいな、鼻をかんだ音みたいな。
でもイメージは女の子がプンプン! と怒ったみたいだった。
あれで同年代の男性なのよね……あの可愛さは反則だわ。
「てなわけでししょー、買い出し行ってきますね」
「そっちの魔法は、こっちをこうしてやると……」
「なるほど。実に効率的です。では省いたコレを代用して……」
「聞いちゃいないわね」
……今日の昼は準備中のままかもしれない。
そんなことを予想してゆっくりと寄り道しながら買い物を終わらせたけど、店に戻っても案の定、札は準備中のままだった。
これまさか、夜もそのままってことはないわよね?
◇◇◇
「ハッハッハ! だから昼は開いてなかったんだな!」
「ええ。師匠が仕込みの一部をダメにするとか、いままでなかったくらいに珍しいですから! 明日が嵐なら師匠の責任です」
「魔女様なら物理的に発生させてもおかしくないわな!」
「「ちげぇねぇ!!」」
ガハハ、と響く笑い声は、もちろん厨房にも届いている。
ただ、そこにいつもの師匠はいない。
代わりに立つのはクロが一人だ。
「先輩。次は向こうと、あちらのお客様へだ。
終わったらさっき入ってきた客のオーダーと、そこのテーブルの片付けを頼むぞ」
「ちょっと、私一人だけなんだけど」
「知らん。料理と皿洗いはやるから、先輩はそっちをがんばれ。
あと皿が足りないから、客を待たせないように優先的に片付けてくれ」
無茶を言いおる。
師匠とセリアは、私が戻った時には工房のほうへ引っ込んでいた。
二人して不気味な笑い声をあげていたので「コイツらやべぇ……」と思って近寄らなかった。
多分クロも同じだろう。
ただ師匠から店を開けるように言われたとかで、いつも以上にテキパキと料理を作っていた。
クロは、昼間の件でたいそうご立腹のようで。
きちんと仕事はやってくれるし、間違ったことは言わないから黙ってやるけどさ。
そこ! 調子に乗って追加注文とか、早食いチャレンジとかやらないっ!
その人物が来たのは、夜の営業時間も半ばに差し掛かった頃合いだった。
「いらっしゃ……あ、先生」
「おーっす。いきなりで悪いが、ここにセリア・リーゼルって生徒が来てないか? 昨日から行方不明でな」
「裏にいますよ」
「そうか。悪いなフレアちゃん。今日は忙しいから、また今度ここへ…………はぁ!?」
いきなりの大声に、さすがのお客も全員静かになる。
いつもはガヤガヤとうるさい店内も、この瞬間だけは鳴りを潜め、全員がレオン先生に注目していた。
「あっ、いや……その、すまない。本当にいるのか?」
「ええ」
視線を集めておろおろとする先生は新鮮だったけど、私としてもはやくあのワンコイン女を回収してもらいたい。
まさか師匠まで使いモノにならなくなるとは予想外だったし……。
ただ、部外者を工房へ入れることはできない。
レオン先生にはいつも通り座ってもらい、工房へセリアを回収しに行く。
「セリアー、お客さんよ」
「ちっ……次の問題なんですが、こちらはどういった――」
いま舌打ちした?
そっちが無視するならこっちも考えがあるのよ。
「レオン先生、セリアに会いたがっていたなー」
私がその名を出すと同時に、セリアの動きが硬直する。
師匠はそこであきらめたらしく、さっさとエプロンを着用し始めて食堂のほうへ戻る準備を始めた。
……動かないセリアはどうするのよ?
さっき舌打ちされたお返しに、顔にラクガキでもしてやろうかしら。
私が近づくと同時に起動したセリアは、そのまま自分の足で食堂へと戻っていった。
汚れるような作業はやっていなかったみたいだけど、そのまま帰していいの?
ま、師匠がいいっていうならいっか。
……師匠にそんな残念そうな顔されると、私の立場がないのだけど。
戻ってきた私を迎えたのは、レオン先生の怒声だった。
「心配したんだぞ! 昼間に来てみれば閉まっているから、お前の故郷まで探しに行ったりしたんだぞ!」
「ごめんなさい……」
お、おう……まさか昼に閉めていた弊害がここにあるとは。
やっぱり学園をサボるのはやりすぎよね、うん。
「でも私の故郷は――」
「それは今いい。連絡するにしてもだ、サボるのは良くない。
いきなりどうした? 何かトラブルでもあったのか?」
ただの魔法談義です、とは誰も口に出さない。
これ以上続くと店の空気も悪いままだし、そろそろ止めようかな。
「まあまあ。先生もまずは落ち着い――」
「それにも関係するのですが、転入生を受け入れません?
ここのフレアさんを、学園生に推薦します」
私が口を開いたと同時に、セリアからとんでもない発言が出てきた。
Why?
何、私に死ねってこと?
まずは保護者の許可を……あ、師匠。いい笑顔ですねー。
まじですか。
次から新章へはいります。
次回は土曜で。




