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3:『Magic☆Cats』のキーパーソン

 

 乙女ゲーム『Magic☆Cats』には、魔女と呼ばれる存在がいた。

 かつて世界を戦争に巻き込み、一人いるだけで戦局を大きく変化させる人間兵器とか呼ばれている。

 ある国以外では嫌われ、どの国でも戦力として欲する。

 それがこの世界における魔女の立ち位置だ。


 そんな人物が四人。


 ルートによって出る魔女は変化するけど、どのルートにも必ず出てくる魔女は一人だけいる。

 東の魔女……ヒロインの正体がそれだったはず。


 あれ、これって今の時点では重要な秘密じゃない?


 どうして北の魔女から手紙が届いたかわからないけど、ヒロインが東の魔女だと判明するのは物語の終盤。

 少なくともお兄様が学園にいって、秋になるかならないかの頃だ。


 逆に北の魔女は、ある攻略対象の終盤にちょろっとしか出てこない。

 それもお兄様とは関係ない人物だけど……。




 まあ魔女のことは置いといて、問題はこの手紙だ。


「人間を辞める――ねぇ」


 得体の知れない魔女だけど、北の魔女は敵対しなかったはずだ。

 南の魔女みたいな根っからの悪人もいるけど、北の魔女かー。


「連絡も取れないのに、それだけ伝えられてもねー」


 フクロウもあのまま帰っちゃったし、忠告されても死ぬのは変わらないけど。

 手紙はひとまず放置だ。



 ◇◇◇



「そうか、クレアは混乱していただけだったのか!」

「もちろんですわ。私がお父様のお顔を忘れるはずがありませんもの」

「おおっ、そうか!」


 実際は忘れるどころか、名前すら知らなかったけど。

 ラグドーレ伯爵ということは知っているけど、名前は何だったかな?

 あとでレリーナにでも確認しておこう。


 そんなことより、今は目の前にお兄様、もといヴィル様がいる。

 そう、生ヴィルだ!


「しかしクレア。いつもは部屋で食事をとるのに珍しいね。

 今日はどういう風の吹き回しだい?」


「うふふ、何となくですわ。貴重な時間を少しでも無駄にしたくありませんもの」


「クレア……っ!」


 近くでお父様が感動しているけど、私の目にはヴィル様しか映っていない。

 例え短い命だとしても、近くでヴィル様の姿を焼き付けないと!

 食事風景なんてゲームでは見れなかったし!


「そうかい? あまり無理はしないようにね」


「はいっ!」


 ああ、幸せ。

 こんな日常がずっと続いてくれたらいいのに。


 ヴィル様を目の前にしているからか、汗も止まらなくなって、胸もドキドキと激しく動きを主張する。

 さらにスプーンを持つ手も震えて、息も苦しく……苦しく。


「…………っぁ」


 息が、できない?


「クレア?」


 ヴィル様が何かに気づいたようで、目が丸くなっている。

 同時にお父様のほうから、何か物音が聞こえてくる。

 どこからか、スプーンの落ちた音が聞こえた。


 身体が傾いて、誰かに支えられたところまでは覚えている。

 一つ言えるのは。


 ……驚いた顔のヴィル様も、やっぱり素敵だ。



 ◇◇◇



 あれからまた寝てしまったらしい。

 私が起きて、シクシクと泣き出したレリーナによると、今度は三日ほど寝込んでいたようだ


 いくら生ヴィルが見れるからって、この身体は病弱すぎない?

 まだ触れ合えてもいないし……。


 さすがにここまで病弱だというのは予想外だ。

 ちょっとの間しか起きていられないって、せっかくの生ヴィルも台無しだ。


 今日はお兄様も外出中みたいだし、今のうちに体力をつけないと。

 そう意気込んで見たものの、いざ動こうとしたらレリーナに制止された。


「ダ、ダメです! お嬢様は何か必要でしたら私に申し付けください!」


「そう? ではお兄様を連れてきて」


「今は外出中なので、お戻りになられたらすぐに……」


 レリーナは私を監視するようにお父様からいわれたらしい。

 余計なことを……。




 一日中ベッドの上。

 何冊か本はあるけど、まさか本を読むだけでも体力が限界になるとは。

 確かに一冊が辞書並みの本ばかりだけど、膝の上に乗せてページを数ページ捲っただけで倒れるって何よ。

 どこぞのス〇ランカー並みの紙耐久じゃない。


 なので、私にできることはレリーナとのお話のみ。


「そろそろお庭のお花が綺麗に咲く頃です。

 体調が良くなられましたら、外の空気を吸いに行きましょう」


「そう。いつかそんな日がくるといいわね」


「クレアお嬢様……すみません」


「あっ……いえ。そうね、近いうち見に行きましょ?」


「……はい」


 最近はお嬢様ロールにも慣れてきた。

 本当はもっと砕けた話し方をしたいのだけど、お兄様が過剰に心配してきたので我慢する。

 だって、そんなお兄様も素敵だけど「ああ、僕の悪影響でクレアが……」とこの世の終わりみたいな顔をされるもの。


 何回もそんな顔をされては、さすがに罪悪感で押しつぶされそうになる。

 私はヴィルお兄様を虐めたいわけじゃない。

 愛でたいし、愛でられたいのだ!


「あとですね。最近はお庭に猫ちゃんが住みついて。

 窓から見えないことが残念ですが、もし見えた場合はすぐに教えますね」


「その猫ちゃんは黒猫かしら?」


 私の言葉にレリーナは目を見開いて、とんでもないと言うように首を激しく左右に動かした。


「そんなわけないですよ! 綺麗な毛並みをした白猫です! 多分どこかの飼い猫が紛れ込んだだけです!」


「そ、そう? たしかに黒猫のはずがないわね」


 しまった。

 忘れていたけど、ここ『Magic☆Cats』の世界は魔女が畏怖される。

 魔女の使い魔とされる黒猫。

 それも忌み嫌われる対象だった。


 当然。

 街を歩く黒猫なんていないし、いたとしてもすぐ……排除される。

 この世界で黒猫がいるのは、魔女が力を持つ南の国スラドくらいだ。


 私のいる国、西のオーヴェスでは黒猫なんているわけがなかった。

 そういえば魔女といえば。


「レリ-ナに聞きたいことがあるのだけど」


「? 何でしょう」


「この手紙を見てちょうだい」


 近くに置いてあった手紙を裏返しにして渡す。

 怪訝そうな表情したレリーナではあったけど、その手紙を裏返してすぐに顔をそらした。

 そして今度は、爆発物でも見るような目で手紙を読み出す。


 こうして見ていると、レリーナの小動物みたいな反応も可愛い。


「あの……クレアお嬢様? じょ、冗談ですよね?」


「えっと、何が?」


「この手紙っ! 嘘に決まってます! そうですよね!」


 ここで嘘と言うのは簡単だ。

 でも、少しでも生きる可能性があるならば。

 そして、ヴィル様と触れ合う時間ができるなら。


 あまりにも必死なレリーナには悪いけど、ここは残酷な真実を告げよう。


「ごめん、それ本物」


「きゅぅぅ……」


 私が一言伝えただけで、レリーナはノックダウンした。



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