38:魔女の存在意義って?
改稿終わりました! 毎日更新……う、頭が。
昨日にタイムリープしたい。
目の前で頭を下げ続けるメイドを前に、呆然と立ち尽くす。
いくらヴィル様が連れてきたと言っても、私とクレアは別人(の設定)だ。
学園生であるヴィル様はとにかく、私が彼女と会ったことなんてあるわけがない。
メイドさんの反応に「嬢ちゃんは何者だ?」といった声も聞こえてくるし、師匠の「わかってるだろうね?」と訴える無言の威圧が。
なんにせよ、まずは事情を聞くべきね。
「あ……あのー? メイドさんはどうしてここに?」
「ラグドーレ家代表で、私が派遣されてきました」
はい?
それを聞いて、私のみならず、それを聞いていた常連も疑問符を浮かべたに違いない。
どうしてヴィル様のお家からメイドが派遣されてくるのよ?
伯爵家だから使用人が余ってるにしろ、派遣されるだけの理由がない。
……あるとしたら、既に正体がバレている。
あの時はヴィル様に似ていると言われたけど、これじゃ私が本物のクレアって言っているようなものじゃない。
……お手上げね。師匠に相談したい。
そうと決まれば、この場は戦略的撤退よ!
「メイドさんは、ここで働きたいということですか?
ならオーダーと料理の提供をお願いします! 料理は……もうすぐ出てくる男性に任せれば良いので、細かいことはその男性に聞いてください!
ししょー、労働力の相談でちょっと来てください」
「え? あのっ……」
おろおろとあっけにとられるレリーナは放置して、師匠の返事も待たずにクーちゃんを攫って工房へ。
勢いで捲したてれば、誰も追ってこないってもんよ!
すぐさまクロに戻ってもらい、食堂へ送り出す。
……ごめん。これからちょっと優しくするから、そんな目で見ないで。
全てクロに丸投げしたのは、師匠も一緒だったみたい。
私が工房へ引っ込んでから時を置かず、師匠も続いてくれた。
……いいのかな?
てっきり引き継ぎで時間がかかるかと思っていたけど。
「私が言うのもなんですが、クロは放置でよかったので?」
「アイツはあれで一人前だよ。
アタシがいなくても店は回るし、ついでに従業員も必要ないさね」
「それって店主としてどうな……いえ、なんでもないです」
当然のように浮かんだ疑問は、師匠の眼光によって即キャンセルだ。
ぶっちゃけクロ一人でも回せるし。
もう夜はクロだけでいいんじゃない?
「そういや、昼に料理の注文が減ったのはなんでだろうね。
客入りは変わんないのに。アンタ、何か知ってるかい?」
「……たまたまじゃないですか?」
最近は師匠が作った料理より、クロが作った料理が人気だ。
もちろん、それを口に出すような命知らずは店にいない。
いないけど、数字としてあらわれちゃっているのよね……。
師匠にはまだ誤魔化しが効くから、常連は私が守るけど!
そんなことより、今はレリーナへの対処だ。
「あのメイドの彼女は、かつて私のお世話をしてくれた方です。
ヴィル……お兄様かお父様から派遣されたと思いますが、
それって私の正体がバレてるってことですよね?」
「他人の空似でも、屋敷の使用人は提供しないだろ?
つまりそういうことだろうね」
やれやれ。と師匠は諦めた感じになっているけど、そこで諦められたら試合どころか私の人生終了しちゃうんですけど?
町から出ない限りは安全らしいから、向こうからアクションを起こされるまでは傍観でも良いのだけど。
しっかし、今でさえ人数が飽和状態なのに、これ以上労働力が増えたら私の仕事がなくなるよ?
それってつまり。
「これからは魔女の修行に専念できますね!」
「何いってんだい。事情を知らないヤツを雇う気はないよ。
アンタが給金を払うってなら別だが、その場合はアタシも給金を出すのはヤメだね」
ここ最近は、日給銅貨一枚というお小遣い並の給金を貰えるようになったけど。
それでレリーナを雇えって?
