28:嵐の前の平穏
カトレア・クロワール。
アルフォンス王子のルートにいくと、途端に登場してくる赤髪縦ロールだ。
といっても、見た目が小さいから、そんなご立派なドリルじゃないけど。
ま、アルフォンス王子も見た目は子供っぽいから、そう考えるとカトレアちゃんはお似合いだ。
まさか中身まで子供だとは予想外だったけど。
カトレアは典型的な悪役令嬢だ。
それまで影も形もなかったのに、東の魔女とアルフォンスが仲良くしていると、どこからともなく現れる。
挙げ句には些細な嫌がらせ。物を隠したり、団体行動でボッチにさせられたり。
もう見るからに「悪役令嬢つくりましたー」という当て馬キャラなのよね。
攻略対象には一人ずつ当て馬がいるけど、その中でも一番悪役っぽいキャラなのは評価できる。
その彼女が、だ。
私の前で延々とアルフォンス王子の良さを伝えてくるのだけど……もう寝ても良いかしら?
「でね! その訓練の時、私がケガをしそうになったのを察して抱き寄せてくれたのよ!
もうっ、そのときの温もりったら――」
「よかったですねー」
そんなイベントもあったっけ。
あれはまだ共通ルートだったけど、東の魔女がアルフォンス王子に興味を持つキッカケでもあったわね。
「席が隣になったときなんか、わざと教科書を忘れたフリをして机を――」
「へー」
それも知っている。
その様子を見て、東の魔女が二人は親密な仲なんだなーと勘違いする。
アルフォンス王子は誰にでも優しいので、すぐにその誤解は解けたけど。
「この前なんか――」
「ほー」
「ちょっとフレア! ちゃんと聞いてるの?
アルフォンス様の活躍が聞ける機会なんて、滅多にないのよ! 光栄に思いなさい!」
「聞いてますって」
「そう? それで、あの時は――」
あー、しんどい。
元気になってくれたのは良いけど、こちとら仕事後だ。
なんでカトレアちゃんのノロケ話に付き合わないといけないのよ。
私だって、本当はヴィル様と……。
「――……で、フレアにはいないのかしら?」
「ほぇ?」
ほとんど聞き逃していたせいか、つい間抜けな声が出てしまった。
いつの間にか呼び捨てにされてるし、一体なにがカトレアちゃんの警戒を解いたのだろう?
「いないって、カトレアちゃんの友達ですか?」
「失礼ね! 私にだって友達くらいいるわよ!
いつも私の周りは賑やかだわぁ」
それは取り巻きのことですか? という言葉は飲み込む。
私が知っているはずないし、本人がそう思っているならいいじゃないの。
例え、最後に見限られるとしても……ね。
「じゃあ何のことです?」
「決まっているじゃない! 想い人よ、想い人」
why?
私はヴィル様一筋ですが何か?
うーん、カトレアちゃんはライバルになり得ないけど、教えるかどうかは悩むわね。
私がクレア本人だとバレるわけにはいかないし、頭が弱そうな子にはちょっと。
だって、こっちのデメリットになりそうな予感しか――。
「私にできることなら協力するわ! 今日は迷惑かけちゃったし、次からは学園の知り合いも誘って――」
「私はヴィル・ラグドーレ様をお慕い申しております」
「そ、そうなの? だったら学園でそれとなく伝えておくわ!」
「ただ、昨日フラれてしまいましたの」
これは事実だ。
私の誘いは、間違いなく断られた。
でも、あの後かけられたのはヒロインちゃんが言われるはずのセリフだった。
私に興味を持ってくれたのは確実、だと思いたいけど。
もう少し考えをまとめたかったけど、私がフラれたと聞いて爛々と目を輝かす娘がいる。
……今日は、寝かせてもらえないかも。
カトレアちゃんが寝付いたのは、結局日付が変わる時間帯だった。
明け方には先生が迎えに来るというのに、大丈夫かしら?
二人して朝イチの馬車に乗って帰るらしいけど、先生が一緒なら寝かせたままでも大丈夫ね。
あとはささっと寝て、起きる時間に魔力が活性化するようにセットして、と。
おやすみなさい。
体内で何かが蠢く。
うぅ……師匠に教え込まれたアラーム方法だけど、いつまで経ってもこの感覚には慣れそうもない。
さ、カトレアちゃんを起こしましょうか。
「そろそろ時間ですよー」
「んみゃ……うふふ……あるふぉんすさまぁー……」
うっ、この気持ちは何なの?
同年齢のはずなのに、カトレアちゃんを相手に湧き上がる欲望。
甘やかしていたいような、もっと寝顔を見ていたいような……。
これが、母性?
でも、もうちょっとで先生が来る時間なのよね。
カトレアちゃんの寝巻は私の予備だ。
なのでサイズがブカブカすぎて色々と捲れてしまっている……もちろん、カトレアちゃんが小柄だからよ?
こんな場面を先生に見られたら、それこそ問題になる。
「起きてください。起きて……あ、アルフォンス王子」
「へっ、どこ! どこにいるの!? ……あれ?」
「おはようございます。あとで寝ても良いですが、今は準備をお願いしますねー」
カトレアちゃんもあまり寝ていないはずだけど、寝起きは良いみたいで助かった。
あとはこの子を先生に渡せば、一応の仕事は終わりね。
準備もヨシ、あとは先生が来るまで待つだけ!
まだ朝が早い時間なので、宿屋のお姉さんは寝ているみたい。
事前に朝早く出る、とは伝えてあったのだけど、それでいいのかしら?
そんなことを一人考えていたら、宿屋のドアが叩かれる。
「はーい」
「おっ、今日は宿屋の仕事か? さっそくだがカトレアはどこにいる?」
「あっちで寝てます」
着替えさせはしたけど、下に降りてすぐに待合のソファで寝てしまった。
レオン先生はため息をつくと、手慣れた様子でその眠り姫を肩に担ぐ。
……お姫様抱っこじゃないんですね?
東の魔女はされていたのに、なんとも不憫な。
「昨日はぐっすり眠れたか? コイツが迷惑をかけたんじゃないか?」
「えと、そうですね……」
「……昼間は寝かせてもらえ。魔女様に何かいわれたら、今度レオンが詫びるとでも言ってくれたらいい」
「なんかすみません」
「謝るのはこっちのほうさ。ありがとな」
カトレアちゃんを担いだまま、レオン先生は背中を向けて去っていく。
おそらくあのまま馬車に乗り込むのだろう。
最初の授業には間に合わないだろうけど、二限目くらいなら間に合うかしら?
さすが悪役、周りにかける迷惑がハンパないわ。
お友達? ができました。
あとは別視点を入れて3章はいります。




