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43:推しが被るとか戦争でしょ

 


 ふふん。とドヤ顔で誇るセリア。

 まるで「驚いて! もっと驚いて!」と要求するような態度は、ゲーム時代のセリアならともかく、今の彼女からは考えられない。

 意外とかわいいところもあるじゃないの。


「あのーセリアさん? 急にどうしちゃったんですか?

 もしかして頭の調子が――」


「至って普通です問題ないです本当に魔女なんです」


 いや知ってるけどね?

 でもいきなり魔女なんて言い出すから、ちょっとアレなのかなーって。


「……うんうん。セリアさんは魔女なんだね。

 お薬は三日分でいいかな?」


「やめてください自分で調合できます。

 信じてないですか? 信じてないですよね? ではこの中央の国ある龍脈を使って、いますぐ天使降臨の儀式を……!」


「そんな些細なことで呼ばないでよ!

 そんなことしたら戦争の時に助けてくれないかもしれないじゃん!

 もっとよく考えて行動してくれないと南の魔女は倒せないんだからっ!」


「あれは強制イベントなのでだいじょ――いまなんと?」


「…………え、いまなんて?」


 東の魔女は光・回復に特化している。

 ゲームで戦闘はなかったけど、もしあればサポートとして引っ張りだこだったに違いない。


 それはいいとして。

 戦争でたくさんの人々が傷つき、遅れてかけつけたヒロインはその光景を目の当たりにする。

 そして龍脈、地脈、己の全力を尽くして治療するも、自身の力不足を自覚したヒロインは、天に向かって縋り泣く。

 その時、天使たちが次々と降臨して人々を癒やしていき、戦争も終わらせて……というのが大まかなルート。

 あとはヴィル様、クロウド、ルファスなどの好感度で派生したり、さらなる日常パートが待っているわけだけど。


 なんで龍脈で天使降臨すること知ってるの?

 それに強制イベントって、もうこれ決定だわ。


「クレア様? と言いましたか。

 貴方は……プレイヤーですか?」


「そういうセリアは、物凄くヒロインらしくないわね」


 大きなお世話です、と微笑む彼女は。

 どうやら私と同じ世界の住民だったみたいです。


 師匠? 厨房で夜の仕込み始めましたよ。






「では、クレア様は本物のラグドーレ家の令嬢なのですか?

 どうしてまたそんな方に……」


「知らないわよ。いきなり死ぬって言われた恐怖、わかる?

 身体もろくに動かせず、知っている人はヴィル様のみ。

 しかもすぐ近くにいるのに、更に遠いような存在で……」


「実は私も、ヴィル様好きです」


「おー? 戦争はじまっちゃうぞー?

 いいのかなー?」


 冗談ではないんだなこれが。

 彼女はヒロイン。

 こちらは実妹、ましてや正体を隠している。

 ついでにいうと、ヴィル様とヒロインが仲良くしていると戦争が始まる。

 うん、物語の終盤に向かう本物の戦争が。


 共通ルートの最後がヴィル様だから、仕方ないんだけどさ。

 でもいいたい。

 どうしてそんな時系列になった!?


 閑話休題。


「でもセリアって、ヴィル様狙ってたっけ?

 見た感じ、ルファス狙いかと思っていたけど」


「あれは都合が良いだけです。

 他の方、アルフォンス様。ヴィル様。ついでにいうと、この黒猫さんも学園に現れないという事態ですし」


 ん?

 ヴィル様やクーちゃんはともかく、アルフォンス王子に関しては無関係ですよ?


「貴方が生きているおかげで、ヴィル様の行動は変化したのですよ。

 本来ならわたしが妹様の代わりとなるものを」


 まさか本物が生きているなんて、と言われるけど。

 改めてセリアの容姿を確認する。

 髪型と色は似ているけど、瞳の色も身長もスタイルも似てない。

 ヴィル様が見ているのは過去のクレアだから仕方ないにしろ、あのときの私でも、今の彼女より胸ありましたよ?


 だって彼女、ゲームのスチルよりも寂しいことになっているし……。

 夏場とか風通しよさそうねって言ったら怒りそう。

 身長は負けたけど、女性としての凹凸部分は比べるまでもなく勝った。

 いや、ウエストは負けてるかもしれないけど……。

 というか、ヒロインのくせにそんなんでいいのかしら。


「……うん。まあ、強く生きて?」


「何故でしょう。貴女に言われると物凄く頭にきますね。

 決めました。これからヴィル様への接触を増やします」


 ビシッ! と指を向けられて宣言される。

 学園に行けない身では、この女にヴィル様がとられる?

 冗談じゃないわ!


「何よ! 今まで興味ないフリしていたのに、いきなり振り向かせられると思っているわけ? 

 だいたい貴女が似てるって言われるイベント、ここで! 私が! ヴィル様に言われたんだからね!」


「なッ!」


 お客がいないことをいいことに、言い争いはヒートアップしていく。


「ストレート! 百均むすめ! コロコロ女!」


「品のない貴族娘、魔女にもメイドにもなれない女、この世に存在しない人物……ちょっと待ってください」


 カトレアちゃんのおかげでまだまだネタはあったけど、一旦ストップがかかった。

 どれか気に触った、というより。考え込んでる?


「許されざる言葉ばかりですが……あの、コロコロ女ってなんですか?」


「え、本当に気づいていないの?」


 ルファスの心を弄んでいるかと思ったけど、まさか無自覚?


「ルファスとセリアは付き合ってる?」


「冗談でもやめてください、あんな男と。

 それなら婚約者がいるとしても、クロウド様を選びますよ」


 セリアが微笑むと、さっきの言い争いから避難していたクーちゃんがビクっとなる。

 略奪愛はヘカテが悲しむからだーめ。


「ルファス、あなたのことが好きみたいよ?」


「え?」


「えっ」


 ……なんとも言えない空気になったおかげで、言い争う気も消え失せた。

 ルファス、あんたすごいよ。

 存在だけで喧嘩を止められるなら、戦争も止められるんじゃない?




「ちなみに、百均むすめの意味も教えて欲しいのですが」


「ああ。セリアって有名よ? 男ならタイゾーだったかもね」


 ……しばらくして、意味に気づいたセリアはまた暴走した。

 仲良くできると思ったけど、推しが被る? 

 ハンッ、その時点で無理ね。


 アルフォンス王子はカトレアちゃんがいるから、やはりあんたがルファスと結ばれるのが一番幸せなのよ。

 もちろん、あんた以外がね!






 結局セリアは夜まで居た。

 レオン先生もいないし、魔女の関係者ということでウチに泊まることになったのだけど。


「セリアの部屋、ねーから」


「わかりました。魔女さまーっ! またクレア様がいじめまーす!」


「ちょ! それは卑怯でしょ! そんなことしたらあの鬼が……」


「……鬼、ねぇ? そろそろ悪夢が見たいようだ」


 ヒィッ!!

 ごめんなさいもうしません。セリアにも百円程度は優しくします。


 というか、私よりも師匠と仲良くなっている気がするんだけど?

 もしかしてセリア、師匠と同年れ――。




 気づけば朝でした。

 あれ、食堂で寝た覚えはないのにテーブルで寝てた?

 ……私のベッド、セリアに占領されてたんだけど。

 やっぱアレとは相容れないわ。




和解できそうで出来ない関係。

二人はすれ違うライバルというより、悪友的なライバルです。

誤字報告ありがとうございます。

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