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27:お持ち帰りは結構です

 

 カトレアちゃんが奢る金額は、それなりの額になる。

 今は席の半分ほどが埋まっているから、少なくとも銀貨十枚くらいにはなりそうね。

 あれでもお嬢様らしいから、払えるでしょ……多分。


「今回は全員奢りってわかるように誘導されてたし、楽なもんだ。

 さ、賭け金を魔女様に渡すか」


 いつの間にかできていたシステムだけど、ここでは賭け金を全て師匠が回収する。

 基本的には銅貨一枚という、料理も買えない額。

 けど、配当によってそれが高級料理にも化ける……師匠の気分次第で、だけど。

 今回はほぼ全員が当たりなので、エール一杯と交換かな。


「はいはーい。今から私が回収しますよー。

 エール一杯と交換しますので、少々お待ちを」


 ごちそうの前にまずは祝杯だ。

 どんな些細なことだとしても、やっぱりタダ酒は大事よね!

 当たっても私には配られないけど。


 そしてエールを運ぶわけでもないのに、ウロウロするのが一人。


「ちょっと! 誰か私の話を聞きなさいよッ! このまままで許されると――キャ!」


「お前は俺が聞いてやるよ。な、カトレア」


 レオン先生がウィンクをしてきたので、親指を上に立てて返す。

 さすが先生、細かいことまで気が利く!

 あのままだと惨事になりそうだったし、よく周りのことを見ているわ。

 これでだらしなくさえなければ、高評価なのだけど。


 さ、邪魔モノは排除してくれたし、お仕事お仕事。




 結局、落ち着いたのは二時間後くらいだった。


 あれからエールを配り終え、次は皆が頼んだ料理を運び……ついでに通常の注文も受け付ける。

 なんだかんだで時間が経ってしまったけど、そろそろクロの制限時間も来てしまうので切りあげた。

 ……ガミガミ言われ続けているカトレアちゃんも不憫だったしね。


「だいたい、学園でもお前は――」


「おまたせしました。で、どこまで話しましたっけ」


 と言っても、カトレアちゃんが明日どうするか程度の問題しかないのだけど。

 レオン先生に長々と説教され、涙になっていたカトレアちゃん。

 あ、そんなすがるように見られてもここには泊めませんよ?


「俺の家に泊めるのは問題がある。ましてや、俺らが二人して遅刻したらどう思う?」


「仲が良いわね!」


「そういう関係かと疑います」


 先生には妹さんがいるらしいけど、そこは立場の問題だろう。

 休みに生徒を家に連れ込んで、二人して遅刻。

 カトレアちゃんみたいな思考をするる、頭お花畑な方は少数だろう。

 というか、そうじゃないと困る。


「だからここの魔女様に……は、無理そうだな」


「無理ですね。あっ、無事が保障できなくても良いなら大丈夫ですよ。ね?」


「何が、ね? よ! そんなの拒否するに決まってるじゃない!!」


 提供して貰う立場なのに、キャンキャンとうるさい子ね。

 ネズミになってもらえばスペースも取らないし、簡単に閉じ込めておけたのに。ふふふ。


「そんな心配しなくても、宿に一人で泊まるわよ!」


「本当に大丈夫なのか? いっておくが、学園寮とは全く別物だぞ? 

 サポートしてくれる人員もいないんだ。ましてや、宿で襲われる可能性だってある。お前はそれに対処できるのか? 他にも――」


 つらつらとレオン先生は続ける。

 生徒のことが心配なのはわかるけど、この町そんなに治安悪くないですよ?

 ただ、このワガママお嬢様が宿に一人で泊まれる?

 ……できるできないにしろ、宿屋と他のお客さんへの迷惑が心配ね。


 それと、大事なことをまだ話していない。


「あ、そうだ。カトレアちゃん、お金持ってる?」


「馴れ馴れしく呼ばないでよ! そんなの決まっているじゃない。これでも銀貨十枚は――」


「ちょいと足りないけど、仕方ないね。これで許してやるよ」


 自慢げにテーブルへと広げた銀貨は、いつの間にか近くに忍びよっていた師匠に全て回収される。

 気配も感じなかったし、まるで最初から銀貨なんてなかったかのような早業だ。

 その手際の良さに、全員が呆気にとられている間に師匠は去っていった。


「あ、あれ……私の、全財産は……」


「現実を受け入れろ。あれはお前の謝罪として、皆の胃袋に収まった」


 これじゃ師匠が泥棒猫じゃない。

 回収した代金は、賭けの分を抜いてもちょっと足りないかな?

