39:メイドさんは人気です
最近、宿屋のお姉さんが従業員を雇ったらしい。
それは常にメイド服を着ている女性だとか……。
「ししょー、レリーナがこの町に滞在するのはいいんですか?」
「別に構わないさ。
工房に入られたり、魔女のことを探られるのが厄介なだけさね」
「へ? 私うんぬんはいいんですか?」
てっきり私がクレアだとバレるのを嫌がったかと思ったのに。
この身は魔女である師匠に、後継者として弟子入りをしている。
レリーナなら無理やり連れ去るなんてしないと思うけど、お父様にどんな命令を受けているのやら。
町に滞在するってことは、監視?
それとも私がボロを出すまで粘るつもり?
「ハッ、アンタが連れ去られたところで、アタシは何も困りゃしないよ。
弟子ならば、優秀な男がそこにいるからね」
その言葉を聞いてか聞かずか、くわぁ……とタイミングよく欠伸を返した猫が一匹。
クーちゃん、それ喧嘩売ってます?
「でも! 魔女は女性だけじゃないんですか?」
「ならそこの黒猫をメスにしてやれば済む話さ」
「フギャッ!?」
あ、やっぱり寝たフリだったんですね。
師匠はやると言ったらやる魔女だ。
例え冗談だったとしても、本当に実行できてしまうところがおっそろしいのよね……。
クーちゃんもそれをよくわかっているので、師匠から逃げるように住居へ引っ込む。昼の営業前だというのに困った子ね。
にしても師匠、それクロへの嫉妬もはいってません?
口には出さないけど。
昼のピークも過ぎた頃、ビクビクと警戒しながらクーちゃんは定位置へと戻ってくる。
んふー、これでようやくモフモフ分を補充できるわね!
「おかえりクーちゃん。私くらいは、クーちゃんに優しくして――」
「フレアちゃーん、遊びにきたわよ」
抱き上げるのは嫌がるので、軽くナデナデしたところに来客だ。
……あれ、入り口には女性が二人いた気がするけど、店内に入ってきたのは一人だけ?
相手は顔見知りなので、すぐに話しかける。
「宿屋のお姉さんじゃないですか。いらっしゃいませ」
「うふふ。彼女、フレアちゃんの知り合いですって?
優秀過ぎて助かっちゃうわぁ」
食堂でもそのスペックを余すことなく、存分に発揮したレリーナのことだろう。
さっき店の外に見えたと思ったのに、置いてきたのかな?
そう疑問に思ったと同時に、お姉さんの後ろからするりとレリーナが登場した。
「フレア様。しばらくこの方の場所で厄介になりますので。
今日はご挨拶にまいりました」
「っっ! そ、そう。
もちろん、お二人とも食事をしていかれますよね?」
彼女たちは顔を見合わせて優しく微笑んだけど。
……レリーナの気配に、ぜんっぜん気が付かなかった。
今なら彼女がスパイって言われても信じられるわね。
この時間はいつも暇になるので、離れていた席で休憩していたらお姉さん方につかまった。
あまりレリーナの近くに行きたくはなかったのだけど……そんな熱烈に誘われちゃったら仕方ないわね。
奢りの料理に釣られたわけじゃない。ないんだから。
「聞いて。リーナちゃんってば、私より何でも上手なの!
もうあの場所は全部リーナちゃんにあげちゃってもいいかなぁ」
「いりません! 帳簿など私では扱いきれないので。
それにトラブルの対応などはオーナーにしか……」
まあまあ、リーナって愛称で呼ばれちゃって。
メイドの仕事内容と、宿の仕事内容は似通っているもんね。
それなりに上手くやっているようだけど、元々この町にくる客なんかほとんどいない。
だから閑古鳥が鳴いているなんて常だし、従業員を雇うほど忙しくなかったはずだけど、どうして急に?
「もしかして繁盛し始めたんですか?」
「そうそう! リーナちゃんがウチで働くようになってから、宿泊客が増えたのよ!
相変わらず埋まることはないけど、独り身の男性が多くなったんだから」
「ちょ! フレア様の前で、そんなこと……」
私も食堂で働いている手前、小耳に挟んだことがある。
何でも「本格メイドが世話してくれる宿がある」と。
聞いた時は、様々なニーズに答えるため必死だなー、と他人事だったけど、これってお姉さんのところよね?
貴族の暮らしを擬似体験できるって意味だと思うけど、レリーナ。
あなたまさか――。
「ちょっと! フレア様が誤解してしまったじゃないですか!
違いますからね? だからそんな真っ青にならさいでください!」
「そうかしら?
リーナがこの前、お風呂に入ろうとした男性に――」
「あれは事故です! 事・故!
本来なら気づかれないはずでしたのに、なぜあの御方は……」
「まあ。覗きなんてやるじゃない。それに事後だなんて」
うふふ、と笑みを浮かべるお姉さんに、レリーナは真っ赤になって反論している。
オゥ……。
まさかあのレリーナが、アワアワと翻弄されているなんて。
このお姉さん、たしか未亡人よね?
これが経験の差ってやつかしら。
いや、むしろ年の功だからお姉さんのときはお客が――。
「フレアちゃん?
そういえば、ウチにも地下室があるのよ。
全然使われていないけど、今度来るときは案内してあげるわね?」
「ど、どうして急にそんなことを?」
「だって私、物知りだから。
ね? フレアちゃんにも色々経験させてあげる。
それこそ、何年も経過しちゃうくらいに……ね?」
今の時間に、お客は少ない。
だからその言葉も、静かな店内に浸透するかのように広がったのだけど。
数秒。いや、数分? 世界が停止した。
このお姉さん、某・ワールドの使い手である。
最初に動いたのは誰だっただろう?
少なかったお客も、お姉さんだけを残して消えており、クーちゃんや師匠さえもどこかへ行ってしまった。
レリーナ! あれ、いな……い?
てことは、この場は二人だけ……?
「うふふふふ。このままお持ち帰りしちゃおうかしら。
魔法の世界へ誘ってあげる」
この町、魔女多くない!?
その日、夜の営業は問題なく終了した。
いくら満席に近くても、ウェイトレス姿の女性がぐったりと捨てられているテーブルへ近づくものはなく。
まるで隔離されているかのように、ないものとして扱われれる。
のちにブラックホール現象と噂になるコレは、とある女性二人組が来店した際、度々見られることになったとか。
完 (大嘘)
学園sideは長くなったのでわけます。
次と3章終わり近くで学園sideを入れ、4章の学園クロス予定です。




