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31:じゃれ悩まし

 


「で、明日は学園のはずだけど……」


「お気になさらず。

 きちんと手も打ってありますから大丈夫です。

 ね? レオン先生」


 学園があるから、と昨日帰ったヴィル様の立場は?

 どうせなら、ヴィル様だけ残ってくれたらよかったのに……。

 この人達も学園があるというのに、今日も四人がけのテーブルは埋まっている。

 ただ、ヴィル様がいた場所には代わりにレオン先生が座っているけど。


「俺はお前らの子守じゃねぇ」


「今日はヘカテもいるから安心ね! 全く、私はアルフォンス様をお慕いしているのに来てくれないなんて! ついていないわ」


「あのな。一番ついていないのは俺だからな?」


「まあまあ。私たち生徒を守ってくださる先生です。

 手当も出ているはずですよね?」


 あれからアルフォンス王子は来ないけど、ヴィル様とヘカテは毎週のように通ってくれる。

 ヘカテの目的はクロだけど、ヴィル様の目的は私? でいいんだよね。

 あの時はフラれたけど、東の魔女ヒロイン相手のセリフを言われたってことは期待していいの?


 けど、ヴィル様の内心がわからない。

 私がグイグイせめてもヒラリと躱されるけど、こちらのプライベードはズカズカと聞いてくるのよね。

 師匠に睨まれないよう、設定を考えるのはなかなかの重労働なのよ。


「手当? ヘカテが先生にお金を? ……ハッ、まさか!」


「おい待て。誤解されるようなことは何もないし、別口だからな?」


「別口? またまた怪しい単語が出てきましたね」


「おい……はぁ、もうそれでいい」


 先生が怪しい場所からお金をもらってまで来るなんて。

 周りを見ると、私だけではなく常連さん、クロまでが同じような感想を抱いたみたい。

 レオン先生はその視線に慌てて否定したけど、ますます怪しいわね……。


「言えないが真っ当な金だ! だいたい俺は――」


「今日は泊まっていかないの?」


「はい。このまま夜通し帰ります。先生が同行してくださるので安心です」


「ヘー、でもその先生が一番危ないんじゃない?」


「聞けよお前ら!」


 先生も生徒が心配なら、素直にそう言えばいいのに。

 おそらく手当というのも、彼女たちを護衛するという対価ね。

 ヴィル様と違って、この三人は夜まで居座るらしい。

 何がそんなに楽しいのでしょうね? 学園ってヒマなの?

 まあ、警戒している師匠のおかげで、私も堂々とサボれるのはありがたいけど。


「しかし、いつ来ても昼間はクロ様が不在なのですね……」


「あー、そうね」


 目をそらすようにカウンターへ視線を向けると、黒猫がくわぁ、と欠伸をしたところだった。

 誰にも正体がバレないと安心しきってか、実に堂々とした黒猫クロである。


「カトレアちゃん、あの子さわってみたくない?」


「え、いいのかしら? でも私、動物全般によく逃げられるから……」


「大丈夫よ、あの子は誰からも逃げようとするから。ただ、黒猫が苦手じゃなければ、ね?」


 その言葉にビクッとしたのが一人いたけど、カトレアちゃんに苦手意識はないみたい。

 アルフォンス様共々、黒猫から避けられる傾向にあるらしいけど、師匠と言い黒猫と言い……王族は魔女の天敵とかそういう系なのかしら?

 でもゲームではそんな設定出てこなかったしなー。


 考えながら、黒猫クーちゃんをクッションごと運搬する。

 師匠は何か言いたげにこちらを見ていたけど、何も言わないってことはいいのよね。

 テーブルのど真ん中に置いたら、あとは起こすだけよ。

 ちょんちょん。


「ふにゃぁ……?」


「あ、起きたわ! 眠たげな眼がかわいいわね!」


「フニ゛ャ!」


 クーちゃんが状況把握するよりも、カトレアちゃんが奪い去るスピードのほうが速かった。

 レオン先生も「この俺が……反応できなかっただと?」と呟いていたから、クーちゃんが逃げれなくても仕方ない。

 カトレアちゃんに抱かれ、頬をスリスリされたり身体をモフモフされたり、クーちゃんはされるがままだ。

 黒猫の視線が「売りやがったな……」と訴えてくるけど、私はひゅーひゅーと知らんぷりをする。


「フレア。下手な口笛はやめてくれないかしら?」


「あ、はい」


 さっきまで顔を蕩けさせていたクセに、そこだけ冷静にならないでよ!

 その反応に先生は大笑いしていたけど、いまだ動かぬ石像が残っている。


「ヘカテ、黒猫はまだ苦手?」


「………………はぃ」


 消え去りそうな声だったけど、態度からも拒絶が伝わってくる。

 一度刻まれた苦手意識は、そう簡単に克服できないものね。

 ……あれがクロだと、教えられたら良いのだけど。


「ヘカテが要らないなら、この私が独り占めかしら?