 ま、帰りの馬車の代金も含まれていただろうし、そこは先生に丸投げよ。

 感謝されこそすれ、それで責められるのはお門違いだからね。


「で、無一文のカトレアちゃん。今日の宿と、帰りの馬車はどうするんですか?」


「……ぅ……うぅ……」


「おい待て。泊めるのは無理だが、金は払ってやる。

 だから泣くな。フレアちゃんも、あまりコイツをいじめないでやってくれ」


 アルフォンス王子を追いかけて、他は無計画だったらしいカトレアちゃん。

 もしレオン先生がこの場にいなかったら、どうなっていたのでしょうね?

 ……なんだかんだ、ここに泊めることになってそうだけど。


 トントン、とレオン先生がテーブルを叩いた。

 指さされたほうを見ると、クロが手で合図をしている。

 そろそろクーちゃんに戻る時間が近いのね、切り上げないと。


「すみません、これ以上は」


「そうだな、俺も帰らないとまずい。

 ただ、カトレアを置いていけないのも事実だ。そこで――」


「ここに泊めてくれ、と?」


 もちろん返答はノーだ。

 先回りして予想したのだけど、レオン先生は首を横に振って否定する。


「フレアちゃんが一緒に宿へ泊まって、コイツの面倒をみてやってくれないか。

 もちろん、代金は二人分俺が払う」


「え?」


 それは、ちょっと予想外なんですけど。

 そもそもカトレアちゃんの好感度はゼロよ?

 そんな猛獣と私が、一晩一緒に過ごせるとでも?



 ◇◇◇



「ここがこの町で唯一の宿ですよ。こんばんわー」


「あらフレアちゃんじゃない。何か用かしら?」


 私はいま、カトレアちゃんの手を引いて宿屋にいる。

 お金はレオン先生持ちだけど、何か複雑な気分。

 というのも、この繋いだ手に原因がある。


「二人、一泊でお願いします。ちょっと訳アリで」


「妹ちゃんかしら? 

 わかったわ、ちょうど空いてるから、一番良い部屋に案内しちゃう。

 代金は普通と同じでいいわよ」


「ありがとうございます!

 ほら、カトレアちゃんいくよ?」


 小さくコクン……とうなずくと、素直についてきてくれるけど、これ別人じゃないでしょうね?

 レオン先生が帰ってからというもの、このカトレアちゃんという女の子は一言も喋らない。

 さっきまでの威勢はどこへ? と疑問になるほど、誰に話しかけられてもうつむいているだけ。


 私が何度か話しかけても反応してくれなかったけど、立ち去ろうとしたら服の裾をつかまれたっけ。

 ただし、相変わらず話さない。

 そして離してもくれないので、その場はすぐにあがって宿屋に直行、という次第だ。


 あ、荷物は珍しく師匠が取ってきてくれました。

 やっぱり嵐の前触れなの?




「ほわぁー、このベッドふかふかですよ、ふかふか!」


 こんなベッド、かつてのお屋敷で寝たきりの生活をしていた日以来だ。

 師匠は横になれたら良いって方針だからね。私のベッドも実に簡素なものだ。


「あとは寝るだけね。カトレアちゃん、お風呂いく?」


「………………ようやく二人きり、ね」


 てっきりジェスチャーのみの反応だと思ったのに、何時間かぶりに彼女が声を発した。

 ハッ! まさか。


「や、やめて! 私は貴女に興味ないの!」


「わ、私もアルフォンス様一筋よ!」


 それを聞いて安心した。

 急に喋りだすから、何事かと思ったじゃないの。

 カトレアちゃんは自慢の赤髪ロールをファサっとさせると、まるで宣戦布告をするようにビシっと指を突きつけてきた。


「貴女にアルフォンス様は渡さないわ!」


「どーぞどーぞ。あのお方はカトレアちゃんのほうがお似合いなので」


「えっ、うそ!? うふふ、私がお似合いだなんて」


 何この娘。

 ゲームではただ頭の弱い子だと思っていたけど、実際はチョロ可愛いじゃないの。




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