銅貨一枚どころか、銀貨一枚必要なんですけど……。
下手したら、私よりも町の子供のほうが稼いでるかもしれない。
「とにかく。行き場がないとしても、ここに置く気はないさね。
アンタも妙なことは考えるんじゃないよ」
「……はーい」
レリーナへの好感度は高い。
私が死ぬとわかったときも、代わりに泣いてくれたくらいだ。
最後にお別れできなかったのが残念だったけど、こうして再会できたなら少しくらいは……という思いもある。
けど、この身は自由ではない。
いきなり押しかけられて嬉しいと言うよりは困惑だし、もしかしたらラグドーレ家からのスパイ、という線もある。
レリーナもクロと同じでハイスペックだから、負担は楽になるけど。
あぁ、魔女の修行が遠のく……。
離れていたのは数十分くらいだった。
食堂に戻る前に、師匠から余計なことを喋らないように教育され、不意にクレアやお嬢様と呼ばれても反応できないよう仕込まれた。
仮にも魔女だというのに魔法ではなく、そりゃあもう物理的に。
そうして食堂に戻ってみれば、あら不思議!
「メイド。次はこれを頼んだ。あちらのお客と、向こうのおっさんだ」
「はい、かしこまりました。
今のところオーダーはありませんので、ヘルプに入りますか?」
「いや、こっちは俺に任せろ。
そのかわり、先輩たちが戻ってくるまで客の相手は頼む」
私はそっと工房へ戻る。
師匠は……あ、突っ立ったままですか。
バレると面倒なので、さっさと工房へ押し込みましょう。
テキパキと動く二人を見てると、うん。
「師匠……私たちって」
「それ以上言わんでいい。アンタも黒猫になるかい?
ただし、ずっとそのままでいてもらうが」
魔女の存在意義、とは?
もう私たち、工房に籠もりっきりでもいいんじゃないかしら。
そうなったら魔女としてレベルアップできるし、師匠も……楽しみを奪うようだけど、真面目に私を育ててくれるはず。
「……なんか、いつもより売上伸びそうですね」
「アンタみたいな紛いモンじゃない、本物のメイドだからだろうさ。
チッ、もう少し時間を置いてから戻るよ」
「はーい」
結局、そのままなし崩しに修行が始まり……食堂へ戻ったのは二時間が経過してからだった。
店? 何の問題もなかったです。
ええ、むしろ売上が増えました。
「散々働かせた後で悪いが、やっぱりここには置けないよ。
こちとら事情があるんだ。わかっておくれ」
閉店後。いつもの会議で、レリーナが言われた言葉がそれだった。
クロに関しては普段よりも早く人間になってもらったので、時間切れでクーちゃんとして同席している。
といっても、置かれたクッションの上で丸まるマスコットだけど。
「そう、ですか……。
でも私は、お嬢……いえ、フレア様の元気なお姿を見ていたいのです」
「あー……。ヴィル様から事情は聞いているようだけど、人違いよ?
それでもいいの?」
これで誤魔化せるとは思っていない。
けど、それでも確認せずにはいられない。
レリーナは静かにこちらを見つめてきたと思うと、ゆっくりと目線を師匠の方へ移動させた。
「はい。フレア様のお姿は見ているだけで……
例え他人だとしても、昔を懐かしんで幸せになれるのです」
昔って、たかが三年前でしょーが。
それにレリーナは二十歳を越えたくらいだろうし、私のことはいいから自分の幸せを探してほしいのに……。
目の前にいる女性に、そんなことは口に出せない。
だって、それはクレアとしての記憶だもの。
「レ、レリ――」
「ここには置けないが、コイツは今日の給金だよ。
もう夜は遅いし、一泊分の金と帰りの馬車台くらいは払ってやる。
宿に案内するから、フレア。いってきな」
その「わかってんだろうね?」と怒りを押さえた視線には逆らえない。
道中は意外にも会話はなかったけど、宿屋で別れる際。
「必ずや、あの魔の手から救ってみせますね」
とだけ、言われて別れた。
魔の手? まさかネクロマンサーな噂を本気にしちゃっているクチ?
少し疑問には思ったけど、レリーナは既に扉の向こうだ。
大して気にも留めずに帰宅した。
後日。
レリーナとは町の住人として馴染んでいた。
なぜに?
熱き血潮のポメラニアン。というパワーワード。
別の短編書いてたら更新忘れていたという凡ミスです。
毎日更新に戻せそうですが、来週はまた泊りがけなんですよね。
書き溜めが作れるかどうか。
展開も停滞気味なので、そろそろ学園側を混ぜたラッシュが始まります。




