44:side 優等生の不在
その日、学園ではちょっとした騒ぎになっていた。
レオンがその噂を耳にし、それから学園長に呼び出されるまで時間はかからなかった。
「セリア・リーゼルが学園に来ていない?」
「そうだ。寮の中も調べてもらったが、不在とのこと。
聞けば昨日から行方をくらましていたようだ」
学園長が言うには、誰にも行き先を告げていないらしい。
しかし、レオンには心当たりがあった。
もちろん、一部の生徒にもわかる者はいるだろう。
「学園長が知りたいのは、彼女の行方ですか?」
噂はすぐに学園中へと広まる。
今朝から聞こえてくるのは「この学園に馴染めなかった平民が逃げ出したらしい」という噂ばかりだ。
一部の人間がそう言っているだけで、レオンをはじめ多くの人間は彼女を認めている。
光・回復魔法の担い手。聖女の再来ともいわれる特化した魔法は、この国はおろか、世界でも一、ニを争う使い手とさえ言われるくらいだ。
そのくせ、本人は非常に謙虚で全く鼻に掛けない。
異端分子を忌避する傾向にあるココでは、平民出ということも合わさってあまり彼女に関わる人間はいなかった。
そんな彼女が、無断欠席。
優等生で通ってきた彼女が行方不明ということは、生徒たちにとって中々のスキャンダルだったらしい。
しかし、学園長はそんな噂など気にしていないというように首を振った。
「いや。行き先は生徒会長に聞いて予測はできている。
レオン君。午後の講義は一つだけだろう? 今日は休講にしたまえ」
「つまり……行ってこいと?」
ここまでお膳立てされたら、レオンでなくともわかる。
学園長はセリアをあの場所から連れてこいと言いたいのだ。
しかし、ここでハイとうなずくレオンではない。
「今から行けば夕方になります。そこで連れて帰っても今日の授業には間に合いませんよね?
ならもう、明日の朝に間に合えばいいんじゃないですか?
俺も家に帰って出てくるついでに来れますし」
学園長の言うとおりにした場合、レオンはセリアを連れ帰ってすぐに家へ逆戻りだ。
学園に泊まるということもできるが、ならばいっそのことまとめてしまえという魂胆であった。
連れ帰るにしても、アテが外れセリアがいなかった場合など、すれ違いになる可能性もある。
それらを考慮しても、レオンの提案は実に合理的だと言えた。
「うむ。そのほうが良いか。ならば今日は通常通り――」
「しかしですが。
私めも生徒が心配なので、本日はこれで上がらせていただきます。
もし彼女がいた場合、責任を持って連れ帰りますのでご安心を」
学園長は頭を抱える。
端的にいうとレオンは「ならもう帰らせろ」と言いたいのだろう。
もしセリアがいるアテが外れても、レオンならば時間が許す限り捜索を続けるはず。
彼への信用もあって、学園長はレオンに早退の許可を出した。
◇◇◇
「ついにセリアさんが動いたようだね」
放課後、生徒会室にはセリアを除いたメンバーが揃っていた。
「ええ。任せると言った手前、動くことができませんでしたが。
彼女は今まで、何をしていたのでしょうか?
でもこれでようやく、クロウド様……いえ、クロ様に会いに行けます」
「僕もようやくフレアさんの顔を見ることができそうだよ。
今日はどうして、休みが終わったばかりなんだろうね?」
会長はこんな感じだが、今まで滞っていた事務仕事が大幅に進んだのは間違いない。
「しかしセリアのヤツ。本当に『魔女の家』へ行ったんだろうな。
もし事件に巻き込まれたり、盗賊にでも襲われていたとしたら――」
「ルファス。君も心配性だね。そんなに彼女が心配?」
「あたりまえだ。彼女は俺の大切な人だからな」
――――。
その発言に、生徒会室は凍りついた。
ヴィルだけが事情を知っていたが、別の意味で動けなくなる。
もちろん、噂では皆知っていた。
ルファスとセリアの仲がいいの。生徒会室でまた密着したり仲よさげに肩を並べている、と。
だが、本人たちはいつ聞いても否定する。
なので生徒会メンバーにとって、二人はただの仲良しという認識だった。
その認識が、この発言で覆る。
まさに会長の出番だというかのように、最初に口を開いたのはヴィルだ。
「俺の大切な人って、どういう意味か教えてくれる?」
「またか? 会長には前に話して――――大切な友人ってことだ」
ここにいるのはヴィルだけではない。
そのことにようやく気づいたのか、取って付けたような言い方でルファスが続けた。
しかし、ヘカテとカミーユはそれを聞かなかったことに出来ない。
ヘカテはニコニコと微笑むだけにとどめ、カミーユにいたっては信じられないといった顔でルファスを見ている。
二人が仲良くしているのは周知の事実でもあったが、カミーユもまた、セリアと生徒会で仲良くしている一人だ。
最近出来た後輩。全てそつなくこなすヘカテとは違い、先輩先輩とカミーユを慕って教えを乞うセリア。
そんな彼女に、最近はアルフォンス王子に疎まれているカミーユが惹かれるまで時間はかからなかった。
「ルファス、お前がセリアを大切な友人だと言うなら。
俺は彼女を大切な後輩だと思っている。お前以上にな」
「なんだって……?」
カミーユとルファス。
年齢は前者のほうが上だが、対峙すると女性陣の身長と同じカミーユの小ささが目立つ。
その二人を見守るヴィルとヘカテは、また面白そうなことになったと微笑むだけであった。
字下げ全部戻しました!
色々と思いましたけど、物語は書きたいように構成するのが一番ですね。
まず字下げという基本的なルールを無視してしまったことは反省。