 ねえフレア、このまま持ち帰っても良い?」


「ぬいぐるみならレオン先生が買ってくれますから。

 だからクーちゃんは置いて……いかないでいいかも」


「ニ゛ァァアァア!!」


 どういう意味だ! 

 と、抗議の声が聞こえるようだけど、私は猫語わかりませーん。


 連れて行ってもらえるなら、学園に入り込む真っ当な手段ともいえる。

 本来なら学園でコソコソ活動するはずなのに、まだこんな食堂にいるクーちゃんだ。

 元に戻りたいのなら、さっさと学園にいくべきよ。


「え、いいのかしら? うふふ。

 なら寝る時もお風呂も、いつも一緒ですわ!

 それから可愛らしいリボンをお揃いでつけて、万が一がないように去勢して……」


「ごめんなさいやっぱダメです」


 笑いそうになるのを必死に抑えて、カトレアちゃんの魔の手からクーちゃんを解放する。

 連れて行ってもらうだけでよかったのに、それはいくらなんでもひどい。

 見た目は猫でも、年頃の男女が常に一緒で、お風呂とベッドも一緒。

 え、私? 私はいいのよ、中身がさんじゅ……げふんげふんだし。


 あげくにはリボンと去勢……ぷくくく。

 勢いよく飛び出ていったクーちゃんといい、笑いが抑え切れないわ。


「あぁ……猫ちゃんが去ってしまったわ……」


「うふふふふ。カトレアちゃん、良くやりました!」


 壁のすみっこからフシャー!! と威嚇しているクーちゃんは可愛らしい。

 この前、私の渾身料理を「なんだこれ。残飯は皿に盛るなよ」て馬鹿にしたお返しよ!


 ふふん、と勝ち誇っていると、いつのまにかクーちゃんが消えていた。

 工房へ逃げたわね。また何か言ってきたら、今度からカトレアちゃん専用の抱きぬいぐるみに――。


「おい、フレアちゃん? あの、後ろにな?」


「へ? なんですか先生。何もいませんよ?」


 レオン先生の視線の先へ振り向いても、誰もいない。

 オーダーもないし、師匠すらこっちを見ない。

 ……ん? いつもなら誰かしらと視線が合うのに、おかしいわね。


「フレアさん? あの……」


「今度はヘカテ? なに、何もないわよ?」


 ヘカテが騙すとは思えないけど、やっぱり何もない。

 カトレアちゃんも何か言ってくる? と思えば、じっとこちらを見つめるだけで何も言わない。

 あらら? そんな熱心に見られても困――。




「ひゃぅあぁああっ!!」


 左耳につっこまれた、さわさわとする感覚。

 そして首筋をペロッとした、ザラザラとした触覚。

 反射的にべちん! と異物をはたき落とした先には、まるでやり遂げてやった、とテーブル上で誇らしげにする黒猫が一匹。

 ……そう、貴方が犯人ね。

 この私に気づかれず忍び寄るなんて、やるじゃないの。


「クーちゃん? まさかあなたが、そんな変態さんだとは思いませんでしたよ?」


「ニャーァア」


 ……ほう。応戦してきますか。

 一触即発のような空気が漂い、店内も私たちにつられて深刻な空気になって――いない?

 予想外の出来事に、気がそがれる。


「皆さんどうしたんですか? そんな顔を下にして」


 顔なじみのお客さんだけでなく、同じテーブルにいるカトレアちゃんや、ヘカテまでもが顔を合わせてくれない。

 いきなりどうしたのかしら?

 クーちゃんは何か知っているようで、きょとんとした私の目からサッと視線をそらした。


「んん? えっと……」


「アンタ、あたしの店をどうするつもりだい?」


「ほぇ?」


 誰もしゃべらないので、厨房にいる師匠の声もよく届く。

 ここは素直に「猫カフェ」て言っていいのかしら?


「けっ、妙に色気づいた声を出しやがって。あいつらはしばらく帰れそうもないね」


「え…………えぇ!?」


 よく見ると、カトレアちゃんはプルプル震えているし、ヘカテの耳は真っ赤に染まっている。

 レオン先生……あ、ダメだ。何か無心になってブツブツと唱えている。

 周りの常連の反応は……うん、確認するまでもないわね。

 私の顔もだんだんと火照っていくのを感じる。

 ――よし、羞恥を怒りに変換しよう。


「クーちゃん……やってくれましたね?」


「にゃ……にゃぁ……」




 後日。

 ここの看板娘(自称)は首筋と耳が弱い、と広まっていたけど、その話をする全員にクーちゃんの尻尾をつっこんでやった。

 え、尻尾が汚れた?

 今度はモップにしてあげましょうか?

 あ、媚びるのね……仕方ない、許しましょう。




じゃれあいではなく、愛がないのでじゃれ。

フレアがヴィル様ひと筋なのは変わりません。


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